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第26話 因果応報~イアサントの場合~ 俯瞰視点(3)

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「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 薄暗く小汚い、狭い部屋。そんな空間の真ん中で、髭や髪が汚らしく伸びた中年男性が絶叫していました。
 彼の名前は、イアサント。
 かつてローレラル子爵家の当主を務めていた男です。

「えみりあああああああああああああああああああああああああああああああん!!」

 そんな彼は今からちょうど1年前の今日、旧友の息子であるエミリアンによって追放されてしまった。自己中心的な行動を取り続けたために、なにもかもを失う羽目になってしまっていたのです。

「俺からすべてを奪いやがって……! 殺す……! 殺す……っ! 殺してやる……!!」

 頭の中にエミリアンを思い浮かべ、何度も何度も殺害します。
 エミリアン=この世で一番憎んでいる人間。
 口にするだけではなく、想像するだけではなく、実際に殺害したいと思っています。
 ですがイアサントは、そうすることはできません。
 なぜならば――

 ここは山の頂上付近にある山小屋だから。

『むぐがあぁあああああああああああああああああああああああああああ!!』

 お屋敷から引っ張り出されたイアサントが連れていかれたのは、『ボリルクル山』というシルスアルズ子爵家所有の山。そこはそれなりに標高があり、彼は地理がまったく分からない。おまけに中域には獰猛な獣が生息していると聞かされていため、単独かつ登山装備も武器も持っていないイアサントは降りたくても降りられないのです。

「くぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 なのでできることは、このくらい。
 朝起きる。水と食料を探す。見つけて小屋に戻って来る。食べる。呪詛を吐く。寝る。
 ここに運ばれてきた日からずっと、これらを繰り返しているのです。

「えみりあんんんんんんんんんん!! しねえええええええええええええ!! ころしてやるうううううううううううう!! しねええええええええええええええ!!」

 誰も助けてくれはしませんし、冒険する勇気もないため、いつまでもこのまま。
 今日も明日も明後日も。来週も来月も来年も。いつまでもこのまま。

「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 元ローレラル子爵家当主・イアサント。彼はこれまでの全ての行いの報いを受けてしまい、保証されていたはずの平穏な未来が崩壊してしまったのでした――。


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