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第2章
宇宙船乗りって憧れますよね?
しおりを挟む想像とは言え、兄様の妹ラブに本気で撃沈したお昼を過ごした後、私は今、『宇宙工学科』の実習室の一部屋にいる。
がらーんとした何も無い空間だけども、実はここ、ホログラムルーム。ホログラムと言っても、立体擬似システムと言う高度な技術を搭載した部屋なのです。ただの立体映像とは違い、半物質化を定義したホログラムシステムで出現したホログラムは触れると言う優れもの。
その為、宇宙船内の様々な事例を想定したシュミレーションや、実習を行い訓練をする場なのです。
そして、なんと、眼前にはさらさらの金の髪、緑の瞳の少年ファーストクラスのクラス長のヴェルト・カリタ=アルカーナがいる。
なんでかと言うと宇宙船に数年乗った事もあるという事で組まされたのだ。このチームのリーダーはヴェルトで、サブリーダーに任命されたのが、私と言う具合だ。
後は、女子が二人。フレア・グレントと、ティア・ルス・リュンヌの計4名。
フレアは人懐っこい笑みを浮かべている。ショートの黒目黒髪のちょっと見た目年齢より老け顔の残念女子。15歳と言われてもパッと見では20代後半に見える。
ティアは緩やかなウエーブの金髪で、シーグリーンの碧眼のふわふわした印象の女子。
そして、生徒に出された課題は。
【小型宇宙船の突発的事故を想定してある。初心者は、リーダーやサブリーダーの指示を仰ぎながら対処するように。また、これは実力を測るものであり、手を抜こうなどと思っている者は採点にも関わって来る事を肝に銘じる様に】
と、言うやっつけチームにはハードル高過ぎるだろうと思うのだけど……。
まぁ、ぶっちゃけ、抜き打ち実践形式の実力テストだという事。
そんなこんなで、チームワークも無い4人組がそれぞれの持ち場に着く。
円形のメインルーム。
ヴェルトは中央のメインコントロールパネルの前。
私は、サブコントロールパネルを兼ねてて、宇宙船の花形でもある、ヴェルトの位置から前にある操縦席。目の前の壁はメインスクリーンだ。
フレアはヴェルトの位置から左後方の壁際にある、エネルギーラインを統括するコンソールパネル前。
ティアはヴェルトの位置から右後方の壁際にある、生命維持統括するコンソールパネル前。
本来なら、他にも席や各種コントロールパネルやコンソールがあるのだけども、その辺は立体擬似システムが必要な数だけを作り出している。大きい宇宙船だろうが、小さい宇宙船だろうが、各種宇宙船の人数に合わせた最小メインルームを作り出せるのがホログラムルームの利点だ。勿論、通常サイズのメインルームも作れる。
「それじゃ、まず、異常の原因を探って報告してくれ」
ヴェルトの指示に従い、それぞれが作業し始める。
私は、メインスクリーンをオンにする。
画面一杯に、擬似宇宙空間が映し出される。
「凝ってるなぁ……」
私は、ぼそりと感嘆の声を漏らす。
シチュエーションが、どっかの星系に行く途中で起きた事故と言う想定だから当たり前だけども、宇宙空間の中を航行中って感じが解る。まぁ、宇宙暮らしをしてない人には理解出来ないかもしれないけど。
コントロールパネルを弄り、メインスクリーンの半分は宇宙空間を出しつつ、もう半分に各種計測の異常数値を映し出す。
関連する、エネルギー出力、稼働中のディフレクターなどなどの数値も出していく。
本来なら、宇宙船のAIにも問い掛けて判別させて行うものなのだけど、その辺はリーダーの采配って所なんだろう。
闇雲に検索に掛けても時間のロスが出るなら、まずは乗組員が判別するのが妥当と言うところでもある。
その後AIに判定して貰うのが無難だろう。
つらつらとそんな事を考えながら、数値異常を示している事例を片っ端から表示させていく。
宇宙のルールとでも言うのかな『些細な事でも見逃さない』が、重要不可欠になっている。場所によりけりだが、助けの来ない宇宙域などでは、些細な事が命取りになるのだから、当たり前と言えば当たり前の事なんだよね。
「あ。解った! これだっ!」
フレアが声を上げたので振り返ると、彼女がコンソールを弄るのが見えた。
数秒後、ビービービーと警告音が鳴り響いた。
『この船は、オーバーロードし60分後に爆発します。乗組員は、退避して下さい。』
「「「え!?」」」
私と、ヴェルト、ティアの声が重なる。
目の前のメインモニターとコントロールパネルは、赤く点滅する『緊急警告』を映している。
「あれぇ?」
きょとんと首を傾げて、フレアが呟く。
「ちょ、何したの!? 生命維持の稼働率が低下していくって……」
ぎょっとして、ティアが悲鳴に似た声を上げる
「冗談じゃねぇ……」
その言葉を聞き、ざあっと顔色が青くなるヴェルト。
「コンピューター、フレア・グレントのコンソールを全部ロックしろ! コンソールには、異常値だけ表示させろ!」
ヴェルトは衝撃的な状況から脱して、一呼吸の後にそう叫んだ。
『了解しました』
AIの音声がメインルームに響く。
ヴェルトがキツイ口調で、フレアに詰問する。
「グレント、さっき何をした!?」
「え? 何って? 変な数値あるから、出力を上げただけだけど?」
首を傾げて、自分が行った行動の意味を一つも考えていないと、言うか思い当らない様子でさらりと言い放った。
「うわぁ……最悪ぅ……リーダー命令無視って、一番やっちゃいけない事だよ」
「え? さっきのってリーダー命令無視になるの!? ええぇ~~。だって、態とじゃないんだよぉ~~?」
ビックリした表情で、フレアは言う。
――――そんな事も解らないで、コンソール弄ったのか? つか、態とじゃなければ良いとか思ってるのかよ。おいっ!
警告音に包まれているメインルームに一人だけ浮き捲っている、フレアを放置するか? と思ってしまうのは致し方ない事だと思う。
頭を抱えて、アホかキサマ!! と突っ込むほどの猶予も実際無いであろうという事も、目の前の警告表示は如実に表している。60分あった、時間がどんどんカウントダウンしているのだ。
「えーと、ヴェルト? どうする?」
私の問い掛けに、ヴェルトは表情を硬くして答える。
「解ってる。コンピューター、フレア・グレントが行った入力はキャンセルだ! 出来なければ、正常値に戻せ!」
『出力を停止します。爆発まで後2時間となります』
「コンピューター、爆発は止められないか?」
『はい。発生していた異常が原因で、中和をさせる事が出来ません』
「原因を突き止めることは可能か?」
『幾つかの複合的な問題が重なっています』
「ちっ、面倒な……まぁ、いい。ナツキ、メインスクリーンを借りるぞ」
舌打ちして、ヴェルトが私に告げる。
「あ、うん、解った。これで、良いかな?」
コンソールを弄り、出したデータ全て、画面から消してヴェルトに言う。
「悪いな、借りる。コンピューター、問題視するものをメインスクリーンに全部出せ!」
『了解』
パパパパパッと、スクリーンに情報が表示されていく。グラフや、数値が多数表示されている。
「生命維持の稼働率が70%になったわ! まだまだ、落ちるみたい……」
ティアが困惑しながら声を上げると、ヴェルトはメインコントロールパネルの所から、私の方へと移動してくる。
「ナツキ、最悪の事態に対応出来るか?」
真剣な表情のヴェルトが問い掛ける言葉に、私は正直に言う。
「解らないけど……最悪の事態って、機関室の減圧後の、メインエンジンの廃棄のこと?」
――――実際、そんな事態に陥った事などないんだけど、宇宙船暮らしの中でそういったシュミレーションはさせられたことはある。
優秀と言うか、スペックが馬鹿みたいに高過ぎるウチの宇宙船AI達故に、こんな事故の様な事は起きた事が無い。
まぁ、魔法使いが乗っている宇宙船だから、反則技もあったに違いないけれど。
「ああ。そうだ。色々やってはみるが、あのデータを見る限り、難しそうな気がする」
渋面でヴェルトがいう事には、正直同意してしまいそうになる。
「うん、サポートするよ」
「頼む」
「解った」
ヴェルトと席を交代して、私はメインコントロールパネルの位置に着いた。
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