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第8話 回想~見栄と嫌いな才能~ アーサー視点(2)
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「アーサー大変だっ!! マノンが木から落ちてしまったんだ!!」
あんな理由で落ち込み、食事さえも部屋で摂っていた毎日。それを止めたのは、父上のこんな大声が切っ掛けだった。
ドア越しに響いた父の話によると、どうやら俺のために何かをしていたらしく、学舎にある大きな木に登って落下していた。そのため大急ぎで部屋を飛び出し、マノンが運び込まれた彼女の部屋に飛び込んだのだった。
「マノンっ、なにしてるんだよ!? 大したケガはないみたいだから、よかったけど……っ。俺のためってっ! なにをやってたんだよっ!?」
「お兄さま、ごめんなさい。あのね、わたしはね。お兄さまにね、これを渡したかったの」
頬や手足を擦りむいてしまっている、ベッドに寝かされているマノン。彼女は何も悪くないのに謝って、俺にリンゴを差し出してきた。
「り、りんご……? どうして……?」
「お兄さま。お兄さまは、あの木のリンゴが美味しいって、言ってたよね?」
「う、うん。言ってた……」
一週間前マノンと歩いていたら偶々落ちているのを見つけて、先生に聞いてみたら食べてもいいと言われた。そこで一緒に食べてみたら自分好みで、『今までで一番おいしい』と繰り返していた。
「だから、採りたかったの。……お兄さま。大好きなリンゴ食べて、元気出して?」
「…………………………。マノン…………」
その時の俺は、この子の名を呼ぶことしかできなかった。
だって7歳の女の子が、俺を元気づけるために高い木に登ってさ。危険な目に遭ったのに、ニッコリ笑ってこんなことを言ってくれたんだ。色んなものがこみ上げてきて、何も言えなくなってしまっていた。
「さっきお母さまにお水で洗ってもらってね、すぐ食べられるよ。お兄さまは、かぶりつくのが好きなんだよね? これ食べて、元気出して?」
「…………………………うん。うん。もらうよ。食べるよ」
ようやく反応できるようになった俺は両手で真っ赤なリンゴを受け取り、マノンの前で齧る。そうしたら、今まで感じたことのない甘さが――リンゴの甘さとマノンの優しさが合わさったものが、口から全身へと広がっていた。
「…………………………ありがとう。元気、出たよ」
「えへへ、よかったぁ。……あのね、お兄さま。あとね、お兄さまにお伝えしたいことがあるの」
それによって俺は、心と身体が洗われていた。もう充分すぎるほどのものを、もらっていたのに。
この子はもう一つ、用意してくれていて。俺の考えはまもなく、根本から変わることになるのだった。
あんな理由で落ち込み、食事さえも部屋で摂っていた毎日。それを止めたのは、父上のこんな大声が切っ掛けだった。
ドア越しに響いた父の話によると、どうやら俺のために何かをしていたらしく、学舎にある大きな木に登って落下していた。そのため大急ぎで部屋を飛び出し、マノンが運び込まれた彼女の部屋に飛び込んだのだった。
「マノンっ、なにしてるんだよ!? 大したケガはないみたいだから、よかったけど……っ。俺のためってっ! なにをやってたんだよっ!?」
「お兄さま、ごめんなさい。あのね、わたしはね。お兄さまにね、これを渡したかったの」
頬や手足を擦りむいてしまっている、ベッドに寝かされているマノン。彼女は何も悪くないのに謝って、俺にリンゴを差し出してきた。
「り、りんご……? どうして……?」
「お兄さま。お兄さまは、あの木のリンゴが美味しいって、言ってたよね?」
「う、うん。言ってた……」
一週間前マノンと歩いていたら偶々落ちているのを見つけて、先生に聞いてみたら食べてもいいと言われた。そこで一緒に食べてみたら自分好みで、『今までで一番おいしい』と繰り返していた。
「だから、採りたかったの。……お兄さま。大好きなリンゴ食べて、元気出して?」
「…………………………。マノン…………」
その時の俺は、この子の名を呼ぶことしかできなかった。
だって7歳の女の子が、俺を元気づけるために高い木に登ってさ。危険な目に遭ったのに、ニッコリ笑ってこんなことを言ってくれたんだ。色んなものがこみ上げてきて、何も言えなくなってしまっていた。
「さっきお母さまにお水で洗ってもらってね、すぐ食べられるよ。お兄さまは、かぶりつくのが好きなんだよね? これ食べて、元気出して?」
「…………………………うん。うん。もらうよ。食べるよ」
ようやく反応できるようになった俺は両手で真っ赤なリンゴを受け取り、マノンの前で齧る。そうしたら、今まで感じたことのない甘さが――リンゴの甘さとマノンの優しさが合わさったものが、口から全身へと広がっていた。
「…………………………ありがとう。元気、出たよ」
「えへへ、よかったぁ。……あのね、お兄さま。あとね、お兄さまにお伝えしたいことがあるの」
それによって俺は、心と身体が洗われていた。もう充分すぎるほどのものを、もらっていたのに。
この子はもう一つ、用意してくれていて。俺の考えはまもなく、根本から変わることになるのだった。
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