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第2章
艱難汝を玉にす
しおりを挟む――――時は無情に進みゆく。
眼前に映る船内のモニタリング表示画面は、大分減ったがそれでもあと10箇所も残っていた。
だけど、もう時間が無い。
「コンピュータ、メインエンジンを廃棄のカウントをモニタに出した上で、音声指示して。この船が安全域に出れる様にナビゲートを」
『了解しました』
私は顔を上げ、正面を見る。ヴェルトの背中を見詰めてから、少し大きな声を出す。
「ヴェルト操舵を頼める?」
私の声に振り返って、少し考える様にじっとこちらを見るヴェルト。
「ああ、解った。操舵は任せろ。ナツキは多重シールドのタイミングや、衝撃後のカバーを。ティアは船の生命維持と緊急隔壁閉鎖を頼む」
「「了解!」」
私は、ちらっと何も指示されていないフレアを見遣る。立ったままの状態で、とても不満げな表情を浮かべてヴェルトを睨み気味で見ている。
「……」
――――お門違いだよねぇ……。何も出来ない状況になったのは、自分のせいだという自覚が欠落しているってどーなのよ。
私は小さくため息を吐き、コンソールに入力していく。
ティアが声を上げる。
「各総員、安全ルームへ避難終了。緊急隔壁閉鎖します!」
『安全確保の為、隔壁を閉鎖します』
コンピュータの音声が艦内へと流れる。
エンジンルームからクルーが居なくなったのを確認してから、ピピピピピと、私はコンソールに指を走らせて行く。
「エンジンルーム減圧開始します。減圧完了後、メインエンジン廃棄します」
『カウントスタート。メインエンジン廃棄まで、あと60秒』
全員の画面にはカウントが表示される。
「総員に告ぐ、衝撃波に備えて下さい」
ヴェルトが船内に、警告を発する。
そして、刻々と時間が減っていく。
『30、29、28、27………………5、4、3、2、1、メインエンジン廃棄します』
メインルームに響くコンピュータの音声。
操舵席のヴェルトが、船の運転を担う。
「サブエンジン出力最大。この宙域から離脱する」
船内が刻みに揺れる。メインモニターに映される宇宙域の映像。
警告音と、コンピュータの音声が船内に響く。
『廃棄したエンジンの爆発までおよそ、3分です』
「コンピュータ! 爆発の衝撃波に対して一番被害が少ない船の方向を割り出し、旋回調整を!! 船の後方中心に、多重バリアフィールド展開。」
私はコンピュータに指示を飛ばしつつ、サブエンジンのエネルギーをバリアに振り分ける。
モニター画面の小窓(別窓)に、宇宙船の背後の映像が出ている。
宇宙空間に放り出され、弧を描きながらゆっくりと遠ざかる廃棄したメインエンジン。
豆粒位になったところで、ピカッ! と光る。
数拍おいて、ガタガタガタと激しい衝撃波が、船を襲った。例えるなら、ジェットコースターの横Gと、交通事故並みに吹っ飛ばされる感覚だ。
横とも縦ともつかない、荒海の大きな揺れの様でもあった。
ぶつんと、照明や、モニターの画面も真っ暗になった。
「え?」
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
『船体損害70%、乗組員の死傷者38名、航行不能及び時間内でのミッションを続行不可能の為、実習を終了します』
抑揚の無い音声が響き、室内の照明が点灯した。
――――そして、私達の実習と言う名の実地テストが終了したのだった。
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