22 / 42
22話:葬儀会場にて
しおりを挟む
「さあ、行くわよみんな」
優雅に自信たっぷりに、バークティ妃が微笑む。
ラタ王女の葬儀当日。
みんな真っ白な喪服で会場へ向かう。
バークティ妃、カエ、スニタ、カルリトス、シャム、マドゥ、そして7人の≪分身≫が付き添った。ソティラスたちはアンブロシア宮で待機だ。
「シャンティ様がドジを踏まぬよう、私が後ろでしっかりサポートします」
「こ…心強いですわ」
カエの口元が、上品に引き攣る。
この3か月間、スニタによる地獄の王女教育を耐え抜いた。その成果が今日、試される。
会場はウシャス宮殿の中央、王の寝所ヴリトラ宮にある庭で行われる。
「オリンピックの開会式場みたい…」
ヴリトラ宮の召使いに案内されて入った庭は、何もない、だだっ広い競技場のようだ。
すでに大勢の人々が地面に座っていた。
案内された一角は、見ただけでも判る、高貴な身分の人々が椅子に座っている。
王族だ。
(あっ)
カエはアルジェン王子の挑発的な視線に気づき、表情を引き締めた。
「これはこれは、ハジメマシテ、我が妹シャンティ王女」
「ご挨拶を先にありがとうございます。初めましておにいさま」
アルジェン王子とカエの間に、火花がバチバチぶつかる。
その場の空気が一瞬にして凍りついた。
(ケッ! なあにが「おにいさま」よ、気持ち悪いったら)
胸中で粗野に毒づく。
「アイシュワリヤー妃殿下、御久し振りでございます」
この空気を意に介するふうもなく、バークティ妃がいつものニコニコ笑顔で割って入った。
「こちらこそ、御久し振りですね、バークティ妃殿下」
青い髪をした美しい女性が、ゆったりとした仕草で会釈する。
アルジェン王子の母、アイシュワリヤー・ルディヤーナだ。バークティ妃とは対照的に、ニコリともせず冷たい表情を浮かべていた。
「この度は、王子共々ソーマ宮に?」
「ええ、もちろんですわ」
ソーマ宮は東側にある、男の後継者が住まう宮殿だ。
アイシュワリヤー妃は象牙細工の扇で口元を隠し、切なげにため息をつく。
「年齢で言えば、18歳になるアルジェン王子が、ラタ王女の後を継ぐのですけれど。何故陛下は、シャンティ王女と競わせようとなさるのか…」
アイシュワリヤー妃が声のトーンを一つ上げて言い放つ。
「確かに年齢順で言えばそうなりますけれど…」
いったん区切り、バークティ妃は美しい柄をあしらった鉄扇を、”バッ”と大きな音を立てて開く。
「ホホホ、せっかくヴァルヨ・ハリータの力を継いだ子供が、2人もいるんですもの。競わせたくなるのも、無理はありませんわ」
バークティ妃のこの言葉に、アイシュワリヤー妃よりも周囲がざわめいた。
「相変わらず強気じゃのバークティ。――ヴァルヨ・ハリータの力を継ぐことができなかった、王子王女を持つ他の妃たちじゃ」
カルリトスがそっと耳元で囁いた。
少し離れたところにかたまって座っている。
ディシャ・ウルタード妃、20歳になるアーメッド王子。
アヌプリヤー・エスキベル妃、21歳になるダルシャン王子。
シュリヤ・デラ妃、13歳になるビベック王子。
カージャル・ペラレス妃、10歳になるシータ王女。
他の4人の兄弟妹たちは、ヴァルヨ・ハリータの力を授かることが出来ず、後継者争いから完全に外されていた。
身分的なものを持ち出せば、同じ王族であっても、アルジェン王子とシャンティ王女とは格が違うらしい。
腹違いとはいえ同じ血を分けた兄弟妹だが、アルジェン王子以外の兄弟妹たちは、目を合わせようともしなかった。顔に「屈辱」と書いて俯いている。
(なんだか悲しいな…。まあ、私が後継者候補だから、そう思えるのかもしれないけど)
アルジェン王子とアイシュワリヤー妃とは、少し離れたところの席へ座った。
会場に全ての客が入り席に着くと、やがて銅鑼の音が会場に轟いた。
「あれが、あなたのお父様よ」
「どれどれ…」
バークティ妃が扇で示すほうへ視線を向ける。
ボーディ・カマル・イリスアスール。
即位してすぐ周辺7国へ攻め入り隷属させ、国土を一気に広げた『偉大なる王』とも呼ばれている。
45歳になる王は、褐色の肌に金色の髪をしていた。
(某アニメに出てきそうな、王子様顔っぽい。授業参観に来ると、クラスメイトに自慢したくなるような。ウン、そんな感じ)
勝手な感想を脳内で並べていると、一瞬だけ王と視線が重なった。
「……」
しかしそれだけで、王は座席について会場を見渡していた。
(バ、バレたかと思った…ビビったわ…)
カエは内心ドキリとして、冷や汗を流した。
王から遅れて、1人の女性が召使いに付き添われて姿を現した。
「ハンシカ・フェレイロ・イリスアスール王后よ」
バークティ妃が囁くように教えてくれる。
やや褐色の肌と黒髪の、奇麗な人だった。
とても控えめな感じで、バークティ妃やアイシュワリヤー妃のほうが、よほど気位が高い。とくに今は、娘を亡くして悲しみに暮れる母親という雰囲気に包まれている。
王后が席につくと、式が始まった。
優雅に自信たっぷりに、バークティ妃が微笑む。
ラタ王女の葬儀当日。
みんな真っ白な喪服で会場へ向かう。
バークティ妃、カエ、スニタ、カルリトス、シャム、マドゥ、そして7人の≪分身≫が付き添った。ソティラスたちはアンブロシア宮で待機だ。
「シャンティ様がドジを踏まぬよう、私が後ろでしっかりサポートします」
「こ…心強いですわ」
カエの口元が、上品に引き攣る。
この3か月間、スニタによる地獄の王女教育を耐え抜いた。その成果が今日、試される。
会場はウシャス宮殿の中央、王の寝所ヴリトラ宮にある庭で行われる。
「オリンピックの開会式場みたい…」
ヴリトラ宮の召使いに案内されて入った庭は、何もない、だだっ広い競技場のようだ。
すでに大勢の人々が地面に座っていた。
案内された一角は、見ただけでも判る、高貴な身分の人々が椅子に座っている。
王族だ。
(あっ)
カエはアルジェン王子の挑発的な視線に気づき、表情を引き締めた。
「これはこれは、ハジメマシテ、我が妹シャンティ王女」
「ご挨拶を先にありがとうございます。初めましておにいさま」
アルジェン王子とカエの間に、火花がバチバチぶつかる。
その場の空気が一瞬にして凍りついた。
(ケッ! なあにが「おにいさま」よ、気持ち悪いったら)
胸中で粗野に毒づく。
「アイシュワリヤー妃殿下、御久し振りでございます」
この空気を意に介するふうもなく、バークティ妃がいつものニコニコ笑顔で割って入った。
「こちらこそ、御久し振りですね、バークティ妃殿下」
青い髪をした美しい女性が、ゆったりとした仕草で会釈する。
アルジェン王子の母、アイシュワリヤー・ルディヤーナだ。バークティ妃とは対照的に、ニコリともせず冷たい表情を浮かべていた。
「この度は、王子共々ソーマ宮に?」
「ええ、もちろんですわ」
ソーマ宮は東側にある、男の後継者が住まう宮殿だ。
アイシュワリヤー妃は象牙細工の扇で口元を隠し、切なげにため息をつく。
「年齢で言えば、18歳になるアルジェン王子が、ラタ王女の後を継ぐのですけれど。何故陛下は、シャンティ王女と競わせようとなさるのか…」
アイシュワリヤー妃が声のトーンを一つ上げて言い放つ。
「確かに年齢順で言えばそうなりますけれど…」
いったん区切り、バークティ妃は美しい柄をあしらった鉄扇を、”バッ”と大きな音を立てて開く。
「ホホホ、せっかくヴァルヨ・ハリータの力を継いだ子供が、2人もいるんですもの。競わせたくなるのも、無理はありませんわ」
バークティ妃のこの言葉に、アイシュワリヤー妃よりも周囲がざわめいた。
「相変わらず強気じゃのバークティ。――ヴァルヨ・ハリータの力を継ぐことができなかった、王子王女を持つ他の妃たちじゃ」
カルリトスがそっと耳元で囁いた。
少し離れたところにかたまって座っている。
ディシャ・ウルタード妃、20歳になるアーメッド王子。
アヌプリヤー・エスキベル妃、21歳になるダルシャン王子。
シュリヤ・デラ妃、13歳になるビベック王子。
カージャル・ペラレス妃、10歳になるシータ王女。
他の4人の兄弟妹たちは、ヴァルヨ・ハリータの力を授かることが出来ず、後継者争いから完全に外されていた。
身分的なものを持ち出せば、同じ王族であっても、アルジェン王子とシャンティ王女とは格が違うらしい。
腹違いとはいえ同じ血を分けた兄弟妹だが、アルジェン王子以外の兄弟妹たちは、目を合わせようともしなかった。顔に「屈辱」と書いて俯いている。
(なんだか悲しいな…。まあ、私が後継者候補だから、そう思えるのかもしれないけど)
アルジェン王子とアイシュワリヤー妃とは、少し離れたところの席へ座った。
会場に全ての客が入り席に着くと、やがて銅鑼の音が会場に轟いた。
「あれが、あなたのお父様よ」
「どれどれ…」
バークティ妃が扇で示すほうへ視線を向ける。
ボーディ・カマル・イリスアスール。
即位してすぐ周辺7国へ攻め入り隷属させ、国土を一気に広げた『偉大なる王』とも呼ばれている。
45歳になる王は、褐色の肌に金色の髪をしていた。
(某アニメに出てきそうな、王子様顔っぽい。授業参観に来ると、クラスメイトに自慢したくなるような。ウン、そんな感じ)
勝手な感想を脳内で並べていると、一瞬だけ王と視線が重なった。
「……」
しかしそれだけで、王は座席について会場を見渡していた。
(バ、バレたかと思った…ビビったわ…)
カエは内心ドキリとして、冷や汗を流した。
王から遅れて、1人の女性が召使いに付き添われて姿を現した。
「ハンシカ・フェレイロ・イリスアスール王后よ」
バークティ妃が囁くように教えてくれる。
やや褐色の肌と黒髪の、奇麗な人だった。
とても控えめな感じで、バークティ妃やアイシュワリヤー妃のほうが、よほど気位が高い。とくに今は、娘を亡くして悲しみに暮れる母親という雰囲気に包まれている。
王后が席につくと、式が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます
ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。
前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。
社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。
けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。
家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士――
五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。
遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。
異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。
女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの
ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる