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「アンリエット。お前がまさか、元平民の養女だったとはな。そんな劣等な血が流れる人間は、このボクに相応しくない」
6月の9日。私達が出会ってから、2日後――有無を言わさず婚約をさせられてから、2日後の事でした。急に呼ばれてお城に向かうと、ジルベール・デュメン王太子殿下に婚約を破棄されました。
「貴族しか参加できない会に来ていたから、当然貴族の生まれだと思っていた。念のため従者に経歴を調べさせてみたら、予想外の報告があって驚いたぞ」
「……す、すみません……」
私は5歳の時に両親が馬車による事故で他界し、身寄りがなかったため孤児院で育った。そして7歳の頃、女の子供を欲しがっていた今のお父様とお母様の――クラメール家の当主の目に留まり、長女として迎え入れられたのです。
「まったく。下級貴族な時点でかなりのマイナス要素だったのに、その更に下をいくとはな。アンリエット、婚約が決まった時になぜ言わなかったんだ? 養女という事実に、後ろめたさがあったのか?」
「い、いえっ、決してそういうわけではありません! 私は元のお父様とお母様の子として生まれてきたこと、育ててもらったことは誇りに思っていますのでっ!」
決して裕福な家庭ではなかったけれど、たっぷりの愛情を注いでくれた。今でもあの時間、その事実は、大事な大事な宝物です。
「ほう。じゃあ、どうして黙っていたんだ? 理由を、正直に言ってごらん」
「……それは……。その……」
「さっさと返事をしないと、怒るよ? 早く、正直に、言うんだ」
「は、はい……。それは…………ジルベール様が、『君の見た目はこの場の誰よりも美しく、一目で気に入った。結婚できる歳になったら、ボクと結婚しろ』と仰り……。他の部分はお気にされていないと思っていたから、です」
あれは2日前に開かれた、各家の令嬢が強制的に参加させられるパーティー。王太子殿下のパートナーを見つけるための、パーティーのことでした。
先月17になった――参加条件を満たした私は初めて参加し、その際にジルベール様からいきなり求婚をされました。全くの初対面だったので驚きましたし戸惑いましたが、この会の参加者に拒否権はありません。そのため即日婚約が成立し、結婚が可能な18歳になったら式を挙げるようになったのです。
「は? え? なにそれ。要するに、ボクに非があると言いたいのか?」
「そっ、そんなつもりはありませんっ。正直にと仰られましたので、ありのままの事由をお伝えしただけです……っ」
「いやいや。それってやっぱり、ボクのせいって言いたいんだよな? …………ふざけんなよ、元平民」
爽やかだった表情が、一変。肉食獣のように攻撃的な目になって――痛っ。髪の毛を乱暴に掴まれ、間近で睨みつけられました。
「一番下に属していたゴミが、一番上の人間に生意気な口をきくんじゃねえよ。お前は親に、そんな常識すら教わらなかったのか!?」
「や、やめてください……っ。お願い、します……っ」
「ああっ!? こっちは、教わらなかったのか、って聞いてるんだよ!」
髪の毛を掴んだままガクガクと前後に揺さぶられ、まだそれは終わってくれません。
なので私は、たまらず両手を動かして抵抗し――。その行動が切っ掛けとなり、ジルベール様は更に激怒することになります。
「お願いですから……っ。やめて、ください……っ」
「うるせぇ! 大人しく答えろって言って――つぅっ!」
振った手にある爪が顔を引っ掻いてしまい、殿下の右頬にうっすらと傷がついてしまったのです。
ジルベール殿下の自慢の一つが、その優れた容姿で……。瞬く間に怒りが膨れ上がり、爆発してしまいました。
「アンリエット……っ!! 貴様……っっ!!」
「ごっ、ごめんなさいっ。そんなつもりは――」
パンッ。私の言葉は、そんな音によって――ビンタによって遮られ、右頬を思い切り叩いたジルベール様は口元をヒクつかせます。
「アンリエットぉ。今日はもう、屋敷に戻っていいぞ。小さく小汚い家で、ゆっくりと過ごすといい」
「で、殿下……」
「お前にはこれから、たっぷりと地獄を見せやる。王太子を傷付けた罪の重さを、心身に刻み込んでやる。…………覚悟しておくんだな」
殿下はそう口にすると薄笑いを浮かべて顎をしゃくり、私は殿下の従者さんによってお城を追い出されます。そして当然帰り用の馬車は用意してもらえず、1時間近く歩いて家に戻ったのでした。
6月の9日。私達が出会ってから、2日後――有無を言わさず婚約をさせられてから、2日後の事でした。急に呼ばれてお城に向かうと、ジルベール・デュメン王太子殿下に婚約を破棄されました。
「貴族しか参加できない会に来ていたから、当然貴族の生まれだと思っていた。念のため従者に経歴を調べさせてみたら、予想外の報告があって驚いたぞ」
「……す、すみません……」
私は5歳の時に両親が馬車による事故で他界し、身寄りがなかったため孤児院で育った。そして7歳の頃、女の子供を欲しがっていた今のお父様とお母様の――クラメール家の当主の目に留まり、長女として迎え入れられたのです。
「まったく。下級貴族な時点でかなりのマイナス要素だったのに、その更に下をいくとはな。アンリエット、婚約が決まった時になぜ言わなかったんだ? 養女という事実に、後ろめたさがあったのか?」
「い、いえっ、決してそういうわけではありません! 私は元のお父様とお母様の子として生まれてきたこと、育ててもらったことは誇りに思っていますのでっ!」
決して裕福な家庭ではなかったけれど、たっぷりの愛情を注いでくれた。今でもあの時間、その事実は、大事な大事な宝物です。
「ほう。じゃあ、どうして黙っていたんだ? 理由を、正直に言ってごらん」
「……それは……。その……」
「さっさと返事をしないと、怒るよ? 早く、正直に、言うんだ」
「は、はい……。それは…………ジルベール様が、『君の見た目はこの場の誰よりも美しく、一目で気に入った。結婚できる歳になったら、ボクと結婚しろ』と仰り……。他の部分はお気にされていないと思っていたから、です」
あれは2日前に開かれた、各家の令嬢が強制的に参加させられるパーティー。王太子殿下のパートナーを見つけるための、パーティーのことでした。
先月17になった――参加条件を満たした私は初めて参加し、その際にジルベール様からいきなり求婚をされました。全くの初対面だったので驚きましたし戸惑いましたが、この会の参加者に拒否権はありません。そのため即日婚約が成立し、結婚が可能な18歳になったら式を挙げるようになったのです。
「は? え? なにそれ。要するに、ボクに非があると言いたいのか?」
「そっ、そんなつもりはありませんっ。正直にと仰られましたので、ありのままの事由をお伝えしただけです……っ」
「いやいや。それってやっぱり、ボクのせいって言いたいんだよな? …………ふざけんなよ、元平民」
爽やかだった表情が、一変。肉食獣のように攻撃的な目になって――痛っ。髪の毛を乱暴に掴まれ、間近で睨みつけられました。
「一番下に属していたゴミが、一番上の人間に生意気な口をきくんじゃねえよ。お前は親に、そんな常識すら教わらなかったのか!?」
「や、やめてください……っ。お願い、します……っ」
「ああっ!? こっちは、教わらなかったのか、って聞いてるんだよ!」
髪の毛を掴んだままガクガクと前後に揺さぶられ、まだそれは終わってくれません。
なので私は、たまらず両手を動かして抵抗し――。その行動が切っ掛けとなり、ジルベール様は更に激怒することになります。
「お願いですから……っ。やめて、ください……っ」
「うるせぇ! 大人しく答えろって言って――つぅっ!」
振った手にある爪が顔を引っ掻いてしまい、殿下の右頬にうっすらと傷がついてしまったのです。
ジルベール殿下の自慢の一つが、その優れた容姿で……。瞬く間に怒りが膨れ上がり、爆発してしまいました。
「アンリエット……っ!! 貴様……っっ!!」
「ごっ、ごめんなさいっ。そんなつもりは――」
パンッ。私の言葉は、そんな音によって――ビンタによって遮られ、右頬を思い切り叩いたジルベール様は口元をヒクつかせます。
「アンリエットぉ。今日はもう、屋敷に戻っていいぞ。小さく小汚い家で、ゆっくりと過ごすといい」
「で、殿下……」
「お前にはこれから、たっぷりと地獄を見せやる。王太子を傷付けた罪の重さを、心身に刻み込んでやる。…………覚悟しておくんだな」
殿下はそう口にすると薄笑いを浮かべて顎をしゃくり、私は殿下の従者さんによってお城を追い出されます。そして当然帰り用の馬車は用意してもらえず、1時間近く歩いて家に戻ったのでした。
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