悪役にされた令嬢は、阿呆共に報復する

龍希

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断罪の六重奏17

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 ファルクスに甲斐甲斐しく、世話をやかれながらエルーシャは自室で用意されたナイトティーをゆっくり味わっていた。疲労回復と安眠を重視したブレンドは、花の薫りが鼻腔を擽る。

「又聞きでしたが、聞けば聞くほど呆れるクズっぷりでした。賢妃様の弟とは思えませんでした。意気投合する甥もアレですが」
 憤懣やるかたない感じでファルクスが、事の次第をエルーシャを残らず報告した。

「ファルクス、ちょっとこっちに来なさい」
「あ、はい」
 エルーシャは、カップをテーブルの上にあるソーサーにゆっくり戻す。近寄って来たファルクスの顔に手を伸ばした。ファルクスは腰を屈めて、エルーシャと自然に目線を合わす。
「気持ちは分かるけど、あんまり怒りすぎてるから眉間のシワが……」
 ぐりぐりと、エルーシャが人差し指でファルクスの眉間を擦る。嫌がらず、されるがままになる。

「ファルクスの実家の領地も王妃様のお陰で立ち直る切っ掛けを貰ったものね」
「帝国の全土が気候不全で大変な騒ぎの時。王国に不利益が降りかかる前にと、あちらこちらの地域で対応出来る様にと、気候不順でも育つ作物の余剰分の種などをかき集め、帝国に手を差し伸べて下さった」
「親善と言う名目で帝国にいらした時のことね」
 うんうん、とエルーシャは相槌をうつ。
「通り道の貧しい村や、気候の厳しい土地にわざわざ立ち寄り、作物の種や苗を寄贈しながら帝都へ向かった。親切心、偽善、投資目的だと思っても構わないと言い、この先自分の国に同じ様な事があったら助けて欲しい。余裕があったら作物の育成結果を知らせて欲しい。と、言っていたそうです」
「先見の明がある方よね。本当に。ここだと育てるのに難がある作物でさえ、別の土地なら何かの時に役立つかもしれないだけで、種を増やしながら、分析するように命じていたと聞いたわ」
「他国なのに、王妃様は帝国民にも今でも人気の人です。寄贈された苗と種の作付けは、一部上手くはいかなかった。けれど、その行動力を讃えられてます。荷馬車一台分の種と苗を持って、親善に来た方はあの方だけだった」
「沢山の帝国民が王妃様の行動力で救われた。あの方が窮地と言うことで、恩に報いるべきというのが上の総意だったものね。見捨てる選択肢などなかったわ。そんなことすれば、民が反乱するかもと危惧すらあったわね」
 エルーシャはファルクスの眉間をほぐし終わると、すーっと眉間から上まぶたを指先で触れながら、頬へと移動させていく。手のひらで頬の感触を楽しみながらじっとファルクスの二色の瞳を見上げる。
「人格者の子供でも、兄弟でも全員がまともとは限らないからやるせないわね」
「ええ。人はいくらでも堕ちようとすれば何処までも堕ちる事が出来る」
「一度その快楽に身を浸してしまえば、そこから這い上がるのは容易ではないもの。自分に都合の良いように言い訳をして、楽な方へと進む。自身を律している人からすれば、腹立たしいけど。それが、その人達の常識なんだから嫌になるわ」
 ため息を吐き、エルーシャはファルクスの頬を撫でる。

 何を言っても、その思いは届かず。好きなように解釈される。一応、従兄弟のカルステンも言葉を尽くしてみたものの、この結果。他者でも心を少しでも許してしまったり、気持ちを傾けたり、と思いを尽くして何かを行えばどうしたって気持ちの乖離は生まれる。ジレンマはいつだって起こる。

「自分の命を絶つ決断を決めた、王妃様のお心を思うと切ないわね」
「エメル王子の英断がなければ、今頃はゾッとする展開になっていたかもしれません」
「……本当にね」

 どうにも出来ない思いを呑み込む二人だった。
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