私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果

柚木ゆず

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第9話 同時刻、ミレーヌは~お茶会の時に起きていたことと、悲劇の始まり~ 俯瞰視点(2)

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※本日のお話は第9話(1)の続きのため、表記は第9話(2)となっております。




「……………………………………。………………………………」
「み、ミレーヌ。元気を出してくれ」
「げ、元気を出してミレーヌ。ね?」

 自らの行いによって宝物が壊れてしまってから、およそ5分後。室内には物音を聞きつけた父ドミニクと母ノエラが駆けつけていて、ドレッサーの前で呆然となる娘を必死に慰めていました。

「また、新しいブレスレットを買ってあげよう。今度はソレよりも、もっと高いものを買ってあげようじゃないかっ」
「だからミレーヌ、落ち込まないで? 何倍も素敵なブレスレットを買ってあげるから、元気を――」
「出せるわけありませんわ!! お父様とお母様はっ、わたくしがどれだけ大切にしていたか分かってるでしょ!? これの代わりっ、勝るものなんてありませんわ!!」

 これは国一番と称されていた職人に頼んで作らせた、ミレーヌが好きな要素を詰め込んだ一点もの。おまけにその職人にはすでに引退しており、その人物を超える職人はいないため、この穴を埋めることなど出来ないのでした。

「お父様もお母様も他人事だと思って適当な事を言わないで!! これ以上わたくしをイライラさせて何をしたいんですの!?」
「ご、ごめんよミレーヌ……っ。お父さん達は他人事と思ってはいないし、忘れていたのではないんだよ。ミレーヌに元気になってもらいたくて、ああ言っただけなんだ」
「ごめんなさいね、ミレーヌ。不愉快な思いをさせるつもりはなかったのよ。許して頂戴」

 ドミニクとノエラは、ミレーヌが何よりも可愛い。目に入れても痛くない存在でした。そのため八つ当たりをされても怒ることはなく、それどこか逆に、必死になって弁明を行います。

「お父さん達は思い入れをちゃんと理解してて、だからこそ、どうにかして元気になってもらいたいと思っていたんだ」
「ミレーヌ、信じて頂戴。ね? ねっ?」
「………………………………」
「お父さん達にとってミレーヌは、何よりの宝物なんだ。そんなかけがえのない子の気持ちを、煽るような真似はしないよ」
「マリエットならともかく、貴女には決してしないわ。だからどうにか――そっ、そうだわっ。ミレーヌっ、これからお買い物に行きましょっ。お詫びと元気を出しての気持ちを込めて、欲しいものを何でも買ってあげるわ!」
「おおっ、それは名案だ! 丁度明後日は、夜会がある。その際にミレーヌが更に輝くよう、何かしらの装飾品を買おうじゃないか……っ!」

 妹ミレーヌが所属しているお茶会『薔薇の会』のメンバーが公爵家の次男と婚約し、それを祝して公爵家邸でパーティーが行われます。
 公爵家主催ということで上流貴族が多数出席するため、ミレーヌは出会いの場となることを期待していました。そこで機嫌を直しつつ更なる魅力を得られるように、2人は提案したのでした。

「今日は特別に、値段は気にしないぞ……っ。さあ行こうじゃないかっ!」
「なんならそのあとに、外でディナーをしてもいいわねっ。さあミレーヌ、着替えましょっ!」

 父ドミニクと母ノエラは、何よりもミレーヌが大事。そのため良い案が浮かんだこと、そして、

「分かりましたわ。準備を行います」

 愛しのミレーヌがそれに応じたことが嬉しく、舞い上がってしまっていました。
 だから――だったのでしょう。
 高揚と場を盛り上げようとする気持ちが強く働き過ぎてしまい、つい、こんな言葉が出てしまったのでした。

「「これからは、楽しい時間の始まりだ(始まりよ)っ! あのブレスレットのことなんて忘れて・・・・・・・・・・・・・・・・・、家族3人で楽しもうじゃないか!!(楽しみましょ!!)」

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