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第1話 監視者の来訪と、変化のはじまり (4)

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「ミウヴァ様っ! 遠慮は不要っスよ!」 

 目が点になっていると。ラズフ様の握る力が更に強くなり、その勢いも更に増していきました。

「聖女も人間なんスから、怒る時はしっかり怒りましょうっス! むしろ『ふざけるな!』って怒って、そんな怒りを理由に庇護から外さないといけない問題っスよ!」
「…………そ、そうなのでしょうか……?」
「そうっスよっ。これに関しては、間違いありませんっス! 今からは、自分のために怒ってくださいっスよっ!」
「………………わ、分かりました。自分のために、怒るようにしてみます」

 自分のために、怒る。自分のために、怒る。自分のために、怒る。
 そうやって自身に言い聞かせていたら、なぜなのでしょうか……? 途端に、意外な程にあっさりと、これまでとはベクトルが異なる感情が湧いてきました。
 久しぶりに感じた、『これ』は……。まだその量は少ないのですが、ラズフ様が仰られていたものです。

「殿下達は毎日、段々変化してくんスよね? だったらその様子と慌てる姿をチェックできたら、スッキリしますっスよね?」
「は、はい。きっと、いえ、確かにスッキリしそうです。貴方は、もしかしなくても――」
「いえ。ミウヴァ様を、王宮に忍び込ませるのは不可能っス。あそこの警備は厳重っスから」
「……あの。そんなことは、少しも思ってはいませんよ? 私は、映鏡を使って監視し返すのですね? と思っていました」

 その力があるのに、どうして忍び込もうとするのでしょうか? この人の頭の中は、良くも悪くも混沌としています。

「あっ、うっスっ、その通りっス。ちゃんと映っているかを今晩確認しに行くんで、その際に王宮中に設置しときますっスよ。死角がないよう、100くらい」
「そ、そんなにですか。わざわざありがとうございます」
「お気になさらずっスよっ。他にも協力できることがあれば、いつでも何でもリクエストをどうぞっス」
「は、はい、ありがとうございます。それでは今夜と、明日からよろしくお願い致します」
「うっすっス! 理不尽な恩知らず共に、ギャフンと言わせてやりましょうっスよ!!」

 ラズフ様は満面の笑みでサムズアップをしてくださり、私はそれに対してお辞儀を行ったあと、映鏡が設置された神殿内で今日の祈りを始めました。

 もちろん今日からは、5人は抜きで。

 殿下達には5時間祈っているように見えますが、貴方達に加護は発生しません。明日からは、一味違う毎日になりますよ。



 ◇◇◇◇



 そういえば――。
 私のことでこんなにも怒ってくれた人は、こんな風に『示して』くれた人は、聖女になってからは初めてです。

 リュシアン・ラズフ様。とても不思議で、面白い方ですね。


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