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第3話 内緒話 イナヤ視点
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「わたしに、ですか……? なんでしょう……?」
マティウス様やわたしより一歳年下なのですが、180センチを超える長身と落ち着きのある雰囲気と声音によって、3~4歳ほど年上に感じてしまう美男さん。
これまで二人きりでお話をしたことはなく、ですので少し緊張しつつ首を傾けました。
「…………これからお伝えするものは、私(わたくし)の体験による推測。まずはそちらを念頭に置かれた上で、お聞きください」
「は、はい、承知いたしました」
そこまでの前置きが必要だなんて、きっと大きなことのはず。
いったい、なんなのでしょうか……?
「…………もしかすると……。兄上は、演技をしているのかもしれません」
思った通り。ガブリエル様のお口から出た言葉は、大きな――大きすぎるものでした。
「ルナの件が、お芝居……? 理由を御聞かせください」
「その考えの始まりは、昨夜。兄上の部屋を訪ねた際に、起きた出来事にあります」
『兄上、夜分にすみません。少々よろしいでしょうか?』
『…………ふぁぁ。なんだ……?』
『妹ルナの件なのですが、私にも役に立てることがあるかもしれません。もう少し情報をいただいてもよろしいでしょうか?』
『…………るな? 誰だ、それは……? 誰の妹がルナなんだ……?』
『??? イナヤ様のですよ? 兄上が仰っている、あのルナです』
『ああっ! ルナね! ルナか!! いや~、眠っていたせいで寝ぼけていた! もちろんだ! なんでも聞いてくれ!』
マティウス様はガブリエル様に対して、そう仰られたそうです。
「兄上は寝起きに弱いですし、時にこういった言い方をします。そこには、違和感はありません」
「………………」
「ですがそんな兄上は、『ルナ』を否定されたら血相を変えて激怒するほどに憑依の影響を受けているはず。だとすれば、いくら寝ぼけていたとしても『ルナ』を忘れることはないとは思いませんか?」
「…………思い、ます」
記憶が大きく改竄されるくらい影響を受けていて、異常なくらい『ルナ』に執着しているんです。どんな状態であっても、常に意識の中心にあるはずです。
「意識がまどろんでいる時は影響を受けにくい、そんな可能性もありますが――。『ルナという妹が居る』と演じている可能性の方が、高いと感じます」
「ですね……」
「では、何のためにそうしているのか? その理由を掴むべく、私はこれから兄の周囲に目を光らせるつもりです。卿や御夫人にもその旨をお伝えいただきたいのですが、父や母たちには内密にお願いします」
ガブリエル様曰く、当主ご夫妻は間違いなく味方だそうです。
しかしながらお芝居だった場合は、マティウス様に悟られると非常にマズい。反応などから違和感を覚えられないように、マティウス様の近くに『疑念を抱いている人』を増やしたくないみたいです。
「そちらも、承知しました」
「推測と前置きを致しましたが、私は間違いなく、霊など存在しないと考えております。どうぞご安心を」
「……。ガブリエル、様」
ようやく、分かりました。
もしお屋敷や周りに悪霊がいたら――。そんな不安を拭うために、わざわざお伝えしてくれたのですね。
「お心遣い、痛み入ります」
「当然の行動でございますよ。……長居していたら、怪しまれかねませんね。参りましょう」
「は、はい」
そうしてわたし達はお部屋を出てお父様達に合流し、平常心を心がけて皆様をお見送りしたのでした。
((マティウス様が、お芝居……。なぜ、なのでしょう……?))
マティウス様やわたしより一歳年下なのですが、180センチを超える長身と落ち着きのある雰囲気と声音によって、3~4歳ほど年上に感じてしまう美男さん。
これまで二人きりでお話をしたことはなく、ですので少し緊張しつつ首を傾けました。
「…………これからお伝えするものは、私(わたくし)の体験による推測。まずはそちらを念頭に置かれた上で、お聞きください」
「は、はい、承知いたしました」
そこまでの前置きが必要だなんて、きっと大きなことのはず。
いったい、なんなのでしょうか……?
「…………もしかすると……。兄上は、演技をしているのかもしれません」
思った通り。ガブリエル様のお口から出た言葉は、大きな――大きすぎるものでした。
「ルナの件が、お芝居……? 理由を御聞かせください」
「その考えの始まりは、昨夜。兄上の部屋を訪ねた際に、起きた出来事にあります」
『兄上、夜分にすみません。少々よろしいでしょうか?』
『…………ふぁぁ。なんだ……?』
『妹ルナの件なのですが、私にも役に立てることがあるかもしれません。もう少し情報をいただいてもよろしいでしょうか?』
『…………るな? 誰だ、それは……? 誰の妹がルナなんだ……?』
『??? イナヤ様のですよ? 兄上が仰っている、あのルナです』
『ああっ! ルナね! ルナか!! いや~、眠っていたせいで寝ぼけていた! もちろんだ! なんでも聞いてくれ!』
マティウス様はガブリエル様に対して、そう仰られたそうです。
「兄上は寝起きに弱いですし、時にこういった言い方をします。そこには、違和感はありません」
「………………」
「ですがそんな兄上は、『ルナ』を否定されたら血相を変えて激怒するほどに憑依の影響を受けているはず。だとすれば、いくら寝ぼけていたとしても『ルナ』を忘れることはないとは思いませんか?」
「…………思い、ます」
記憶が大きく改竄されるくらい影響を受けていて、異常なくらい『ルナ』に執着しているんです。どんな状態であっても、常に意識の中心にあるはずです。
「意識がまどろんでいる時は影響を受けにくい、そんな可能性もありますが――。『ルナという妹が居る』と演じている可能性の方が、高いと感じます」
「ですね……」
「では、何のためにそうしているのか? その理由を掴むべく、私はこれから兄の周囲に目を光らせるつもりです。卿や御夫人にもその旨をお伝えいただきたいのですが、父や母たちには内密にお願いします」
ガブリエル様曰く、当主ご夫妻は間違いなく味方だそうです。
しかしながらお芝居だった場合は、マティウス様に悟られると非常にマズい。反応などから違和感を覚えられないように、マティウス様の近くに『疑念を抱いている人』を増やしたくないみたいです。
「そちらも、承知しました」
「推測と前置きを致しましたが、私は間違いなく、霊など存在しないと考えております。どうぞご安心を」
「……。ガブリエル、様」
ようやく、分かりました。
もしお屋敷や周りに悪霊がいたら――。そんな不安を拭うために、わざわざお伝えしてくれたのですね。
「お心遣い、痛み入ります」
「当然の行動でございますよ。……長居していたら、怪しまれかねませんね。参りましょう」
「は、はい」
そうしてわたし達はお部屋を出てお父様達に合流し、平常心を心がけて皆様をお見送りしたのでした。
((マティウス様が、お芝居……。なぜ、なのでしょう……?))
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