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第1章
危機一髪
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そうして、私が連れ込まれたのは庭園だった。
如何わしい事をするなら、どこかの部屋でもいいだろうに何で庭園? と思わず思ってしまう。
「さあて、お嬢ちゃんには役に立って貰わないとね」
突き飛ばされる様に手を離されて、よろけて緑の絨毯の上に尻餅を着く。
「っ!」
見上げるとおっさんは、下卑た笑いをしている。
正直、気持ち悪い。
それと、今さっき役に立ってって言ったよね? コイツ。
元々、私を狙っていたって事?
どうしよう、逃げるにしてもどうやって逃げようか。
視線だけを動かして、逃げ道を探す。
まずは、相手を油断させる事が肝心だ。
「私、あなたの事を知らないのに、どうしてこんな事をするの?」
泣きそうな感じで目蓋を少し伏せて言ってみる。
「悪いのは、全部お嬢ちゃんの母親だよ。怨むなら母親を恨むんだな」
憎憎し気に言うこのおっさんは、どうやら母様に因縁があるらしい。
「宮殿内は色々と魔術が施されているから、何かしようものなら騎士や他の連中が飛んで来るからな。ここだったら大丈夫だろうから。どうしてやろうか……」
ぶつぶつと呟くおっさんは、気持ち悪い。
室内を選ばなかったのは、見付かる確率が高いからだったみたいだ。
と、言う事は本気で逃げないと危ないのね、私。
「そうだ。いい事を思い付いたぞ」
「え? きゃ!」
小太りのクセに手癖は早いらしく、右手を伸ばし私の柔らかい金髪を無造作に掴み吊り上げる。
「ふん! いい気味だ」
おっさんは、にやりと笑いながら言う。
「痛い! 痛い!」
引っ張り上げられた髪を押さえつつ抗議する。
あ~~! も~~!! 何で転生してからもこんな目に遭うのよ!
髪引っ張られるの地味に痛いんだよね!
遠い昔に前世の父親にやられた記憶が蘇る。
こういう時どうしてたっけ? 思い出せ! 私!!
とりあえず、足は地面から離れていない。
よし、なら、やることは一つ!!
弁慶の泣き所を目掛けて、思いっ切り蹴りを放つ。
「このっ!!!」
ついでにヒールの先をめり込ませて蹴ると。
「ぐぁ!!」
悶絶の声と共に、私の髪からおっさんの手が離れる。
徹底的に蹴倒したいが、如何せん分が悪い。
ここは逃げるか勝ちだろうと思い、建物に向かってダッシュで走る。
もう少しで建物の近くになろうという所で、足に何かが絡んで転倒してしまう。
「いたたたた……」
足元を見ると、変な蔦のような物が足首に絡まっている。
「ナニコレ?」
手で外そうとしても外れない。
「やっても無駄だよ」
「っ!!」
声のする方向は、逃げて来た方向だった。
「流石はあの女の娘だ。忌々しいな」
ゆっくりとした足取りで、近付いてくる。
「来ないで!」
言ってみたが、無理だった。
「先程の礼だ」
おっさんは目の前に立つと、手を振り上げた。
何が来るか解ったから、目を瞑り歯を食いしばってやり過ごす。
バチン!! と頬を打つ音が響く。
目の前がチカチカする。
何度体験してもこの痛みは、いいものじゃないなと思う。
「小娘風情がこの俺を馬鹿にしてただで済むと思うなよ!」
激高しておっさんが、ガッと両手で私の首を絞めに掛かる。
「くっ……」
私は抵抗しながら、おっさんの手首に爪を立てる。
首絞められた経験は、前世でもあるけど!
この状況はヤバイ!!
本気で苦しい。
このままいくと、落とされるか。
マジで死ぬ!
「助けて……父様……あ、さま……に、い……ま」
喋る事も辛くなる。
呼吸も出来ない程に締め付けて来る。
嫌だ! こんなトコで死ぬなんてイヤ!!
助けて!! 助けて!!!
誰か助けてッ!!!!
意識が遠退く瞬間。
バーーンッ!!
と、轟音と地響きの様なものが辺りに響いて。
絞められていた手が、首筋から離れる。
「ぐ……は……っ!」
一気に気道に空気が入って来て、ごほごほと私は咽た。
周囲ではバチバチと電気がショートする様な音と、ピシッピシッとガラスにヒビが入るような音が絶え間なくしていた。
「遅くなってごめんね。大丈夫?」
咽こむ私に、誰かが声を掛け、手を差し伸べた。
涙目になりながら、私は顔を上げる。
年の頃は、私と同じか少し上かもしれない少年が立っていた。
月の光に照らされて輝く銀茶色の髪が風で揺れている。
じっと見詰める紫の瞳が幻想的な雰囲気を醸し出して、より一層少年の秀麗な表情を深いものにしていた。
「くそ。誰だっ、邪魔をするのは!」
怒鳴り散らす声がする。
さっきの衝撃で吹っ飛んだおっさんの声だった。
その声を聞き、紫の瞳がキラリと光を帯びる。
「陛下の庭でふざけた真似をしている癖に、その暴言は最悪だな」
「うぎゃ!!」
おっさんが潰れた声を出した。
「そのまま、潰れ蛙みたいにしていろ」
少年は一度おっさんへ一瞥して、私に向き直って。
「燃」
そう呟くと、両足の戒めが一瞬にして火に包まれて消え去る。
ほわっとした熱さを足首に感じたが、火傷などなく全然平気だった。
私は差し伸べられた少年の手に、自分の手を重ねる。
優しく、壊れ物を扱う様に、引き寄せられる。
「もっと早く気付いてあげられたら良かったのに。怖かっただろう?ごめんね」
「え?」
少年の紫の瞳を覗き込んだ、その時。
「前々から馬鹿だとは思っていたけど、ここまで大馬鹿だとはね。私の敬愛するお姉様の娘を攫った上、私の庭で危害を与えるなど言語道断よ!!」
少年の前方に、紅蓮の炎が巻き起こる。
炎と同じ色合いのドレスを纏った美女が出現する。
「女王様……」
怒りの炎を背負って彼女、セリティア・ラグナリア女王陛下はそこにいた。
如何わしい事をするなら、どこかの部屋でもいいだろうに何で庭園? と思わず思ってしまう。
「さあて、お嬢ちゃんには役に立って貰わないとね」
突き飛ばされる様に手を離されて、よろけて緑の絨毯の上に尻餅を着く。
「っ!」
見上げるとおっさんは、下卑た笑いをしている。
正直、気持ち悪い。
それと、今さっき役に立ってって言ったよね? コイツ。
元々、私を狙っていたって事?
どうしよう、逃げるにしてもどうやって逃げようか。
視線だけを動かして、逃げ道を探す。
まずは、相手を油断させる事が肝心だ。
「私、あなたの事を知らないのに、どうしてこんな事をするの?」
泣きそうな感じで目蓋を少し伏せて言ってみる。
「悪いのは、全部お嬢ちゃんの母親だよ。怨むなら母親を恨むんだな」
憎憎し気に言うこのおっさんは、どうやら母様に因縁があるらしい。
「宮殿内は色々と魔術が施されているから、何かしようものなら騎士や他の連中が飛んで来るからな。ここだったら大丈夫だろうから。どうしてやろうか……」
ぶつぶつと呟くおっさんは、気持ち悪い。
室内を選ばなかったのは、見付かる確率が高いからだったみたいだ。
と、言う事は本気で逃げないと危ないのね、私。
「そうだ。いい事を思い付いたぞ」
「え? きゃ!」
小太りのクセに手癖は早いらしく、右手を伸ばし私の柔らかい金髪を無造作に掴み吊り上げる。
「ふん! いい気味だ」
おっさんは、にやりと笑いながら言う。
「痛い! 痛い!」
引っ張り上げられた髪を押さえつつ抗議する。
あ~~! も~~!! 何で転生してからもこんな目に遭うのよ!
髪引っ張られるの地味に痛いんだよね!
遠い昔に前世の父親にやられた記憶が蘇る。
こういう時どうしてたっけ? 思い出せ! 私!!
とりあえず、足は地面から離れていない。
よし、なら、やることは一つ!!
弁慶の泣き所を目掛けて、思いっ切り蹴りを放つ。
「このっ!!!」
ついでにヒールの先をめり込ませて蹴ると。
「ぐぁ!!」
悶絶の声と共に、私の髪からおっさんの手が離れる。
徹底的に蹴倒したいが、如何せん分が悪い。
ここは逃げるか勝ちだろうと思い、建物に向かってダッシュで走る。
もう少しで建物の近くになろうという所で、足に何かが絡んで転倒してしまう。
「いたたたた……」
足元を見ると、変な蔦のような物が足首に絡まっている。
「ナニコレ?」
手で外そうとしても外れない。
「やっても無駄だよ」
「っ!!」
声のする方向は、逃げて来た方向だった。
「流石はあの女の娘だ。忌々しいな」
ゆっくりとした足取りで、近付いてくる。
「来ないで!」
言ってみたが、無理だった。
「先程の礼だ」
おっさんは目の前に立つと、手を振り上げた。
何が来るか解ったから、目を瞑り歯を食いしばってやり過ごす。
バチン!! と頬を打つ音が響く。
目の前がチカチカする。
何度体験してもこの痛みは、いいものじゃないなと思う。
「小娘風情がこの俺を馬鹿にしてただで済むと思うなよ!」
激高しておっさんが、ガッと両手で私の首を絞めに掛かる。
「くっ……」
私は抵抗しながら、おっさんの手首に爪を立てる。
首絞められた経験は、前世でもあるけど!
この状況はヤバイ!!
本気で苦しい。
このままいくと、落とされるか。
マジで死ぬ!
「助けて……父様……あ、さま……に、い……ま」
喋る事も辛くなる。
呼吸も出来ない程に締め付けて来る。
嫌だ! こんなトコで死ぬなんてイヤ!!
助けて!! 助けて!!!
誰か助けてッ!!!!
意識が遠退く瞬間。
バーーンッ!!
と、轟音と地響きの様なものが辺りに響いて。
絞められていた手が、首筋から離れる。
「ぐ……は……っ!」
一気に気道に空気が入って来て、ごほごほと私は咽た。
周囲ではバチバチと電気がショートする様な音と、ピシッピシッとガラスにヒビが入るような音が絶え間なくしていた。
「遅くなってごめんね。大丈夫?」
咽こむ私に、誰かが声を掛け、手を差し伸べた。
涙目になりながら、私は顔を上げる。
年の頃は、私と同じか少し上かもしれない少年が立っていた。
月の光に照らされて輝く銀茶色の髪が風で揺れている。
じっと見詰める紫の瞳が幻想的な雰囲気を醸し出して、より一層少年の秀麗な表情を深いものにしていた。
「くそ。誰だっ、邪魔をするのは!」
怒鳴り散らす声がする。
さっきの衝撃で吹っ飛んだおっさんの声だった。
その声を聞き、紫の瞳がキラリと光を帯びる。
「陛下の庭でふざけた真似をしている癖に、その暴言は最悪だな」
「うぎゃ!!」
おっさんが潰れた声を出した。
「そのまま、潰れ蛙みたいにしていろ」
少年は一度おっさんへ一瞥して、私に向き直って。
「燃」
そう呟くと、両足の戒めが一瞬にして火に包まれて消え去る。
ほわっとした熱さを足首に感じたが、火傷などなく全然平気だった。
私は差し伸べられた少年の手に、自分の手を重ねる。
優しく、壊れ物を扱う様に、引き寄せられる。
「もっと早く気付いてあげられたら良かったのに。怖かっただろう?ごめんね」
「え?」
少年の紫の瞳を覗き込んだ、その時。
「前々から馬鹿だとは思っていたけど、ここまで大馬鹿だとはね。私の敬愛するお姉様の娘を攫った上、私の庭で危害を与えるなど言語道断よ!!」
少年の前方に、紅蓮の炎が巻き起こる。
炎と同じ色合いのドレスを纏った美女が出現する。
「女王様……」
怒りの炎を背負って彼女、セリティア・ラグナリア女王陛下はそこにいた。
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