11 / 41
第7話 初めての人 クロヴィス視点
しおりを挟む
あの夜偶然縁が生まれ、親しくなった人、シュザンヌ・モファクーナ。
彼女に抱く感情が特別なものへと変化したのは、聖女への覚醒が切っ掛けだった。
――聖女という国王と並ぶ地位を手に入れたにも関わらず、何一つとして言動が変わらなかった――
それは、とても大きな衝撃だった。
聖女に覚醒する条件は、高い適性と『真っすぐな心』。
交流して彼女の性質をよく知っていた僕にとって、聖女への覚醒は当然の出来事だと思っていた。それほどまでに彼女の心は、まるで清流のように綺麗だったのだ。
だが、人の心は非常に変わりやすい。
白の絵の具の中に一滴の黒を落せば、あっという間に黒に染まってしまう。
素晴らしい性格、性質、考えを持っていても、あまりにも大きな変化が発生すれば、それらはあっさりと変わってしまう。
大きな力を持つ者には必ず、そういった甘い誘惑を落してくる人間が近づいて来て――。ソレが切っ掛けとなって変わってしまった人を、これまでに何人も見てきた。
貴族。
平民。
男性。
女性。
老人。
子供。
身分も性別も年齢も関係ない。
敬意を示していた様々な『白』が、大きな変化を切っ掛けとして変わってしまうところを何度も見て来た。実際そういう人が、身内にも――血が繋がっている先祖にも居た。
だからシュザンヌと手紙のやり取りをしていて、隣の国から流れてくる評判を聞いて、本当に驚いたんだ。
《今日は別の職務が急に入ってしまい、孤児院を3つ#しか__・・_#回ることができませんでした。
予定をキャンセルしてしまったお詫びに、実はさっきまでクッキーを焼いたんです。もしかすると便箋に、甘い匂いがついてるかもしれません。 》
『知ってるか、クロヴィス。隣の国の聖女様は、どんなにお忙しくても文句ひとつ口にされないらしいぞ。……はぁ~あ。我が国のお歴々にも見習ってほしいもんだぜ』
シュザンヌも、変わってしまうのかもしれない……。
そんな不安は大ハズレで、シュザンヌは聖女になってもシュザンヌのまま。男爵令嬢の――思いやりがあって誰にでも平等に優しい、あの夜出会ったシュザンヌ・モファクーナであり続けたのだった。
――僕が出会ってきた中で、初めの人――
そんな彼女に、惹かれないはずがなかった。
僕はやがてシュザンヌに恋をして、でも、その想いを伝えることはできなかった。
彼女は隣国ラクリナルズ唯一の聖女で、聖女はラクリナルズの人間としか結婚できない――そもそも他国の人間は容易に近づくことができないようになっている。
だから伝えても迷惑をかけてしまうだけで、この感情はこのまま胸の奥に仕舞っておこう。そう、考えていたのだけれど――
「お久しぶりです、クロヴィスさん。お払い箱になってしまいました」
――こうして今日、聖女ではない彼女と再会した。
なのでずっと奥に仕舞っていた『あの感情』が、ひとりでに表へと出てきたのだった。
「シュザンヌ。もしよろしければ結婚を前提として、交際をさせてはいただけませんか?」
彼女に抱く感情が特別なものへと変化したのは、聖女への覚醒が切っ掛けだった。
――聖女という国王と並ぶ地位を手に入れたにも関わらず、何一つとして言動が変わらなかった――
それは、とても大きな衝撃だった。
聖女に覚醒する条件は、高い適性と『真っすぐな心』。
交流して彼女の性質をよく知っていた僕にとって、聖女への覚醒は当然の出来事だと思っていた。それほどまでに彼女の心は、まるで清流のように綺麗だったのだ。
だが、人の心は非常に変わりやすい。
白の絵の具の中に一滴の黒を落せば、あっという間に黒に染まってしまう。
素晴らしい性格、性質、考えを持っていても、あまりにも大きな変化が発生すれば、それらはあっさりと変わってしまう。
大きな力を持つ者には必ず、そういった甘い誘惑を落してくる人間が近づいて来て――。ソレが切っ掛けとなって変わってしまった人を、これまでに何人も見てきた。
貴族。
平民。
男性。
女性。
老人。
子供。
身分も性別も年齢も関係ない。
敬意を示していた様々な『白』が、大きな変化を切っ掛けとして変わってしまうところを何度も見て来た。実際そういう人が、身内にも――血が繋がっている先祖にも居た。
だからシュザンヌと手紙のやり取りをしていて、隣の国から流れてくる評判を聞いて、本当に驚いたんだ。
《今日は別の職務が急に入ってしまい、孤児院を3つ#しか__・・_#回ることができませんでした。
予定をキャンセルしてしまったお詫びに、実はさっきまでクッキーを焼いたんです。もしかすると便箋に、甘い匂いがついてるかもしれません。 》
『知ってるか、クロヴィス。隣の国の聖女様は、どんなにお忙しくても文句ひとつ口にされないらしいぞ。……はぁ~あ。我が国のお歴々にも見習ってほしいもんだぜ』
シュザンヌも、変わってしまうのかもしれない……。
そんな不安は大ハズレで、シュザンヌは聖女になってもシュザンヌのまま。男爵令嬢の――思いやりがあって誰にでも平等に優しい、あの夜出会ったシュザンヌ・モファクーナであり続けたのだった。
――僕が出会ってきた中で、初めの人――
そんな彼女に、惹かれないはずがなかった。
僕はやがてシュザンヌに恋をして、でも、その想いを伝えることはできなかった。
彼女は隣国ラクリナルズ唯一の聖女で、聖女はラクリナルズの人間としか結婚できない――そもそも他国の人間は容易に近づくことができないようになっている。
だから伝えても迷惑をかけてしまうだけで、この感情はこのまま胸の奥に仕舞っておこう。そう、考えていたのだけれど――
「お久しぶりです、クロヴィスさん。お払い箱になってしまいました」
――こうして今日、聖女ではない彼女と再会した。
なのでずっと奥に仕舞っていた『あの感情』が、ひとりでに表へと出てきたのだった。
「シュザンヌ。もしよろしければ結婚を前提として、交際をさせてはいただけませんか?」
1,212
あなたにおすすめの小説
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる