10 / 31
第3話 ソフィア視点(1)
しおりを挟む
翌日の朝、午前7時過ぎです。わたしは理由を偽って一度お屋敷に戻り、念のため外部に悟られないようコッソリと抜け出し、メリッサさんが操る馬車で『ハユラ山』――3キロほど離れた場所にある山を訪れました。
犯人特定に必要な薬を早く作りたいのですが、現状で一番必要なのは排毒用の薬ですからね。今日はそちらの材料と、この山で採れる『本命』の材料の一部を入手したいと思います。
「メリッサさん。本日はよろしくお願い致します」
「ソフィアの頼みなら、なんでもするわよ。荷物持ちや道案内は、任せて頂戴」
同じく念のために私服姿で籠を背負ってくれているメリッサさんが、地図を片手にはにかんでくれました。
フィアナとして生きて生涯を終えて、およそ100年。その間に各地の様相は大きく変化してしまったため、前世の記憶があっても案内が必要なんですよね。
「メリッサさんにはいつもいつも、助けられます。ありがとうございます」
「ソフィア様は大切な主で、ソフィアは可愛い妹だもの。出来る限りのことはしたくなるのよ。しかも今回は、未曽有の危機だもんね」
山道を歩き始めて少しすると、整った美しい眉が寄りました。
アシル様こと王太子殿下の、毒殺計画。これはわたし達だけではなく、国としても大きな問題です。
「とはいえ犯人にとっては、ソフィアがあのフィアナ様だった事は大誤算よね。その話を耳にした時は、あたしも呆然となっちゃったわ」
「わたしも最初は、戸惑いました。今更なのですが、こんな出来事があるんですね」
「愛の力が起こした奇跡、よね。あたしは自伝の知識しかないんだけど、あの内容を見たら納得できるわ」
死の間際に指切りをして、再会を誓い合う。
あの時のわたし達は心の奥底から、強く、強く願いました。自分で言うのは変なのですけど、想いが因果をコントロールしたのですね。
「最愛の人と結ばれ死別するも、次の出会いを信じて世界一の薬師になった女性。あたしも幼い頃から憧れの人で、ライアンと恋人になれたのもフィアナ様のおかげなのよ」
「え、そうなのですか? 初耳です」
二手に分かれた道を右に進みながら、左隣に顔を向けます。
メリッサさんは自分の恋に関する話はあまりしたがらない人なので、全然知りませんでした。そんなことがあったのですね。
「これは、小さい頃の話なんだけどね。家の事情で一度、離れ離れになっちゃったの。その時あたしは『もう会えないんだ……』『だったらもう、生きていても……』と、酷く落ち込んでしまったのよね」
「……離れ離れ……。つらい、ですよね……」
「だけどその時自伝に出会い、フィアナ様が仰った『愛があれば絶対に再会できます』で考えが変わった。そうしてあたしは諦めずに前を向いて生き続け、今はこうして恋人になって、来月には結婚をすることになった。現在のあたし達があるのは、フィアナ様――ソフィアのおかげなのよ」
メリッサさんは照れ臭そうに口元を緩め、ぎゅっと。強く優しく、左の手を握ってくださいました。
「だからそういう意味も込めて、全力でサポートさせてもらうわ。もうすぐ生息地に着くから、到着したらなんでも指示を出してね」
「…………はい、ありがとうございます。頼りにさせてもらいますね」
わたしもその手を握り返し、二人で笑い合って暫く前進。青い空の下を4分ほど進むと木々が多く若干湿った場所に入り、いよいよです。採取を始めたのでした。
犯人特定に必要な薬を早く作りたいのですが、現状で一番必要なのは排毒用の薬ですからね。今日はそちらの材料と、この山で採れる『本命』の材料の一部を入手したいと思います。
「メリッサさん。本日はよろしくお願い致します」
「ソフィアの頼みなら、なんでもするわよ。荷物持ちや道案内は、任せて頂戴」
同じく念のために私服姿で籠を背負ってくれているメリッサさんが、地図を片手にはにかんでくれました。
フィアナとして生きて生涯を終えて、およそ100年。その間に各地の様相は大きく変化してしまったため、前世の記憶があっても案内が必要なんですよね。
「メリッサさんにはいつもいつも、助けられます。ありがとうございます」
「ソフィア様は大切な主で、ソフィアは可愛い妹だもの。出来る限りのことはしたくなるのよ。しかも今回は、未曽有の危機だもんね」
山道を歩き始めて少しすると、整った美しい眉が寄りました。
アシル様こと王太子殿下の、毒殺計画。これはわたし達だけではなく、国としても大きな問題です。
「とはいえ犯人にとっては、ソフィアがあのフィアナ様だった事は大誤算よね。その話を耳にした時は、あたしも呆然となっちゃったわ」
「わたしも最初は、戸惑いました。今更なのですが、こんな出来事があるんですね」
「愛の力が起こした奇跡、よね。あたしは自伝の知識しかないんだけど、あの内容を見たら納得できるわ」
死の間際に指切りをして、再会を誓い合う。
あの時のわたし達は心の奥底から、強く、強く願いました。自分で言うのは変なのですけど、想いが因果をコントロールしたのですね。
「最愛の人と結ばれ死別するも、次の出会いを信じて世界一の薬師になった女性。あたしも幼い頃から憧れの人で、ライアンと恋人になれたのもフィアナ様のおかげなのよ」
「え、そうなのですか? 初耳です」
二手に分かれた道を右に進みながら、左隣に顔を向けます。
メリッサさんは自分の恋に関する話はあまりしたがらない人なので、全然知りませんでした。そんなことがあったのですね。
「これは、小さい頃の話なんだけどね。家の事情で一度、離れ離れになっちゃったの。その時あたしは『もう会えないんだ……』『だったらもう、生きていても……』と、酷く落ち込んでしまったのよね」
「……離れ離れ……。つらい、ですよね……」
「だけどその時自伝に出会い、フィアナ様が仰った『愛があれば絶対に再会できます』で考えが変わった。そうしてあたしは諦めずに前を向いて生き続け、今はこうして恋人になって、来月には結婚をすることになった。現在のあたし達があるのは、フィアナ様――ソフィアのおかげなのよ」
メリッサさんは照れ臭そうに口元を緩め、ぎゅっと。強く優しく、左の手を握ってくださいました。
「だからそういう意味も込めて、全力でサポートさせてもらうわ。もうすぐ生息地に着くから、到着したらなんでも指示を出してね」
「…………はい、ありがとうございます。頼りにさせてもらいますね」
わたしもその手を握り返し、二人で笑い合って暫く前進。青い空の下を4分ほど進むと木々が多く若干湿った場所に入り、いよいよです。採取を始めたのでした。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
613
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる