俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?

柚木ゆず

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第1話 騒然となる会場 クラリス視点

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「これは一体……!? なっ、何があったのですかな!?」
「リディック卿……。マリエット様が突然、『先日婚約したという噂は本当なのか?』と仰られまして……。事実ですので肯定を行ったら、激しくお怒りになられたのです……」
「ちっ、違いますわ……っ。この方っ、エルミーヌ様はっ、わたくしをコッソリとバカにしましたの! だからっ、つい頭に血がのぼってしまってっ! こんなことになってしまったのですわっ!」
「いいえ。わたくし、一部始終を見ておりましたわ……。ご本人の前では、お伝えしにくいお話なのですが……。自分より格下である男爵家のエルミーヌ様が、あの・・ハネットス侯爵家の一員となることが面白くなかったようでして……。自ら声をかけられたあと、手を上げられてしまったのです……」

 駆け付けた主催者にエルミーヌ・リーフェア様が震えながら応え、マリエット様が否定。それを偶々近くにいらっしゃった、サレズ子爵家のアニー様が否定された。

((今の言い分は、リーフェア様とサレズ様が正しい。マリエットルアール様は嘘を吐いているわね))

 ルアール様は学院時代同じ学年に籍を置かれていて、よく存じ上げている。その理由は確か、格下のくせに人気があって腹が立つ、だったと思う。ルアール様はリーフェア様に嫉妬して、ことあるごとに一方的にライバル視していた。
 けれどテスト、ダンス、楽器など全ての分野で負けていて、『家の地位は上』『家の財力は上』というものだけが勝てる部分だった。今回はそんな砦が同時に崩れ落ちてしまったため、我慢できなかったのでしょうね。

「ちっ、違いますわ! この方達は秘密裏に結託をしていますわっ!! わたくしに濡れ衣を着せっ、我がルアール家の弱体化を図っているのですわっ!!」

 貴族界は、蹴落とし合いが日常茶飯事。他家の弱体化を虎視眈々と狙っている人間が多数存在していて、ルアール家はそれなりの財を所有する子爵家。
 財力を武器にすれば格上との渡り合える力を持つ家で、確かに、目の上のたんこぶと思っている家は多いでしょうね。
 なのでそう言えば誤魔化せると考えたみたいだけれど、それは無駄。わたしも遠くで見ていたのだけれど、平手打ちが発生したのは接触して十秒以内。声をかけられたリーフェア様がいきなり悪口を返すだなんて、あまりにも不自然なのだから。

「……この件は場の責任者であるわたしが、間に入って解決に導くとしよう。エルミーヌ嬢、マリエット嬢、アニー嬢も、こちらに来てくれ。……参加者の皆様、大変申し訳ございません。今宵の会は、ここまでとさせていただきたく思います」

 なので場内の誰からも同調を得られず、3人は別室へと消えていって――。その後マリエット・ルアールの嫉妬による平手打ち事件は、瞬く間に拡散したのだった。


((クレランズ様、貴方の婚約者が大問題を起こしましたよ? 貴方は『彼女を一生涯愛し護り続ける』と仰っていたので、一生懸命愛し護ってあげてくださいね?))

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