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第2章
カウントダウン。
しおりを挟む私はメインコントロールを弄りながら、機関室の減圧に備えつつ、画面の隅にメインエンジンの廃棄のタイミングもカウント表示させておく。
一通りの必要情報を画面に常駐させてから視線を流すと、メインスクリーンに映る色々切り替わる画面が視界に入る。
それを処理しようと試みているヴェルトの背中には、焦燥を背負っているかのような気さえしてくる。
「生命維持率60%に低下! どこまで落ちるのよ!? これ!」
悲鳴に近い声で、ティアが叫ぶ。
「最悪、生命維持30%まで低下しても平気だから、焦らずに処理をしていけばいい。面倒なら避難区画のみにエネルギーを回して、クルーが居ない区画の隔壁を落として生命維持共々カットしてしまえばいい」
ヴェルトは、冷静にティアに指示を出す。その言葉に、ティアはハッとした表情をしてから、真剣な眼差しになってパネルに指を走らせ始める。
一際大きい警告音が響き、アナウンスが繰り返し流れた。
『全クルーに告げます。避難区域以外の隔壁を閉鎖します。処理班以外のクルーは速やかに避難して下さい。』
目の前の画面に映る異常を示す数値もだが、船内の異常箇所もあちこちに点滅表示されている。ハッキリ言って、どこから手を付けていいのか解らない程に……。
船の立体映像と言うか、図面みたいな表示があるんだけど、真っ赤な点(異常箇所)が無数にあるのよ!
例えるなら、ウイルス感染したPCが更なるウイルスを呼び込んで、ふざけたウイルス感染数になった様な状態に近い。
時間の猶予などないのに、そんな面倒な状態をどう戻せと? ってか、正常に戻せるスキルのある生徒ってどんだけいるのさって言いたい。ったく、面倒過ぎるわっ!!!
知らず知らず、溜め息を吐きつつ、私は宇宙船AIに問い掛ける。
「コンピューター、全エンジンを停止した場合どうなる?」
『停止した場合でも、エネルギーの過剰の為に逆流が起き、船体が分離崩壊するか、爆発は免れません』
「なら、メインエンジンを廃棄した場合、船体のダメージはどうなる? サブエンジンで航行は可能?」
『メインエンジン廃棄の場合、船体のダメージは50%に推測されます。サブエンジンの航行は70%減で可能です』
廃棄しても取りあえずは、30%のエネルギー出力になるけど航行は可能という事だ。爆発や、船体崩壊に比べたらマシではある。
「……正確な船内の異常個所の総数は幾つになっている?」
『緊急を要するのは、38です。他に異常を検知している箇所は175になります』
「爆発までに緊急性のある異常を、クリアに出来る可能性はある?」
『現段階では不可能です』
バッサリと……抑揚の無い平坦な、AIの音声が無情にも響く。
――――あーあーあー。やっぱりねー。そんな事だろうと思ったけどね! がっかりだよ!!!っとに!!!
本当なら、そんなに難しい事態にならず、幾つかの調整で何とかなる課題だっただろうにと、思うとムカつくムカつくぅぅぅぅぅ。
バンバンとパネルとかを叩きたい衝動を抑えつつ、次の質問を私はする。
「コンピューター、宇宙空間に廃棄したメインエンジンが崩壊爆発を起こすまでに、船は安全宙域に逃げ切れる?」
『無理です。安全宙域にまで離脱するには、サブエンジンの出力が足りません。サブエンジンをフル稼働させ、多重バリアーを展開させれば船体損傷率は減ります。しかし、爆発の衝撃により、サブエンジンの出力は30%まで落ち込むと推測されます』
「出来るだけ離れてから、バリアーを張るしかないという事?」
『はい。タイミングを計るならば態と、光子魚雷で廃棄したメインエンジンを爆破するか、出来るだけ離脱してからバリアーを展開させるかです』
「どちらの場合も、船体損傷率には変わりはない?」
『変わりません』
「コンピュータ! 現状でメインエンジンを廃棄する場合、船内の異常がバリアー展開と航行の妨げになる箇所を洗い出して!」
『了解』
数十秒して、ピピピッッと、画面に異常個所の表示と状況について12個ほど出る。
「コンピュータ、今表示した異常個所の中で、リンクをカットまたはエネルギー供給を停止した場合、ダメージや航行に不具合など生じる?」
赤く表示されていた、異常個所の半数が青と緑の表示に変わる。
『青の表示はリンクを切る事が可能で、緑の表示は停止可能の箇所です』
「赤表示は?」
『処理班を向かわせて対応するしかありません』
「コンピュータ、赤表示の箇所に、処理班を向かわせるように通達を出して!」
「ヴェルト、ティア、今出した箇所をそっちにも出すから確認を」
「「了解」」
私は二人の画面に情報を転送させた。
――――残り時間は、73分――――。
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