改造王女の後継争奪記

ユズキ

文字の大きさ
2 / 42

2話:一等賞の代償が、ちょっと過酷すぎません…?

しおりを挟む
「一週間も眠っていて心配したのよ。元気そうで安心したわ」

 胸を撫で下ろすような仕草をして、バークティ妃は笑みを深めた。

「色々お話をしましょう。こちらへ来て」

 優雅に差し出されたバークティ妃の手を見て、カエは警戒した。しかしこの状況の答えが知りたくて、カエはゆっくりとその手を取った。



「さて、どこから話しましょうか」
「1から100まで全部お願いします!」

 一息に言って、しかしカエは「ハッ」となる。

「やっぱ、先に結論から教えて!」

 もし説明が長くなったら、答えが早々に気になってしまうと思い直した。

「おほほほ、面白い子ね。じゃあ、先に結論から言うわね」

 両手をパチンと合わせて、美しく微笑む。

「わたくしの――この王国に対する“復讐”の鍵となっていただくわ、シャンティとして」

 一瞬場が静まり返る。

「…ふく、しゅー?」

 カエはゆっくりまばたきした。
 頭の中に意味が入ってこない。

(何言ってんのこの人? 鍵とかって、私人間だよ――は?)

 あまりにも突飛過ぎて、カエの脳内は一瞬でカオスを極めた。
 さすがに答えを急ぎ過ぎた。
 そんなカエの表情かおを見て、バークティ妃は苦笑する。

「アドラシオン大陸に君臨するイリスアスール王国は、超巨大な王国なの。他国に攻め入り隷属させ、王族の王女たちを自らのきさきとした。わたくしはその一人で、ミラージェス王国の王女だったの」

 貼り付けたような笑顔が引っ込み、バークティ妃の美しい面には、冷たい色が浮かんだ。

「隷属された国はね、奴隷のように扱われて酷いものよ。尊厳も何も踏みにじられ、搾取され続ける」

 宝石に彩られた手が一瞬震え、ギュッと握られる。

「イリスアスール王国に対抗できる戦力を持たないわたくしの国が、再び独立するためには、わたくしが産んだ子供が玉座に就くこと」

 美しくも鋭いバークティ妃の目が、カエを突き刺すように見つめる。

(子供が王様になったら、祖国が独立できるんだ…)

「そうなれば、わたくしの国は独立し、友好国扱いになる。――恥辱に耐える日々から抜け出せる。そして祖国は、イリスアスール王国という後ろ盾を得られるわ」
「ちょ、ちょっと待って。あなたが産んだ子供が王様にならないといけないんでしょ? なんで私が」
「わたくしの娘、シャンティ王女は数ヵ月前に事故死してしまったのよ」

 カエは大きく目を見開いた。そして、恐る恐る自分の顔に手を這わす。
 一週間前味わった激痛、そして変わっている容姿。
 青ざめていくカエの顔を見て、バークティ妃はニヤリと笑む。

「そう、あなたをシャンティ王女の姿に整え、彼女の力も植え付けたのよ」
「か、改造したってこと!? 一体、どんな力を…」

 カエの暮らしていた世界では、アリエナイ髪の色。祖母に似ていると言われた面影は、片鱗もない程変わっている。
 そして、謎の力。
 ふと目の端に、たたまれた制服のポケットからのぞく紙切れが見えた。
 福引で引き当てた、一等賞の景品。
 クシャクシャになったハワイ行航空チケットが、この非現実を現実たらしめているようだった。

「ヴァルヨ・ハリータは、イリスアスール王国の王家、カルマ王家が代々継いでいる特殊な力の名称」
「カマル王家…」
「後継の座に就くためには、人格や賢明な点よりも、力の有無が全てなの」
「ふむ…」

 神妙に頷きつつ、つい、

(ヴァルヨ・ハリータ…ってなんか、人の名前みたい。ヴァルヨさんトコのハリータさん、みたいな)

 自分でツッコミを入れて、吹き出しそうになるのを堪えた。

「そんな力が、王様に就くための条件になるの…?」
「なるのよ。その力があれば、ソティラスという、優れた戦闘奴隷を作り出せるの」
「…戦闘奴隷…」

 奴隷という言葉で、心に不快感が過った。

「そう。ソティラスについての説明は後でするわ」
「――亡きシャンティ王女は、ヴァルヨ・ハリータの力を受け継いでいたの。後継者第3位だった。それなのに、まさか事故で亡くなるなんて…」

 バークティ妃は悔しそうに、口を引き結んだ。

(いや、事故ってサラッと言ったけど、なんで悔しそうなの…?)

「わたくしはどんなことをしてでも、シャンティ王女を後継ぎにしなければならなかった」

 ゾッとするほど、バークティ妃の顔が怒りに歪んだ。

「――全てが、順調だったのよ。シャンティは力を継いでいた。折角ラタに少しずつ毒を盛って弱らせてきたのに…」

 バークティ妃は語尾を低くして、下唇を強く噛んだ。

「あとは少しの時間を待つだけだった!」
「へ?」

 毒、という言葉に、カエの顔が引き攣った。
 バークティ妃は冷たく微笑わらう。

正后せいしつの娘、ラタ王女には……すでに長きにわたって、静かに“弱って”いただいているの」
「ファアアアっ! どっ、毒!?」

 カエは思わず絶叫した。
 背中に冷たいものが走り、目の前の笑顔に恐怖する。

(さらっと笑いながら言ったよ、盛ってるって言った!)
(怖いってば!)

「着々と進めていた準備も、肝心のシャンティ王女の死で、水の泡となったわ…」

 愁いを帯びた顔でため息をつき、そしてまた微笑みが浮かぶ。

「でもわたくし、何が何でも祖国を解放したいの」
「だからね、秘術を駆使して、異世界からあなたを呼び寄せた。そして、シャンティ王女の姿に改造して、ヴァルヨ・ハリータの力も継承させたのよ」

 ガツンと殴られたような衝撃が、カエの全身を貫いた。

(ガチでこの人コワイっ!)

 七転び八起きを体現したような人だと理解する。そして、ふと疑問が湧いた。

「私が選ばれたのは、なんで?」
「あなたを特定してのことではないの」

 バークティ妃は片手を頬に添える。

「秘術をかけるためには、この世界の人間じゃダメなのよ。理由は知らないけれど。改造に適合する人間を無作為に選んで、召喚するシステムになっているわ。あなたはそれに引っかかったのね」

 カエは俯いて膝頭を強く握った。

(どこが幸運日だってゆー…)

 一等賞を引き当てたことで、今度は不幸を引き当てたのか。ある意味物凄い引き。

(こんなエンドレス課金しても出ない理不尽SSRガチャ、リスクデカすぎてイラねーよ!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

怠惰令嬢の玉の輿計画 昼寝してたら侯爵様と面倒なことになりました

糸掛 理真
恋愛
頑張りたくない 働きたくない とにかく楽して暮らしたい そうだ、玉の輿に乗ろう

処理中です...