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第4話 嬉しい来訪~約束と~ ステラ視点(1)
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「ステラ様。最高金賞受賞、おめでとうございます」
マーティン様が去られたあとのこと。私は邸内に設けられた『演奏室』に居て、正装ヴィクター様から薔薇の花束をいただいていました。
ヴィクター様はコンクールに同行してくださっていたのですが、その日は――その日から今日までは、どうしても外せない御用事が入っていたそうです。そのため私の演奏が終わった直後に会場を離れられていて、昨日『明日お祝いに伺わせていただきます』というお手紙が届いていたのです。
「『今までで一番の演奏ができます』、あの日の演奏はそのお言葉通りでしたね。我々観客は魂を揺さぶられ、ステラ様の紡ぐ音色に酔いしれていました。生涯忘れられない音が、また一つ増えました」
「私の心を救ってくださったこと、新たな可能性を見つける切っ掛けを作ってくださったこと。……あの音色を出せたのは、ヴィクター様が居てくださったからです」
楽器は――ピアノが生み出す音は、奏者の技術とその際の『心の状態』が大きく影響します。ですのでこれは、謙遜でもお世辞でもありません。
この結果は、私だけの力でもたらしたものではないのです。
「ヴィクター様は、私の心も調律してくださいました。改めて……ありがとうございます。これからも、よろしくお願い致します」
「喜んで。貴方様が必要としてくださる限り、全身全霊で以て支えさせていただきますよ」
ヴィクター様は私が伸ばした手を優しく取り、流麗に片膝をついて応えてくださりました。そうして、そのあと――?? 空いている左手を懐へと動かされていたのですが、その手が突然止まってしまいました。
(このタイミングでと、決めていたのだけれど……。恐らく、アレはそういうことだ。今はそうすべきではないね)
「ヴィクター様? どうかなさいましたか?」
「ステラ様。先ほど僕は、リッダジア侯爵家の馬車を目にしました。もしやマーティン様が、いらっしゃっていたのですか?」
「……はい、そうなんです。私と――最高金賞と文化勲章を得た私と、関係を修復したいそうです」
本日の来訪の目的と、捏造だと否定を始めたこと。一部始終をお伝えしました。
「やはり、そうでしたか。しかも、全く諦めていないのですね」
「あの報告書は間違っている、それを証明するから待っていてくれ。そう仰られました」
「マーティン・リッダジア。どこまでも醜悪で、面倒な方ですね……」(あの報告を捏造とする方法は、いくら考えても見つかりはしない。となると、ソレが不可能だと悟ったら……)
ヴィクター様はまたブツブツと何かを仰り、やがて俯きがちだったお顔が上がりました。そうすると、ブルーの瞳が私の瞳へと向いて――
マーティン様が去られたあとのこと。私は邸内に設けられた『演奏室』に居て、正装ヴィクター様から薔薇の花束をいただいていました。
ヴィクター様はコンクールに同行してくださっていたのですが、その日は――その日から今日までは、どうしても外せない御用事が入っていたそうです。そのため私の演奏が終わった直後に会場を離れられていて、昨日『明日お祝いに伺わせていただきます』というお手紙が届いていたのです。
「『今までで一番の演奏ができます』、あの日の演奏はそのお言葉通りでしたね。我々観客は魂を揺さぶられ、ステラ様の紡ぐ音色に酔いしれていました。生涯忘れられない音が、また一つ増えました」
「私の心を救ってくださったこと、新たな可能性を見つける切っ掛けを作ってくださったこと。……あの音色を出せたのは、ヴィクター様が居てくださったからです」
楽器は――ピアノが生み出す音は、奏者の技術とその際の『心の状態』が大きく影響します。ですのでこれは、謙遜でもお世辞でもありません。
この結果は、私だけの力でもたらしたものではないのです。
「ヴィクター様は、私の心も調律してくださいました。改めて……ありがとうございます。これからも、よろしくお願い致します」
「喜んで。貴方様が必要としてくださる限り、全身全霊で以て支えさせていただきますよ」
ヴィクター様は私が伸ばした手を優しく取り、流麗に片膝をついて応えてくださりました。そうして、そのあと――?? 空いている左手を懐へと動かされていたのですが、その手が突然止まってしまいました。
(このタイミングでと、決めていたのだけれど……。恐らく、アレはそういうことだ。今はそうすべきではないね)
「ヴィクター様? どうかなさいましたか?」
「ステラ様。先ほど僕は、リッダジア侯爵家の馬車を目にしました。もしやマーティン様が、いらっしゃっていたのですか?」
「……はい、そうなんです。私と――最高金賞と文化勲章を得た私と、関係を修復したいそうです」
本日の来訪の目的と、捏造だと否定を始めたこと。一部始終をお伝えしました。
「やはり、そうでしたか。しかも、全く諦めていないのですね」
「あの報告書は間違っている、それを証明するから待っていてくれ。そう仰られました」
「マーティン・リッダジア。どこまでも醜悪で、面倒な方ですね……」(あの報告を捏造とする方法は、いくら考えても見つかりはしない。となると、ソレが不可能だと悟ったら……)
ヴィクター様はまたブツブツと何かを仰り、やがて俯きがちだったお顔が上がりました。そうすると、ブルーの瞳が私の瞳へと向いて――
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