どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず

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第13話 二人にとっての予想外が起きた理由~1時間半も早い帰り~ 俯瞰視点

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「旦那様、お帰りなさいませ。随分とお早い御戻りで、驚いてしまいました」
「すまんすまん。どうしてもパーティーに顔を出したくてな、予定を早めて帰路についていたのだよ」

 今から、およそ10分ほど前のこと。ぺティノール侯爵邸のエントランスでは、当主レオンと家令であり旧友のヴァンソンが、にこやかに笑い合っていました。

「おや、お嬢様とのお約束がおありだったのですね。存じ上げておりませんでした」
「いや、そうではないのだよ。ソレはわたしの独断でな、今日の外出中にふとそうしたくなったのだよ」

 レオンは微苦笑を浮かべてゆっくりと首を左右に振り、後方にいた護衛を一瞥します。そうすれば護衛は恭しく真白の箱を差し出し、レオンは頷きながらそちらを受け取りました。

「旦那様? そちらは……?」
「これは最近令嬢の間で人気を博しているという、『ハーベスト』という洋菓子店のエッグタルトだ。パーティーの参加者への――アリシア嬢への、ちょっとした贈り物なのだよ」


『お父様。実は、アリシア・サーディアル様も御招待をしようと考えているのですが……』

『わたくしはアリシア様と同級生でして、お人柄をよく存じ上げております。噂は間違いなのだと、確信しております』

『とはいえ証拠がないため、表立っての否定であり擁護はできませんが……。せめて……。傷付いてしまった心を、あの方が大好きな音楽で、僅かでも癒して差し上げたいんですの』


 ヴァイオレットはアリシアを招待できるようにするため、管弦楽団を呼べるようにするため、そして――万が一の際に『告げ口』をできないようにするために、こういった嘘を並べていました。
 その結果レオンはアリシアを気にかけるようになっており、プレゼントをしようと思い立ったのです。

「噂を聞きアリシア嬢に非があると思っていたのだが、ヴァイオレットが否定していてな。わたしも『同級の勘』を信じることにしたのだよ」
「あぁ。そうだったのでございますね」
「3家が関わる問題であり潔白の証拠がない故に、首を突っ込むことはできん。だがそれでも、ヴァイオレットが今まさにそうしているように、励ますくらいはできるからな。立ち寄ってきたのだよ」

 本日分のタルトは残り3つだったらしく、危うく無収穫となるところだったよ――。そんなやり取りをヴァンソンと行い、着替えなどを済ませたレオンは再び移動を開始。歩を進めて廊下や階段を通ってゆき――

「参加者の皆様、邪魔をして申し訳ない。アリシア・サーディアル嬢と、少々話をしたいのだよ」

 そうして、パーティー会場に姿を現したのでした。

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