29 / 38
断罪の六重奏17
しおりを挟む
ファルクスに甲斐甲斐しく、世話をやかれながらエルーシャは自室で用意されたナイトティーをゆっくり味わっていた。疲労回復と安眠を重視したブレンドは、花の薫りが鼻腔を擽る。
「又聞きでしたが、聞けば聞くほど呆れるクズっぷりでした。賢妃様の弟とは思えませんでした。意気投合する甥もアレですが」
憤懣やるかたない感じでファルクスが、事の次第をエルーシャを残らず報告した。
「ファルクス、ちょっとこっちに来なさい」
「あ、はい」
エルーシャは、カップをテーブルの上にあるソーサーにゆっくり戻す。近寄って来たファルクスの顔に手を伸ばした。ファルクスは腰を屈めて、エルーシャと自然に目線を合わす。
「気持ちは分かるけど、あんまり怒りすぎてるから眉間のシワが……」
ぐりぐりと、エルーシャが人差し指でファルクスの眉間を擦る。嫌がらず、されるがままになる。
「ファルクスの実家の領地も王妃様のお陰で立ち直る切っ掛けを貰ったものね」
「帝国の全土が気候不全で大変な騒ぎの時。王国に不利益が降りかかる前にと、あちらこちらの地域で対応出来る様にと、気候不順でも育つ作物の余剰分の種などをかき集め、帝国に手を差し伸べて下さった」
「親善と言う名目で帝国にいらした時のことね」
うんうん、とエルーシャは相槌をうつ。
「通り道の貧しい村や、気候の厳しい土地にわざわざ立ち寄り、作物の種や苗を寄贈しながら帝都へ向かった。親切心、偽善、投資目的だと思っても構わないと言い、この先自分の国に同じ様な事があったら助けて欲しい。余裕があったら作物の育成結果を知らせて欲しい。と、言っていたそうです」
「先見の明がある方よね。本当に。ここだと育てるのに難がある作物でさえ、別の土地なら何かの時に役立つかもしれないだけで、種を増やしながら、分析するように命じていたと聞いたわ」
「他国なのに、王妃様は帝国民にも今でも人気の人です。寄贈された苗と種の作付けは、一部上手くはいかなかった。けれど、その行動力を讃えられてます。荷馬車一台分の種と苗を持って、親善に来た方はあの方だけだった」
「沢山の帝国民が王妃様の行動力で救われた。あの方が窮地と言うことで、恩に報いるべきというのが上の総意だったものね。見捨てる選択肢などなかったわ。そんなことすれば、民が反乱するかもと危惧すらあったわね」
エルーシャはファルクスの眉間をほぐし終わると、すーっと眉間から上まぶたを指先で触れながら、頬へと移動させていく。手のひらで頬の感触を楽しみながらじっとファルクスの二色の瞳を見上げる。
「人格者の子供でも、兄弟でも全員がまともとは限らないからやるせないわね」
「ええ。人はいくらでも堕ちようとすれば何処までも堕ちる事が出来る」
「一度その快楽に身を浸してしまえば、そこから這い上がるのは容易ではないもの。自分に都合の良いように言い訳をして、楽な方へと進む。自身を律している人からすれば、腹立たしいけど。それが、その人達の常識なんだから嫌になるわ」
ため息を吐き、エルーシャはファルクスの頬を撫でる。
何を言っても、その思いは届かず。好きなように解釈される。一応、従兄弟のカルステンも言葉を尽くしてみたものの、この結果。他者でも心を少しでも許してしまったり、気持ちを傾けたり、と思いを尽くして何かを行えばどうしたって気持ちの乖離は生まれる。ジレンマはいつだって起こる。
「自分の命を絶つ決断を決めた、王妃様のお心を思うと切ないわね」
「エメル王子の英断がなければ、今頃はゾッとする展開になっていたかもしれません」
「……本当にね」
どうにも出来ない思いを呑み込む二人だった。
「又聞きでしたが、聞けば聞くほど呆れるクズっぷりでした。賢妃様の弟とは思えませんでした。意気投合する甥もアレですが」
憤懣やるかたない感じでファルクスが、事の次第をエルーシャを残らず報告した。
「ファルクス、ちょっとこっちに来なさい」
「あ、はい」
エルーシャは、カップをテーブルの上にあるソーサーにゆっくり戻す。近寄って来たファルクスの顔に手を伸ばした。ファルクスは腰を屈めて、エルーシャと自然に目線を合わす。
「気持ちは分かるけど、あんまり怒りすぎてるから眉間のシワが……」
ぐりぐりと、エルーシャが人差し指でファルクスの眉間を擦る。嫌がらず、されるがままになる。
「ファルクスの実家の領地も王妃様のお陰で立ち直る切っ掛けを貰ったものね」
「帝国の全土が気候不全で大変な騒ぎの時。王国に不利益が降りかかる前にと、あちらこちらの地域で対応出来る様にと、気候不順でも育つ作物の余剰分の種などをかき集め、帝国に手を差し伸べて下さった」
「親善と言う名目で帝国にいらした時のことね」
うんうん、とエルーシャは相槌をうつ。
「通り道の貧しい村や、気候の厳しい土地にわざわざ立ち寄り、作物の種や苗を寄贈しながら帝都へ向かった。親切心、偽善、投資目的だと思っても構わないと言い、この先自分の国に同じ様な事があったら助けて欲しい。余裕があったら作物の育成結果を知らせて欲しい。と、言っていたそうです」
「先見の明がある方よね。本当に。ここだと育てるのに難がある作物でさえ、別の土地なら何かの時に役立つかもしれないだけで、種を増やしながら、分析するように命じていたと聞いたわ」
「他国なのに、王妃様は帝国民にも今でも人気の人です。寄贈された苗と種の作付けは、一部上手くはいかなかった。けれど、その行動力を讃えられてます。荷馬車一台分の種と苗を持って、親善に来た方はあの方だけだった」
「沢山の帝国民が王妃様の行動力で救われた。あの方が窮地と言うことで、恩に報いるべきというのが上の総意だったものね。見捨てる選択肢などなかったわ。そんなことすれば、民が反乱するかもと危惧すらあったわね」
エルーシャはファルクスの眉間をほぐし終わると、すーっと眉間から上まぶたを指先で触れながら、頬へと移動させていく。手のひらで頬の感触を楽しみながらじっとファルクスの二色の瞳を見上げる。
「人格者の子供でも、兄弟でも全員がまともとは限らないからやるせないわね」
「ええ。人はいくらでも堕ちようとすれば何処までも堕ちる事が出来る」
「一度その快楽に身を浸してしまえば、そこから這い上がるのは容易ではないもの。自分に都合の良いように言い訳をして、楽な方へと進む。自身を律している人からすれば、腹立たしいけど。それが、その人達の常識なんだから嫌になるわ」
ため息を吐き、エルーシャはファルクスの頬を撫でる。
何を言っても、その思いは届かず。好きなように解釈される。一応、従兄弟のカルステンも言葉を尽くしてみたものの、この結果。他者でも心を少しでも許してしまったり、気持ちを傾けたり、と思いを尽くして何かを行えばどうしたって気持ちの乖離は生まれる。ジレンマはいつだって起こる。
「自分の命を絶つ決断を決めた、王妃様のお心を思うと切ないわね」
「エメル王子の英断がなければ、今頃はゾッとする展開になっていたかもしれません」
「……本当にね」
どうにも出来ない思いを呑み込む二人だった。
10
あなたにおすすめの小説
みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います
下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。
御都合主義のハッピーエンドです。
元鞘に戻ります。
ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。
それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。
もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。
そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。
普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。
マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。
彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。
佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。
そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。
しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。
不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。
「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」
リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。
幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。
平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる