片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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美人コンテスト編

episode582

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「メルヴィンと同じ部屋じゃなくて、ツマンナイかもー」

 桜色の唇を尖らせ、ムスッとした表情でキュッリッキはボヤく。

「今日はもう寝るだけなんですから、我慢なさいませ、お嬢様」

 柔らかに波打つ金の髪を丁寧に梳きながら、アリサはクスクス笑った。

 寝支度のためにキュッリッキの髪を梳きながら、こうして身の回りのお世話をするのは久しぶり、と胸中で呟く。

「でも、もうちょっとメルヴィンと2人っきりでお喋りしたかった」

 キュッリッキにとって、娯楽のための旅行は初の体験である。

 傭兵という仕事柄、世界中のあちこちを飛び回っていたが、遊び目的に旅をすることはこれまでなかった。

 旅にはライオン傭兵団やみんながいるので、中々メルヴィンと2人きりになれない。

 夜空は晴れていて、煌きながら星が瞬いていて素敵だ。そんな星空を見ながら、メルヴィンと2人でいたい。そう思うのに、アリサは部屋を出ることを許してくれないのだ。

 それでずっと文句を言いながら拗ねている。

 寝間着に着替え、ベッドにポスッと突っ伏するように倒れこむ。そんなキュッリッキの真似をして、フローズヴィトニルも腹這いになってベッドに転がった。

 片付けをしながら、アリサは苦笑する。

 メルヴィンとの関係は、まだまだ色っぽさに欠けている。キス以上のことを、キュッリッキが望んでいない。だから万が一間違いが起きることは、心配しなくても大丈夫だろう。

 しかしそれはそれで、残念に思ってしまう。

 男女の秘め事をキュッリッキが理解していないので仕方がないが、この先いずれは知識を得て自ら求めるようになる。

(筈かな?)

 ただ、あれだけベルトルドやアルカネットが、ムラムラ欲情を発してそばにいても気づかないのだから、先は遠いかも知れない。

 大人になったお嬢様は想像しにくいな、と思ったとき、ドアをノックされてアリサは片付けの手を止める。

「はい? どなたでしょうか」

 ドアに向かって声をかけると、

「すみません、メルヴィンです」

「メルヴィン!」

 アリサが返事をするより早く、キュッリッキは飛び起きてドアに駆け寄った。

 バッとドアを開けると、キュッリッキはメルヴィンに飛びついた。

「おっと」

 不意打ちのように飛び込んできたキュッリッキを抱き止め、メルヴィンは一歩退く。

「メルヴィン~」

 嬉しそうに名を言って、満面の笑みでメルヴィンを見上げる。

 甘えてくるキュッリッキに苦笑を向けて、部屋の中で同じように苦笑するアリサに、メルヴィンは小さく会釈した。

「リッキーに、おやすみの挨拶をしに来ました」

「挨拶だけなの~?」

 今度は不満そうな顔を向けられ、メルヴィンは更に苦笑を深めた。

「寝る前に、どうしてもリッキーの顔が見たくなりました」

 腰を屈めてキスをする。

「座っていただけとはいえ、疲れたでしょう。なので今日はもう寝て、明日、沢山遊びましょう」

 穏やかで優しいメルヴィンの顔を見つめながら、キュッリッキは拗ねた顔をしたが、

「判ったの…」

 そう、しょんぼりと頷いた。

「じゃあ、おやすみなさい」

 もう一度キスをして、キュッリッキをギュッとハグすると、メルヴィンは戻っていった。

 その後ろ姿が見えなくなるまで見送り、キュッリッキはドアを閉じた。

「おやすみになる前に、メルヴィン様に会えて良かったですね、お嬢様」

「うん」

 まだしょんぼりとした表情はそのままに、キュッリッキはベッドに戻る。

「おやすみなさい、アリサ」

「はい、おやすみなさいませ」

 素直に眠ったキュッリッキに優しく微笑み、アリサは素早く寝支度を整えると、そっと灯りを消した。
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