最愛の妻の元家族達が、ちょっかいを出しにやってくるので

柚木ゆず

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第4話 忍び寄る魔の手 マルスリーヌ視点(1)

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「『絶品クロワッサン』、上がりました。お願いします!」
「了解です! お客様、お待たせいたしましたっ! 本日3度目の焼き上がりになります!」

 午後3時ちょうど。店内に新たな良い香りが漂い始め、それを合図に5人のお客様が集まってきてくださりました。
 わたしが初めて訪ねた時からずっと一番人気のパン、師匠さん直伝だというクロワッサン。こちらはお客様達の熱い要望によって、ジェルヴェさんに用事がある日を除き、午前10時、午後1時、午後3時の3回、出来立てを購入できるようになっているんです。

「待ってました! 今日はねえ、コレが大好きな孫が来てくれるのよ。喜ぶ顔が目に浮かぶわ」
「そうだったのですねっ。一役買えて光栄です」
「好き嫌いが多い小食な子だからねぇ、そういう意味でも本当に助かっているよ。ありがとうねえ」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「作り手として、最高の賛辞をいただきました。いつもありがとうございます」
「ありがとうございます~!」

 お手伝いをしてくれていたランベールと、なぜか厨房スペースから出て来ていたジェルヴェさんと共にお礼を行い、お客様が退店されたタイミングで首をかしげました。

「この時間表に出てくるのは、珍しいですね。どうしたんですか?」
「ああうん。量りが壊れちゃって、これから買いに行ってこようと思ってるんだ。これ以上遅くなると、店が閉まっちゃうからね」

 そういったものを取り扱っているお店は、少し遠くにあります。今から出ないと間に合いませんね。

「分かりました。お店は任せてください」
「まかせてくださ~いっ!」
「ありがとう。マルスリーヌ、ランベール、僕がいない間頼みます」

 ジェルヴェさんはこういう時、いつもそうなんです。わざわざわたし達に頭を下げてくれて、ランベールの頭を撫でたあとバックヤードに下がっていって――

「待ってください! ……え?」

 ――その姿を見送っていた時でした。突然、無意識的に声が出ました。

「? ママ? どーしたのー?」
「? マルスリーヌ?」
「…………? 気が付いたら、声が出ていて……。これは……。なぜ、でしょうか……。行ってほしくない、という気持ちがあります……」

 ジェルヴェさんと一緒にいたい。から、ではなくて……。
 ジェルヴェさんが出ていったらいけない。そんな思いが、いつのまにか生まれていました。


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