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第2章
王子様と騎士の日常?
しおりを挟む3ヶ月前、華々しく騎士団を負かしてからの二人の人気は上昇するかと思われたが、実際はそんなに大事にはなっていなかった。入学式当日の様なままである。突っ込んで来る者と、遠巻きに見る者の2パターンだ。
ただし、前者一部の熱狂的(ストーカー紛い)な生徒を除いてだが……。
ビシバシと刺さる視線を物ともせず、廊下を闊歩する美形二人。
私は、何故か二人に挟まれた状態である。一体何の拷問だ!? と思うのは仕方がない。
今日は、二人と選択授業が被ったためにご一緒する羽目になりました。
リョウは、別の授業に出席しているため居ない。この状態が一番居た堪れない……。今では、彼は良い具合に茶化し、周囲の雰囲気を和らげる緩衝材に役目を果たしていた。
そのため、刺さる視線の痛い事、痛い事。
「なぁ、カグラ。今日の昼食どこで食べる?」
てくてくと校内の廊下を歩きながら、レーツェルがのほほんとした口調で問い掛けた。
「騒がしくない所が良いな」
週の半分はゴリ押しして来る女生徒がいて辟易している、カグラが淡々とそう告げる。
「じゃあ、今日は裏技的にいきますか!」
にやりと笑い、懐から携帯端末を取り出して、悪巧みをしているかの様なキラッキラした瞳をディスプレイに向けた。
レーツェルはひょいひょいひょいと、端末の画面に指を走らせる。
「これでよしっと! さ。いっこっか!」
にんまり笑うレーツェルの笑顔が微妙に黒い!
一体何をなさったのやら……。
食堂に向かう途中、レーツェルが私の肩に手を置いて。
「そっちには行かないよ~~。こっちにいくんだよっ☆」
食堂とは程遠い通称教員棟と呼ばれる区画へ強制的に方向転換させられる。
「え? でも、リョウを置いていくのは……」
首だけ後ろを向けて私が抗議すると、レーツェルはにっこり黒い笑顔を私に向けている。
「だって、リョウはよくナツキを独占するから、今日は仲間外れだねっ! って言うのは半分冗談で、リョウはあまり入りたくない場所だろうしね。さ、いこいこ~」
レーツェルにぐいぐい押されて、たどり着いた先は……プレートが掛かっていない部屋の前。
否応なく扉の前に私は立たされる。
「レーツェルです。開けて下さい」
背後のレーツェルが、声を出すと扉が自動的に開かれ、私は押されるままに室内へと足を踏み入れる。
カグラとレーツェルが中に入ると、扉が自動的に閉じられた。
「心配しなくても大丈夫よ、ナツキ君?」
柔らかい声音が聞こえた。視線を上げると、白いシンプルな6人掛けのテーブルの向こう側に居た人が笑う。
「シエン先生?」
私は、柔らかく笑うシエン先生をまじまじと見てしまう。
「ええ、そうよ。誰だと思っていたのかしら?」
フフッと笑いを零し、小首を傾げる姿も妙に様になる。
この学院の美形率は本当に高いなぁと思う。
生徒も先生も含めて。観賞用には良いのだけど……絡まれるのは、正直困る。
「さぁ、どうぞ~。好きなところに座ってね~」
にこやかに私達を誘導するシエン先生。
カグラ達は慣れた感じで、好きな場所に座る。
カグラの向かい側にレーツェルが着席し、おいておいでと私を見詰め手招きをする。
「……えっとぉ……」
どうしたもんかと、困惑する私にシエン先生が助け舟もとい、悪魔の一言を放つ。
「ほら、ナツキ君、カグラの隣が空いているわよ?」
「で、でも……」
あわあわとしてしまう、私にカグラが瞳を向けて口を開く。心なしかその口元に笑みが浮かんでいる。
「ほら、座れよ。畏まった席でないんだし、ナツキなら隣に座って良い」
こくりと頷いて、私はカグラの隣に腰を下ろす。
「じゃ。お昼にしましょうか~。じゃーん! 今日のお昼は豪華お重のお弁当で~す」
楽しそうに私達に告げると、テーブルの上に鎮座する、七段重ねの重箱を一段ずつ、ひょいひょいとシエン先生が並べていく。
私の目の前に置かれるお重。中身は何故か和食。
「……」
そして、渡されるのは紙に包まれたお箸。
「ナツキは箸って使った事ない?」
にっこりと微笑んで、レーツェルが私の問い掛けて来る。
嫌という程昔使いましたが? ナニカ?
と、心の中で突っ込みつつ。
「えっと、使った事ありますから、大丈夫です」
微妙な笑顔になりそうなのを堪えて答える。
――――だって、前世で使っていたから大丈夫とか、日本人なら使えて当たり前ですなぁんて言えないよ~~。
「そう。なら良かった」
シエン先生は笑ってそう言う。
ふわりと微笑むシエン先生の表情に、ちょっと見惚れてしまう。
美形で、好んでオネエ風にしているのだと思うのだけど……。
時々、ちょっとだけ違和感がする。
前世でテレビとかで見ていた、芸能人と違う感じ。
大抵は、男性が好きでオネエになるんだろうけど、そうなっていない感じとでも言うのかな。
瞳の奥に宿る炎の様な、男性さとでも言えばいいのかな……そんな熱がシエン先生にはある。
「あら、やだ、じっと見つめられたら照れちゃうわ!」
うふふ、と笑って言うシエン先生に、じと目で見詰める生徒二人が口を開く。
「センセー、生徒を誘惑するなら、愛しい人に告げ口しますよ?」
「だねぇ~。きっと炎の如く怒るんじゃないかな~? あのお方は容赦がないからねー」
その言葉にシエン先生の顔付が、すっと冷たい表情に変わる。
「二人とも、そういう事を言うなら、もう匿うのを止めるけどいいかな?」
オネエ風ではない、ぞくりとする様な氷の微笑を浮かべる美貌の男性がそこにはいた。
「先生こそ、本性出して良いんですか?」
にやりと笑いながら、カグラが冷静に突っ込んで来る。
「ナツキはベラベラ喋る様な子じゃないからいいの。まぁ、時々こうやって発散でもさせないと、オネエが板につき過ぎてマイダーリン……じゃなかった、ハニーに愛想尽かされちゃうからね」
「ダーリン……まぁ、あの御方じゃダーリンでも当て嵌まりそうだけど……ハニーってのも何か似合わないと言うか……うーん……」
きゃるんって音声でも付きそうな感じで言うシエン先生の言葉に、眉間に皺を寄せてレーツェルが困惑していた。
私は、怖いもの見たさで、恐る恐る問い掛けてみる。
「あの~ぅ、シエン先生の好きな方って誰なんですか?」
キラッキラッした瞳をこちらに向けて、シエン先生がにや~っと笑う。
「聞きたい? 聞きたい?」
「いえ、無理にお聞きしたいとは思わないので……」
ずずいっと食いついて来るシエン先生に思わずたじろいでしまうが、引く気など一切ない感じで迫って来る。
「んじゃ、ココだけの秘密よん♪ 女王陛下なの~」
にやにや笑いながら、乙女の様に身悶える(?)美形なオネエ風な先生。
色々な意味で大丈夫かこの学院?と思う、私は間違っていないと思う。たぶん。
曲がりなりにも先生な人を胡乱気な目で見詰めるのだけは、阻止した私を讃えたい。
「ったく、誰かさんのせいで、婚期が延びるのだけは勘弁して欲しいね!」
デレ~としていたかと思うと、冷ややかな視線がカグラへと向けられる。
「俺のせいにするな。あの人にとっては、今の所、王座の方が性に合っているんだろうよ。フラれてもめげないのは良いが、俺に当てこするのは止めろって言ってるだろ」
淡々と告げるカグラを、ジロリと睨んでいるシエン先生瞳には恨みすら籠っていそうな光が見える。
「アンタ達が、さっさと学院卒業してくれると良いんだけど」
シエン先生が、切実な声音でぶつぶつ呟く。
呆れ顔でカグラが小さくため息を吐いた。
「まぁ、無理だろうな。一応、学業に専念しろって言うのも王命だしな」
「うんうん。僕としては学生生活&青春を謳歌出来るから本当に嬉しいけどね! 立太子したら、カグラにずーっと付っきりだもん~。そんなの嫌だよー。せめてここに居る間だけは楽しまなきゃね!!」
レーツェルはカグラに激しく同意しているが、完璧に本音を暴露していた。
――――良いのか? こんな主従関係で。まぁ、突っ込んでないんだから、良いんだろうけど。
青春を謳歌かぁ……二度目の人生で、謳歌しないともったいないかな。やっぱり。
こんなハイスペック美形率高い学院だし、恋愛の一つくらいしないともったいないよね~。
リアル乙女ゲーを地で行くような、設定ないだろ他に!
惜しむらくは、美形の幼馴染がいない事か!!!(爆)
まぁ、ゲームみたいに至れり尽くせり設定人生じゃないだろうしね。
本気で恋愛出来るかどうかは、さておきだけど、逆ハー的な優越感は満喫しておきたいなぁ。
――――恋愛かぁ……。私が恋に落ちたら、どうなるんだろう?
「…………」
ちょっと考えてみると、何だか怖い感じしか出てこない。
間違いなく、兄様がその未来の彼氏になんかするであろう的な想像しか出来ない。
あの兄様を手玉に取れる様な、人いるのぉぉぉ!?
――――兄様がいる限り、私は壊滅的に恋愛出来無い事を悟った瞬間だった。(自爆)
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