上 下
17 / 54

第10話 エリス エリス クリストフ視点(2)

しおりを挟む
『ええ、そうなんです。家の都合で諦めていたのですが…………リッカ――わたしの大切な人が頑張ってくれて、可能になったんです』

 実はエリスには、幼い頃から恋をしていた男がいて……。
 夏季休暇を利用して帰国した際に……。『うれしい知らせ』というものが、彼女のもとに届いて……。婚約を、結んでいたのだった……。

『………………………………』
『それぞれ別の相手と話が進んでいて、もう諦めていたんです。でも諦めなくてよくなって、幸せです。夢みたい』
『………………………………』
『? クリストフ、さん……? わたしの声が、聞こえていますか……?』
『………………………………』
『??? クリストフさん? クリストフさん?』
『………………………………え? あ、う、うん、聞こえているよ。だとしたら君はその人と結婚するのかな? 他の男性と結婚するつもりはないのかな?』
『……え? ?? わたしはリッカと婚約をしましたから、リッカと結婚をするようになりますよ……?』
『………………………………た、例えばだよ。たくさんお金を持っていて自分が欲しいと感じたものを何でもすぐに買ってあげるよと言う人が目の前に現れた場合はどうするのかな? 気持ちががらりと変わってその人と婚約と結婚をしたいと思うようになる?』
『??? い、いえ、なりませんよ……? お金や物よりも大切なことですし、なにより、そのお話は正式に決まっています。家と家の決定を、わたしの独断で変えることはできませんよ』
『そ、そうだよね。あははははははははははははははははは。……………………………………』

 そのあとの出来事は、よく覚えていない。
 気が付くと僕は自室のベッドで天を仰いでいて、そこからは信じられないくらい時間の流れが速かった。

 ――いつの間にか秋になっていて――。
 ――いつの間にか冬になっていて――。
 ――いつの間にか卒業試験を受けていて――。
 ――いつの間にか卒業をしていて――。
 ――いつの間にか帰国していた――。

 体感1日、いや、それ以下かもしれない。
 気付くと僕は生家に戻っていて、それからも抜け殻のような生活は続いた。

 趣味である買い物をする気も起きない。
 友人の誘いに応える気も起きない。

 自室からぼんやりと窓の外を眺める。食事を摂る。どうしても参加しないといけないパーティーにだけしぶしぶ参加する。寝る。
 この繰り返しで、僕はもうこのまま人生を終えるのだと思っていた。
 あの時までは。
 あの人間に、会うまでは――。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ラブ×リープ×ループ!

青春 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:15

詩集「支離滅裂」

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:349pt お気に入り:1

幸介による短編恋愛小説集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:57,863pt お気に入り:53,896

死が見える…

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

顔面偏差値底辺の俺×元女子校

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

処理中です...