もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず

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第19話 ロマニとアンナの前世 ロマニ視点

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 そうだ――。俺はロマニだが、ロマニだけではない。
 ニック・ザンデール。それが、かつての俺だった。

 ――ザンデール家は筆頭公爵家で、俺は嫡男――。
 ――生まれながらの勝ち組。成功が約束された存在だった――。

 あの時、までは。
 ……転落の切っ掛けは、とある夜会だった。

((なんということだ……。天使がいる……!))

 その日俺はフェズレ侯爵家の長女・エルーザ――現在のアニーと出会い、あっという間に恋に落ちた。是が非でも、エルーザと夫婦になりたかった。

 ――だがその時すでに俺には、メリアという婚約者が居た――。

 そこで俺はエルーザと結託し、メリアを陥れて彼女を妻とすると決めた。エルーザを暴行したという冤罪で嵌めて婚約破棄を行い、幸せを手に入れようとしたのだ。

 ――けれどその作戦は、大失敗となる――。

「ニック兄さん。そのお話は、嘘ですね?」
「な、何を言っているんだ!! すべて真実だ!! この女はエルーザに暴力を振るっていたんだよっ!! 俺はそれを知って、正義感で動いているだけだ!!」
「いいえ、違います。兄さんは先日――隣にいるエルーザの誕生日に、変装をしてデートをしていました。メリア様が邪魔になったから、排除しようとしているのですよ」

 エルーザのおねだりによって行われた、指輪を買うためのデート。
 俺は特定されないように、現金で購入をした。だが大金を持ち出すところを目撃されてしまっており、不自然に思った弟が尾行。それによってその姿までもを見られてしまい、婚約破棄を宣言した俺が裁かれることとなってしまったのだ。

 ――そうしてニックは廃嫡となり、その後は酷い人生だった……――。

 苦しい時を耐えて自由を得ても、日常は一切戻らない。なまじ顔が知れ渡っていたため常に白い目を浴び続けて……。
 肩身の狭い思いをしながら、生き続けて……。最期はたったひとりで、誰にも見守られることなく……。

「くそぉ……。くそぉ……! どうして、こんなことに……。うぁぁぁぁぁぁ……!!」

 大粒の涙を流しながら、息を引き取ったのだった……。

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