片翼の召喚士-sequel-

ユズキ

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後日談編

お出迎え

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 19時を回ると、招待客たちが続々と到着した。

「こんばんは、お嬢さん、メルヴィン。お邪魔させていただきますよ」

「白くまのおじーちゃん!」

 玄関ホールで招待客たちを出迎えていたキュッリッキは、大喜びでブルーベル総帥に飛びついた。

「まあまあ、なんて可愛らしいお嬢様なんでしょう」

 横から柔らかな声がして、キュッリッキは顔を向けると大きく目を見張った。

「白くまのおばーちゃん!?」

「ホホホ。ワシの家内のアリシアです」

「初めまして、キュッリッキさん」

 身長はキュッリッキより頭1個分高いが、ふっくら朗らかな笑みを浮かべる白クマの老婦人が、優雅に一礼した。

「妻も同伴してよろしいとのことでしたので、お言葉に甘えましたよ。ご招待ありがとう」

 ブルーベル夫妻をキラキラした目で見つめながら、キュッリッキは何度も頷いた。

「ようこそいらっしゃいました、ブルーベル総帥」

「ありがとうメルヴィン。来月から正規部隊の面倒を、よろしく頼みますよ」

「精一杯努めます」

 出迎えたメルヴィンは、ブルーベル総帥と固く握手を交わす。そして、ブルーベル夫人に恭しく礼をした。

「ご婚約、おめでとうございます」

「ありがとうございます、夫人」

 メルヴィンは照れ臭そうに微笑み、差し出されたブルーベル夫人の手を握った。

「パーティールームへ案内させますので」

 メルヴィンがメイドの一人を呼ぶと、ブルーベル夫妻は案内されて奥へと消えた。

「あの人たちの相手は、メルヴィンにおまかせなの…」

 ボソボソっと小声で言うキュッリッキに、メルヴィンは苦笑する。

 軍服軍団が伴侶を連れてゾロゾロ登場した。

「仰せのままに、姫君」



 ブルーベル元将軍が総帥の地位に昇格したので、空いた将軍職には、第一正規部隊元大将エクルースが就いた。

 現在大将の地位に就く10人の中で、一番の年上、ということが選ばれた理由らしい。
「この度は将軍への昇進、おめでとうございますエクルース閣下」

 先頭を歩くエクルース将軍に、メルヴィンが手を差し出す。

「ありがとうメルヴィン。年上といっても、まだ46歳なんだがな」

 メルヴィンの手を握り返しながら、エクルース将軍は苦笑う。隣でエクルース夫人が可笑しそうに笑った。

「第一正規部隊の新しい大将を紹介しよう」

 エクルース将軍が後ろを振り向くと、まだ二十代後半くらいの青年が、緊張した面持ちで前に出た。

「ピトゥカランタ大将だ。珍しく魔法スキル〈才能〉持ちだ」

「それは。――初めまして、ピトゥカランタ大将」

「初めましてメルヴィンどの。そして、お初にお目にかかります、キュッリッキお嬢様」

「初めましてなの」

 ピトゥカランタ大将を見上げながら、キュッリッキはちょっと不思議そうに首をかしげた。

 それを目ざとく見て、エクルース将軍が笑んで頷く。

「正規部隊は主に、戦闘スキル〈才能〉持ちで構成されます。魔法使いには魔法部隊(ビリエル)という専門部隊があるので、そちらの方へ編成されるのです。ですが、小隊ほどの人数だけ、各正規部隊に魔法使いも編成されています。いざという時の対処のためです」

「そうなんだあ~」

「ピトゥカランタ大将は非常に優秀で、アルカネット様ほどではないですが、スキル〈才能〉もSSランクと高く、指揮官としても優れています。まだ若いですが、じゅうぶん大将としてやっていけるでしょう」

 太鼓判を押されたピトゥカランタ大将は、照れ臭そうに俯いた。

「それだけランクが高ければ、魔法部隊(ビリエル)のほうで欲しがったでしょう」

「正規部隊へは自ら志願しました。メルヴィン様のことも存じてます」

「メルヴィンって有名人なんだね」

「はい。メルヴィン様が退役なさる時は、エクルース将軍も含め、全大将が出向いて思いとどまらせようとしたくらいですよ。今でも語り継がれてます」

 ピトゥカランタ大将はにっこり笑うと、キュッリッキも嬉しそうにメルヴィンを見上げる。後ろの方では、ほかの大将たちが大笑いしていた。

「あの時は、大将たちが押しかけてきて、何事かと驚きましたよ…」

 申し訳なさそうにメルヴィンは頭をカシカシと掻いた。

 荷物整理をするために宿舎にいると、大将たちが血相を変えて押しかけてきたことを、懐かしくもゲッソリした顔で思い出していた。

「ほらほら、あーた達、こんな入口で盛り上がってると、後がつっかえててよ」

 様子を見に来たリュリュに促され、エクルース将軍や大将たちが、慌てて敬礼する。

「それでは、我々は先に行っております」

 エクルース将軍はキュッリッキとメルヴィンに丁寧に一礼し、大将たちとともに奥へと消えていった。

「リュリュさん、将軍たちより偉くなったんですか?」

「皇王陛下の首席秘書官になったんですよ」

 これにはダエヴァ第一部隊の、ラーシュ=オロフ長官が答えた。

「組織変更が色々済んだから、ジジイのお守りをしてくれって頼まれたのヨ」

「ジジイ…」

 メルヴィンはぼそっと呟く。

 亡きベルトルドには能無しボケジジイと言われ、リュリュにはジジイである。皇王とは一体。

「立場的には、副宰相と同等の地位になりますね」

「ベルトルドさんと一緒なんだあ」

「最初は副宰相をやれって言われたけど、ベルのあの規格外の忙しさをそばで見てたでしょ。冗談じゃないわって跳ね除けたら、秘書官とか押し付けられたってわけ。まあ、マルック宰相の面倒も見ないといけないから、忙しさは似たようなものね」

 なよっとしなを作り、リュリュはうんざり気味に肩をすくめた。

 リュリュの事務処理能力は、ベルトルドを凌ぐと言われている。あれだけ滅茶苦茶に仕事を押し付けられたいたベルトルドがやっていけたのも、リュリュの補助があったからこそらしい。

「リュリュさんも大変なんだね」

「判ってくれるのね小娘。イイ子イイ子」

 リュリュはキュッリッキの頭をガシッと抱き寄せると、グリグリと頭を撫で回して、切なげにため息をつくのだった。
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