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第7話 初めての人 クロヴィス視点
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あの夜偶然縁が生まれ、親しくなった人、シュザンヌ・モファクーナ。
彼女に抱く感情が特別なものへと変化したのは、聖女への覚醒が切っ掛けだった。
――聖女という国王と並ぶ地位を手に入れたにも関わらず、何一つとして言動が変わらなかった――
それは、とても大きな衝撃だった。
聖女に覚醒する条件は、高い適性と『真っすぐな心』。
交流して彼女の性質をよく知っていた僕にとって、聖女への覚醒は当然の出来事だと思っていた。それほどまでに彼女の心は、まるで清流のように綺麗だったのだ。
だが、人の心は非常に変わりやすい。
白の絵の具の中に一滴の黒を落せば、あっという間に黒に染まってしまう。
素晴らしい性格、性質、考えを持っていても、あまりにも大きな変化が発生すれば、それらはあっさりと変わってしまう。
大きな力を持つ者には必ず、そういった甘い誘惑を落してくる人間が近づいて来て――。ソレが切っ掛けとなって変わってしまった人を、これまでに何人も見てきた。
貴族。
平民。
男性。
女性。
老人。
子供。
身分も性別も年齢も関係ない。
敬意を示していた様々な『白』が、大きな変化を切っ掛けとして変わってしまうところを何度も見て来た。実際そういう人が、身内にも――血が繋がっている先祖にも居た。
だからシュザンヌと手紙のやり取りをしていて、隣の国から流れてくる評判を聞いて、本当に驚いたんだ。
《今日は別の職務が急に入ってしまい、孤児院を3つ#しか__・・_#回ることができませんでした。
予定をキャンセルしてしまったお詫びに、実はさっきまでクッキーを焼いたんです。もしかすると便箋に、甘い匂いがついてるかもしれません。 》
『知ってるか、クロヴィス。隣の国の聖女様は、どんなにお忙しくても文句ひとつ口にされないらしいぞ。……はぁ~あ。我が国のお歴々にも見習ってほしいもんだぜ』
シュザンヌも、変わってしまうのかもしれない……。
そんな不安は大ハズレで、シュザンヌは聖女になってもシュザンヌのまま。男爵令嬢の――思いやりがあって誰にでも平等に優しい、あの夜出会ったシュザンヌ・モファクーナであり続けたのだった。
――僕が出会ってきた中で、初めの人――
そんな彼女に、惹かれないはずがなかった。
僕はやがてシュザンヌに恋をして、でも、その想いを伝えることはできなかった。
彼女は隣国ラクリナルズ唯一の聖女で、聖女はラクリナルズの人間としか結婚できない――そもそも他国の人間は容易に近づくことができないようになっている。
だから伝えても迷惑をかけてしまうだけで、この感情はこのまま胸の奥に仕舞っておこう。そう、考えていたのだけれど――
「お久しぶりです、クロヴィスさん。お払い箱になってしまいました」
――こうして今日、聖女ではない彼女と再会した。
なのでずっと奥に仕舞っていた『あの感情』が、ひとりでに表へと出てきたのだった。
「シュザンヌ。もしよろしければ結婚を前提として、交際をさせてはいただけませんか?」
彼女に抱く感情が特別なものへと変化したのは、聖女への覚醒が切っ掛けだった。
――聖女という国王と並ぶ地位を手に入れたにも関わらず、何一つとして言動が変わらなかった――
それは、とても大きな衝撃だった。
聖女に覚醒する条件は、高い適性と『真っすぐな心』。
交流して彼女の性質をよく知っていた僕にとって、聖女への覚醒は当然の出来事だと思っていた。それほどまでに彼女の心は、まるで清流のように綺麗だったのだ。
だが、人の心は非常に変わりやすい。
白の絵の具の中に一滴の黒を落せば、あっという間に黒に染まってしまう。
素晴らしい性格、性質、考えを持っていても、あまりにも大きな変化が発生すれば、それらはあっさりと変わってしまう。
大きな力を持つ者には必ず、そういった甘い誘惑を落してくる人間が近づいて来て――。ソレが切っ掛けとなって変わってしまった人を、これまでに何人も見てきた。
貴族。
平民。
男性。
女性。
老人。
子供。
身分も性別も年齢も関係ない。
敬意を示していた様々な『白』が、大きな変化を切っ掛けとして変わってしまうところを何度も見て来た。実際そういう人が、身内にも――血が繋がっている先祖にも居た。
だからシュザンヌと手紙のやり取りをしていて、隣の国から流れてくる評判を聞いて、本当に驚いたんだ。
《今日は別の職務が急に入ってしまい、孤児院を3つ#しか__・・_#回ることができませんでした。
予定をキャンセルしてしまったお詫びに、実はさっきまでクッキーを焼いたんです。もしかすると便箋に、甘い匂いがついてるかもしれません。 》
『知ってるか、クロヴィス。隣の国の聖女様は、どんなにお忙しくても文句ひとつ口にされないらしいぞ。……はぁ~あ。我が国のお歴々にも見習ってほしいもんだぜ』
シュザンヌも、変わってしまうのかもしれない……。
そんな不安は大ハズレで、シュザンヌは聖女になってもシュザンヌのまま。男爵令嬢の――思いやりがあって誰にでも平等に優しい、あの夜出会ったシュザンヌ・モファクーナであり続けたのだった。
――僕が出会ってきた中で、初めの人――
そんな彼女に、惹かれないはずがなかった。
僕はやがてシュザンヌに恋をして、でも、その想いを伝えることはできなかった。
彼女は隣国ラクリナルズ唯一の聖女で、聖女はラクリナルズの人間としか結婚できない――そもそも他国の人間は容易に近づくことができないようになっている。
だから伝えても迷惑をかけてしまうだけで、この感情はこのまま胸の奥に仕舞っておこう。そう、考えていたのだけれど――
「お久しぶりです、クロヴィスさん。お払い箱になってしまいました」
――こうして今日、聖女ではない彼女と再会した。
なのでずっと奥に仕舞っていた『あの感情』が、ひとりでに表へと出てきたのだった。
「シュザンヌ。もしよろしければ結婚を前提として、交際をさせてはいただけませんか?」
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