Our place ~転生乙女のジュラーレ魔法学院の日常~

龍希

文字の大きさ
17 / 69
第1章

大人達の会議 another side1

しおりを挟む
 本来ならば、月の光が落ちる庭園は綺麗なものだったが、今現在は異様な空間と化していた。
 パチパチと、電気の様なものが庭園内の上やら下やら、空間のあちこちで光って弾けている。

「……どうしてくれようかしら」
 怒りを隠そうとせず、セリティア女王陛下はこの事態を招いた者を睥睨した。

 拘束用の重力魔法を掛けたカグラは、もう庭園には居ない。
 しかし、眼下でじたばた地面に這い蹲って固定された愚か者はそのままだ。
 この魔法を解く事は容易いが、セリティアはそれをしなかった。
 この場で、この者を裁く事も出来るがそれをしたら面倒になる事も解っていたから、イライラする気持ちを抑えて来る者を待った。

「お、お助け下さい、陛下!」
「……喋るな下衆が」
 媚を売る様に言われ、ぷちっとセリティアの中で何かが数本キレた。

「私を更に怒らせたいらしいな」
 思いの丈を乗せ、ガッ! ハイヒールの踵で、その者の手の甲を思いっ切り踏ん付けてやる。

「ぐあ!!」
 悲鳴を上げてジタバタともがく。

「じっとしていなければ、お前の顔が焼ける事になるぞ」
 セリティアは、そいつの顔面ぎりぎりの所に炎を出して、置くと多少なりとも溜飲が下がった。

 それでも、怒りは収まる訳がない。
「幼い子を手にかけ様として、自分は助かろうなどと思うな!」
 バッサリ一刀両断にする様に、セリティアは宣告する。

「それに関しては、同意見です」
 スタスタスタと、セリティアの側に寄って来た。

 セリティア似の面差しを持つ男性が口にする。
 彼の名は、テンリ・ジーノ・ラグナ。
 公爵家の現当主で、宰相閣下で、カグラの父親でもあった。
 髪は銀茶色、紫の瞳、冷たい表情が似合う美貌で、身長はヒールを履いているセリティアよりも高く、190センチはあった。

 二人は双子で、身長が同じ位の時まではその気になれば入れ替えも可能なほど似ていた。
 今は、女性、男性の身体つきなどで全然違う風に見えるが、顔のパーツを良く見ると似ているのが解る。
 性格は、セリティアが炎の様な気性を持ち、テンリは氷の様な気性を持っていて、実際このお蔭で政務のバランスが上手く取れていた。

「テンリ。遅いわよ!」
「すみません、姉上。近衛に対して庭園一帯の封鎖の通達指示と、ユーナ様とレオン様に庭園の状況を見て貰うために色々とやっていたので」

「それで、どうなの?」
「はっきり言って、最低1ヶ月は庭園を封鎖しなければならないかと。俺も見て来ましたが、空間はかなり断絶していたり、結界もまた壊滅状態ですね。一つマシだと思えるのは、被害が庭園だけに留まっている事くらいですかね」

「そこまで酷いのね?」
「ええ」

「本当に、どうしてくれようかしら、この愚か者を……」
 冷や汗だか脂汗だか、解らないものを顔から流しながらブルブルと震える罪人を睨みながら、セリティアは呟く。

 そんな彼女を意を汲みつつも、テンリはさらりと告げる。
「取り合えず、地下牢へと転送して置きましょう。到着されたお二方が暴走されるとも限りませんし」

「ええ、やっといて」
 セリティアの言葉に頷き、テンリはさっと手を振る。
 すると、一瞬の内に罪人は消え去る。

 その直後、セリティアとテンリの眼前の方から歩いてくる者が二人いた。
「ユーナ姉様、レオン……」

「セリ!」
 セリティアを見とめると、ユーナが小走りに二人の所へと行く。
 少し遅れて、レオンが続く。

「セリ、ナツキは?」
「カグラが治療室へ運んだわ」
「なら、大丈夫ね?」
「ええ」

「ごめんね、セリにも迷惑を掛けてしまったわ」
「私の方こそ、もっと注意しておけばこんな事態にならなかったのに……。ごめんなさい、お姉様」
 セリティアは、ユーナに頭を下げる。

「セリ、女王がそう簡単に頭を下げてはダメよ」
 俯いたまま首を横に振り、セリティアは答える。

「ユーナ様、姉上は珍しく自分の失態を謝罪しておりますから、気持ちを汲んで上げて下さい」
 苦笑しつつ、テンリはユーナに言うと。
「解りました。その謝罪受け取ります。だから、もう顔を上げて……ね?」

「お姉様……」
 力なく顔を上げて、セリティアはユーナを見た。

「大丈夫よ、こんな日が来るかもしれないと予測はしていたから」
「ごめんなさい、お姉様」
 セリティアはユーナに抱き付く。
 ユーナはセリティアを落ち着かせる様に、その背をぽんぽんと叩く。

 それを横目で見つつ、テンリはレオンに向き直る。
「それで、レオン様、庭園一帯の状態はどうでしたか?」
「多少時間が掛かるとは思うが、空間も結界も直せる」

「では、修復に必要な魔術師の要請を頼めますか?」
お義父とうさんに頼んでみます」
「魔法学院の理事長にですか、でしたら心強いですね」
「こんな事になった責任は、こっちにもありますから出来るだけ対応させてもらいます」
「それでは、一旦、ここから引き上げましょう。庭園封鎖の用意をさせてありますから」
「ええ、そうしましょう」
 レオンは頷いて答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

灼熱の連撃(ラッシュ)と絶対零度の神速剣:転生した双子のチート令嬢は、その異能で世界を救う

夜詩榮
ファンタジー
あらすじ 現代日本。活発な空手家の娘である姉・一条響と、冷静沈着な剣道部員である妹・一条奏は、突然の交通事故に遭う。意識が薄れる中、二人を迎え入れたのは光を纏う美しい女神・アステルギアだった。女神は二人に異世界での新たな生と、前世の武術を応用した規格外のチート能力を授ける。そして二人は、ヴァイスブルク家の双子の姉妹、リーゼロッテとアウローラとして転生を果たす。 登場人物 主人公 名前(異世界) 名前(前世) 特徴・能力 リーゼロッテ・ヴァイスブルク 一条いちじょう 響ひびき 双子の姉。前世は活発な空手家の娘で黒帯。負けず嫌い。転生後は長い赤みがかった金髪を持つ。チート能力は、空手を応用した炎の魔法(灼熱の拳)と風の魔法(超速の体術)。考えるより体が動くタイプ。 アウローラ・ヴァイスブルク 一条いちじょう 奏かなで 双子の妹。前世は冷静沈着な剣道部員。学業優秀。転生後は長い銀色の髪を持つ。チート能力は、剣術を応用した氷/水の魔法(絶対零度の剣)と土の魔法(鉄壁の防御・地形操作)。戦略家で頭脳明晰。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...