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25話:カイラ vs デバラジ ①
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翌日朝早くから、カエとアルジェン王子、バークティ妃とアイシュワリヤー妃は、スーリヤ宮の謁見の間に呼び出されていた。
玉座につく王と共に、ソティラスたちのバトルロイヤルを見学するよう通達があったからだ。
玉座の乗る台座の足元に、王女と王子の椅子が置かれ、王妃たちはそれぞれの左右に控えるように置かれた椅子に座る。
(これじゃあ、針の筵だよ…)
(嫌味なくらい椅子近すぎ! アルジェンの顔殴れるくらいの距離じゃん)
横目でチラッとアルジェン王子を見ると、露骨にカエの反対側に身体を寄せて座っていた。
(まーいーケド)
カエも反対側の肘掛けにもたれて、正面のモニターに視線を移した。
「始めよ」
それまでずっと沈黙を守っていた王が、手振りを交えて合図する。
巨大なモニターに、広大なジャングルが映し出された。
「『妖精の森』という王室が有するジャングルの一つだ。猛獣や毒虫、毒植物など、試練に相応しい難敵がそろっている。王室専用の特別ステージだ。闘技場を使うよりよほど興が乗ろうぞ」
王は自ら説明する。どこか機嫌がよさそうに声が弾んでいた。
(…こっちの世界の妖精の概念って…全然メルヘンじゃない!)
(そんな危ない処へ、みんな大丈夫かな…)
カエは不安な表情でモニターを見つめた。
そこには草木を分けて歩く、カイラとカイラの≪分身≫が映し出されていた。
《*カイラ視点*》
「みんなと、はぐれちゃったね」
「はい」
心細そうに呟くカイラに、バリー・カイラは神妙な声で頷いた。
早朝、アンブロシア宮の中庭に、ソティラスたちは集められた。所在なげに待っていると、王の召使いたちが現れ、魔法技術を使った転送装置でこのジャングルに飛ばされた。
「気を付けてください、先ほどから、禍々しい殺気が向けられています」
「う、うん。敵、だよね…」
カイラは冷や汗を流し、ドキドキ鼓動の鳴る胸の辺りを押さえた。
辺りは鬱蒼とした木々に囲まれ薄暗くて、天井も枝葉に覆われ光が細くしか入ってこない。下草は腰辺りまで伸びていて、カイラは羽根虫を払いながら歩ていた。
「はあっ!!」
突如バリー・カイラが叫び、何かを蹴落とした。
下草に埋もれて、落としたものは見えない。それがかえってカイラを不安に陥れた。
「良い勘をしている。反応が早いな」
繁みをかきわけ、フードをかぶった少年と、フードで顔が見えない≪トイネン≫が現れた。
「赤い服…」
「我は十二神将のデバラジ」
このバトルロイヤルでは、相手の陣営が一目でわかるように服装で色分けがしてある。
十二神将は赤、カエ陣営は黒、アルジェン陣営は青だ。
「そちらの特性は格闘士か。だが相性が悪い。もっとも、魔法士相手では、他の特性は全て相性が悪いがな」
相性の悪さ。それは言い換えれば、カイラにとって最大の壁になる。
カイラの顔に、緊張の色が濃く浮き上がった。ツウッと冷や汗が背中を滑り落ちる。
デバラジはカイラたちに持っていた杖を向けた。
杖の先が赤く光ると、前方に大きな赤い魔法陣が現れる。
「まずは手始めに、どれだけ鍛えたか見てやろう」
魔法陣が強く光ると、炎をまとった蛇が現れ、カイラたちに襲い掛かった。
***
謁見の間のモニターに大きく映し出されたのは、カイラとデバラジの勝負。
「まずは一戦目、始まったな」
アルジェン王子が呟く。
「カイラ…」
映像のみで音声は聞こえない。
祈るようにモニターを見つめるカエの手は、微かに震えていた。
ソティラスとなり、超常の力を得たとはいえまだ子供だ。仲間とはぐれて危険な場所に置かれて、不安でいっぱいのはず。
(どうか、無事で…)
***
炎の蛇は、カイラ本人に狙いを定めていた。身を躍らせるたびに、火の粉が辺りに舞い落ちる。
カイラは、狙いが自分だけだと気づいた。
「あなたは、あっちのデバラジの≪トイネン≫をお願い!」
噛みついてくるように首を繰り出す炎の蛇を、カイラは拳で撃ち払う。
「了解」
バリー・カイラは頷き、素早くデバラジの≪トイネン≫へ向かった。
実際の蛇よりも軽やかに動く炎の蛇を、しかしカイラは華麗にいなしていく。
(良かった、アールシュさんとの特訓の効果が出てる!)
カイラは館での訓練のことを思い出した。
*** 回想 ***
「人間離れした力を持つソティラスと≪トイネン≫だが、中でも魔法士との相性が一番悪い。次に弓術士と銃器士だな」
「間合いが取れないからですか?」
アヤンが手をあげながら問う。
「ああ、その通りだ」
嬉しそうにアールシュはにっこり笑った。
「懐に飛び込みたいのに、全く近寄らせない。――ちなみに弓術士と銃器士は遠隔勝負になるが、そのへん魔法士のほうが何倍も上手になる」
「それは…」
アヤンは想像して眉間を寄せると、ヒクヒクっと口を引き攣らせた。
「だが、格闘士と剣士は、間合いさえ詰められれば勝機は高まる」
アールシュはみんなの目を見て、力強く言った。
「恐れずに前進するんだ」
******
(恐れず、前へ!)
カイラはぬかるむ地面をものともせず、しっかりと前を向き、大きく踏み込み飛び出した。
「このっ」
慌てたデバラジは、魔法陣からもう一匹の炎の蛇を出した。
「はああっ!!」
カイラは硬く拳を握りしめ、力強く振り下ろした。
炎の蛇は頭をグシャッと打ち抜かれ、形を崩して霧散する。
元には戻らず、炎の蛇はまた一匹になった。
「よし!」
愛らしい顔に、笑顔と自信がじわじわ広がる。
カイラはデバラジを見据えて、しっかりと拳に力を込めた。
玉座につく王と共に、ソティラスたちのバトルロイヤルを見学するよう通達があったからだ。
玉座の乗る台座の足元に、王女と王子の椅子が置かれ、王妃たちはそれぞれの左右に控えるように置かれた椅子に座る。
(これじゃあ、針の筵だよ…)
(嫌味なくらい椅子近すぎ! アルジェンの顔殴れるくらいの距離じゃん)
横目でチラッとアルジェン王子を見ると、露骨にカエの反対側に身体を寄せて座っていた。
(まーいーケド)
カエも反対側の肘掛けにもたれて、正面のモニターに視線を移した。
「始めよ」
それまでずっと沈黙を守っていた王が、手振りを交えて合図する。
巨大なモニターに、広大なジャングルが映し出された。
「『妖精の森』という王室が有するジャングルの一つだ。猛獣や毒虫、毒植物など、試練に相応しい難敵がそろっている。王室専用の特別ステージだ。闘技場を使うよりよほど興が乗ろうぞ」
王は自ら説明する。どこか機嫌がよさそうに声が弾んでいた。
(…こっちの世界の妖精の概念って…全然メルヘンじゃない!)
(そんな危ない処へ、みんな大丈夫かな…)
カエは不安な表情でモニターを見つめた。
そこには草木を分けて歩く、カイラとカイラの≪分身≫が映し出されていた。
《*カイラ視点*》
「みんなと、はぐれちゃったね」
「はい」
心細そうに呟くカイラに、バリー・カイラは神妙な声で頷いた。
早朝、アンブロシア宮の中庭に、ソティラスたちは集められた。所在なげに待っていると、王の召使いたちが現れ、魔法技術を使った転送装置でこのジャングルに飛ばされた。
「気を付けてください、先ほどから、禍々しい殺気が向けられています」
「う、うん。敵、だよね…」
カイラは冷や汗を流し、ドキドキ鼓動の鳴る胸の辺りを押さえた。
辺りは鬱蒼とした木々に囲まれ薄暗くて、天井も枝葉に覆われ光が細くしか入ってこない。下草は腰辺りまで伸びていて、カイラは羽根虫を払いながら歩ていた。
「はあっ!!」
突如バリー・カイラが叫び、何かを蹴落とした。
下草に埋もれて、落としたものは見えない。それがかえってカイラを不安に陥れた。
「良い勘をしている。反応が早いな」
繁みをかきわけ、フードをかぶった少年と、フードで顔が見えない≪トイネン≫が現れた。
「赤い服…」
「我は十二神将のデバラジ」
このバトルロイヤルでは、相手の陣営が一目でわかるように服装で色分けがしてある。
十二神将は赤、カエ陣営は黒、アルジェン陣営は青だ。
「そちらの特性は格闘士か。だが相性が悪い。もっとも、魔法士相手では、他の特性は全て相性が悪いがな」
相性の悪さ。それは言い換えれば、カイラにとって最大の壁になる。
カイラの顔に、緊張の色が濃く浮き上がった。ツウッと冷や汗が背中を滑り落ちる。
デバラジはカイラたちに持っていた杖を向けた。
杖の先が赤く光ると、前方に大きな赤い魔法陣が現れる。
「まずは手始めに、どれだけ鍛えたか見てやろう」
魔法陣が強く光ると、炎をまとった蛇が現れ、カイラたちに襲い掛かった。
***
謁見の間のモニターに大きく映し出されたのは、カイラとデバラジの勝負。
「まずは一戦目、始まったな」
アルジェン王子が呟く。
「カイラ…」
映像のみで音声は聞こえない。
祈るようにモニターを見つめるカエの手は、微かに震えていた。
ソティラスとなり、超常の力を得たとはいえまだ子供だ。仲間とはぐれて危険な場所に置かれて、不安でいっぱいのはず。
(どうか、無事で…)
***
炎の蛇は、カイラ本人に狙いを定めていた。身を躍らせるたびに、火の粉が辺りに舞い落ちる。
カイラは、狙いが自分だけだと気づいた。
「あなたは、あっちのデバラジの≪トイネン≫をお願い!」
噛みついてくるように首を繰り出す炎の蛇を、カイラは拳で撃ち払う。
「了解」
バリー・カイラは頷き、素早くデバラジの≪トイネン≫へ向かった。
実際の蛇よりも軽やかに動く炎の蛇を、しかしカイラは華麗にいなしていく。
(良かった、アールシュさんとの特訓の効果が出てる!)
カイラは館での訓練のことを思い出した。
*** 回想 ***
「人間離れした力を持つソティラスと≪トイネン≫だが、中でも魔法士との相性が一番悪い。次に弓術士と銃器士だな」
「間合いが取れないからですか?」
アヤンが手をあげながら問う。
「ああ、その通りだ」
嬉しそうにアールシュはにっこり笑った。
「懐に飛び込みたいのに、全く近寄らせない。――ちなみに弓術士と銃器士は遠隔勝負になるが、そのへん魔法士のほうが何倍も上手になる」
「それは…」
アヤンは想像して眉間を寄せると、ヒクヒクっと口を引き攣らせた。
「だが、格闘士と剣士は、間合いさえ詰められれば勝機は高まる」
アールシュはみんなの目を見て、力強く言った。
「恐れずに前進するんだ」
******
(恐れず、前へ!)
カイラはぬかるむ地面をものともせず、しっかりと前を向き、大きく踏み込み飛び出した。
「このっ」
慌てたデバラジは、魔法陣からもう一匹の炎の蛇を出した。
「はああっ!!」
カイラは硬く拳を握りしめ、力強く振り下ろした。
炎の蛇は頭をグシャッと打ち抜かれ、形を崩して霧散する。
元には戻らず、炎の蛇はまた一匹になった。
「よし!」
愛らしい顔に、笑顔と自信がじわじわ広がる。
カイラはデバラジを見据えて、しっかりと拳に力を込めた。
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