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第12話 婚約発表のあとで クラリス視点
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「クラリス様。風が、面白いニュースを届けてくれましたよ」
オルヴァス侯爵家邸内で開かれた、わたし達の婚約発表のためのパーティーの終了後。ティレア家の関係者、オルヴァス家の関係者など、多くの方々に祝福をされたあとのこと。
最後のお一人への見送りが終わって一息ついていたら、セレスタン様がいらっしゃられました。
「風。そちらはもしかして、クレランズ様にまつわるものでしょうか?」
「ええ、そちらに関するものです。彼と当主殿は本日、隣国で転落死した――。そういったものが流れてきました」
隣国での会談に遅れそうになって、移動時間を短縮するべく普段は通らない険しい道を選択した。その結果、そういった事態が発生したそう。
「普段は通らない、険しい……。不自然ですね」
「ああいった人間は、どんな時でも自身へのリスクを排除します。そして、このタイミングですので。死亡したと見せかけ、リセットしたのでしょうね」
どうせ酷い状況になるのなら、マリエットなんかと生涯を共にするくらいなら、全て捨ててやり直した方がマシだ。セレスタン様はそういった選択をすると予想し、実際にこういったことが起きた。
そのため生きていると確信されており、わたしも頷きを返しました。
「不自然にならないようワザと出発を遅らせ、深い谷に馬車を落として死体の発見もできないようにした。それらは完璧ですが――恐らく彼らは、決定的なミスを犯してしまっています」
「ミス、ですか? なんなのでしょう……?」
「彼らには充分な資金がなく、しかしながら、一から生活の場を作るにはかなりの額が必要になります。そこで屋敷内からそれなりの数の貴重品を持ち出していて、そちらに気付かれるのは時間の問題。マリエットは真っ先に違和感を覚えて、やがては僕と同じ予想をするでしょうね」
他貴族との会談に、貴重品は要らない。嫌がっていたこともあって、『自分から逃げた』――。そこに至るのは、必然的です。
「そうするとジェラールを異様なまでに愛するマリエットは、マリエットを溺愛する父アドンは、どうするのでしょうかね? 続報に期待しましょう」
セレスタン様は大きな窓の外を眺めて肩を竦め、お話が終わるとわたし達は移動を始める。手を取り合って気品漂う廊下を進み、やがて一つの扉の前で立ち止まり、セレスタン様の先導によって室内へと入ります。
家具や絵画がセンス良く配置された、シックにまとめられたお部屋。こちらは、セレスタン様の自室。現在は、両家の当主が――おじ様とお父様が対話を行っていて、それが終わるまでこちらでくつろぐことになったのです。
「今夜は先日のお返しとして、僕が紅茶とお茶菓子をご用意します。……お菓子作りは初めての試みでしたので、完成度に期待はしないでくださいね?」
「セレスタン様が作ってくださったのですか!? わざわざありがとうございます……っ」
「大切な方のためなら、一つでも多く何かをしたくなってしまうのですよ。少々お待ちくださいね」
そうして退室されたセレスタン様はベルガモットとラング・ド・シャを運んで来てくださり、夜のティータイムが始まりました。
傍に居るのは最愛の人で、そんな方の愛を味わうことができる。なので幸せにならないはずはなくって――。
わたしの心は今日も、幸せで満ち溢れたのでした。
オルヴァス侯爵家邸内で開かれた、わたし達の婚約発表のためのパーティーの終了後。ティレア家の関係者、オルヴァス家の関係者など、多くの方々に祝福をされたあとのこと。
最後のお一人への見送りが終わって一息ついていたら、セレスタン様がいらっしゃられました。
「風。そちらはもしかして、クレランズ様にまつわるものでしょうか?」
「ええ、そちらに関するものです。彼と当主殿は本日、隣国で転落死した――。そういったものが流れてきました」
隣国での会談に遅れそうになって、移動時間を短縮するべく普段は通らない険しい道を選択した。その結果、そういった事態が発生したそう。
「普段は通らない、険しい……。不自然ですね」
「ああいった人間は、どんな時でも自身へのリスクを排除します。そして、このタイミングですので。死亡したと見せかけ、リセットしたのでしょうね」
どうせ酷い状況になるのなら、マリエットなんかと生涯を共にするくらいなら、全て捨ててやり直した方がマシだ。セレスタン様はそういった選択をすると予想し、実際にこういったことが起きた。
そのため生きていると確信されており、わたしも頷きを返しました。
「不自然にならないようワザと出発を遅らせ、深い谷に馬車を落として死体の発見もできないようにした。それらは完璧ですが――恐らく彼らは、決定的なミスを犯してしまっています」
「ミス、ですか? なんなのでしょう……?」
「彼らには充分な資金がなく、しかしながら、一から生活の場を作るにはかなりの額が必要になります。そこで屋敷内からそれなりの数の貴重品を持ち出していて、そちらに気付かれるのは時間の問題。マリエットは真っ先に違和感を覚えて、やがては僕と同じ予想をするでしょうね」
他貴族との会談に、貴重品は要らない。嫌がっていたこともあって、『自分から逃げた』――。そこに至るのは、必然的です。
「そうするとジェラールを異様なまでに愛するマリエットは、マリエットを溺愛する父アドンは、どうするのでしょうかね? 続報に期待しましょう」
セレスタン様は大きな窓の外を眺めて肩を竦め、お話が終わるとわたし達は移動を始める。手を取り合って気品漂う廊下を進み、やがて一つの扉の前で立ち止まり、セレスタン様の先導によって室内へと入ります。
家具や絵画がセンス良く配置された、シックにまとめられたお部屋。こちらは、セレスタン様の自室。現在は、両家の当主が――おじ様とお父様が対話を行っていて、それが終わるまでこちらでくつろぐことになったのです。
「今夜は先日のお返しとして、僕が紅茶とお茶菓子をご用意します。……お菓子作りは初めての試みでしたので、完成度に期待はしないでくださいね?」
「セレスタン様が作ってくださったのですか!? わざわざありがとうございます……っ」
「大切な方のためなら、一つでも多く何かをしたくなってしまうのですよ。少々お待ちくださいね」
そうして退室されたセレスタン様はベルガモットとラング・ド・シャを運んで来てくださり、夜のティータイムが始まりました。
傍に居るのは最愛の人で、そんな方の愛を味わうことができる。なので幸せにならないはずはなくって――。
わたしの心は今日も、幸せで満ち溢れたのでした。
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