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第2章

自爆したら何も残らない。

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「はい、そこまで! 有難うレーツェル、助かったわ」
 パンパン!と手を叩く音と共に割って現れたのは、身長は高く、瞳は綺麗な澄んだ水色で、顔の造形はとても良いが、何故か髪はどピンクで極彩色の派手な服を身に纏った男性だった。

 何所かで見た事のある人……と、ぼんやり回想出来ない。
 それはもう、ドコと言うよりも。
 殺されたけたあの日に出会ったアノヒトだ。
 忘れる事が出来る人がいたら知りたい位に、存在感のある彼だった。

 シエン・シア・メーディカ(オカマっぽい人)でしょ、この人。
 あの日より殆ど老化の兆しが見えない位に、同じ顔だった。
 父様と同じ年齢なのに、どんな方法でその顔を保っているのか聞きたくなる。

 その言葉を聞き、レーツェルと呼ばれた銀髪の少年は刃を鞘に収めた。
「驚かせてすまない。シエンに止める様にと言われたので強硬手段に出させて貰った」

「はぁ……そうですか。ちなみにその剣は本物?」
「そうだが? ああ、知らないのは無理もないか。僕は、レーツェル・エスパーダ。皇族に仕える騎士で、帯剣を許されている。使う必要のない時は、別空間に剣を仕舞っている。こんな風に」
 私の質問に合点がいって彼はそう言うと、ポンとちょっとだけ空中に剣を上げるとフッとそれは一瞬でかき消える。

「本来ならば学院への持ち込みは制限されるのだが、あの剣は僕の魔道具《マジックアイテム》なので許可されているから違法ではないよ。一応、緊急事態と言う事で許可はシエンから出ているからね」
 にっこりと微笑みを浮かべて、レーツェルは回答する。

「アタシはシエン・シア・メーディカ。治癒魔術の教師で、この寮の寮監よ。申し開きがあるならそっちで聞くわ。パーム・グラニット」
 へたり込んでいる彼女の隣に立つと、シエンは強い口調で言い放った。

 しかも、目がマジだ。
 冷たい表情で、正直おっかない。

 そして、流石と言っていいだろう、パームはむっとした表情になり立ち上がると。
「何よ、それ、私が悪いと言うの?!」
 横柄な態度で言い放つ。

「ふふふふ……パーム、アンタ違う意味でも凄いわね。ある意味称賛に値するわね。このアタシにまでそういう態度とはね」
 地を這うような嗤いと侮蔑する様な賛辞を送るシエンに、マジで私は怖いと思ってしまう。

「そりゃあ、そうだろうよ。自分の世界《ものさし》でしか物事や他者を測れないんだからな。シエンが、治療魔術省の大臣だって知らないのは、愚か者の極みだろ? ケンカ売っているのが自分の父親よりも地位が高く権力もあるのを知らないとは、本当に滑稽だ。久しぶりに見てもこの手合いは救い様がないな。一体、コレのドコに、穏便に済ませてやる必要があるんだ?」

 呆れかえった透る美声に、はっとなってその方向を見ると……東屋の柱に背を預けて、冷やかに見詰める少年がいた。

「う、そ……」
 私の口から思わず声が漏れた。

 風に靡く銀茶色の髪から見える幻想的な紫の瞳が射抜く。
 整った顔立ちが、皮肉気にこの状況を見て口元に笑みを浮かべている。
 少年ぽさを残しつつも、大人びている綺麗な美形顔や、あからさまに醸し出る雰囲気が上流階級の人間だと言外に現わしていた。

 現・宰相の息子にして、当代女王陛下の甥っ子、ラグナリア星皇家の第2皇位継承者で、ついこの間私の婚約者になったカグラ・ジーノ・ラグナその人じゃないのよぉぉぉぉ!!


 ダッシュで逃げたい。
 そう思ってもいいよね?
 何故に速攻で遭遇しなくてもいいじゃない。
 あああああ、どうしよー。
 ナツキ本人だって事が、バレませんように!!

 私は心の中で、神様に願った。
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