645 / 882
美人コンテスト編
episode582
しおりを挟む
「メルヴィンと同じ部屋じゃなくて、ツマンナイかもー」
桜色の唇を尖らせ、ムスッとした表情でキュッリッキはボヤく。
「今日はもう寝るだけなんですから、我慢なさいませ、お嬢様」
柔らかに波打つ金の髪を丁寧に梳きながら、アリサはクスクス笑った。
寝支度のためにキュッリッキの髪を梳きながら、こうして身の回りのお世話をするのは久しぶり、と胸中で呟く。
「でも、もうちょっとメルヴィンと2人っきりでお喋りしたかった」
キュッリッキにとって、娯楽のための旅行は初の体験である。
傭兵という仕事柄、世界中のあちこちを飛び回っていたが、遊び目的に旅をすることはこれまでなかった。
旅にはライオン傭兵団やみんながいるので、中々メルヴィンと2人きりになれない。
夜空は晴れていて、煌きながら星が瞬いていて素敵だ。そんな星空を見ながら、メルヴィンと2人でいたい。そう思うのに、アリサは部屋を出ることを許してくれないのだ。
それでずっと文句を言いながら拗ねている。
寝間着に着替え、ベッドにポスッと突っ伏するように倒れこむ。そんなキュッリッキの真似をして、フローズヴィトニルも腹這いになってベッドに転がった。
片付けをしながら、アリサは苦笑する。
メルヴィンとの関係は、まだまだ色っぽさに欠けている。キス以上のことを、キュッリッキが望んでいない。だから万が一間違いが起きることは、心配しなくても大丈夫だろう。
しかしそれはそれで、残念に思ってしまう。
男女の秘め事をキュッリッキが理解していないので仕方がないが、この先いずれは知識を得て自ら求めるようになる。
(筈かな?)
ただ、あれだけベルトルドやアルカネットが、ムラムラ欲情を発してそばにいても気づかないのだから、先は遠いかも知れない。
大人になったお嬢様は想像しにくいな、と思ったとき、ドアをノックされてアリサは片付けの手を止める。
「はい? どなたでしょうか」
ドアに向かって声をかけると、
「すみません、メルヴィンです」
「メルヴィン!」
アリサが返事をするより早く、キュッリッキは飛び起きてドアに駆け寄った。
バッとドアを開けると、キュッリッキはメルヴィンに飛びついた。
「おっと」
不意打ちのように飛び込んできたキュッリッキを抱き止め、メルヴィンは一歩退く。
「メルヴィン~」
嬉しそうに名を言って、満面の笑みでメルヴィンを見上げる。
甘えてくるキュッリッキに苦笑を向けて、部屋の中で同じように苦笑するアリサに、メルヴィンは小さく会釈した。
「リッキーに、おやすみの挨拶をしに来ました」
「挨拶だけなの~?」
今度は不満そうな顔を向けられ、メルヴィンは更に苦笑を深めた。
「寝る前に、どうしてもリッキーの顔が見たくなりました」
腰を屈めてキスをする。
「座っていただけとはいえ、疲れたでしょう。なので今日はもう寝て、明日、沢山遊びましょう」
穏やかで優しいメルヴィンの顔を見つめながら、キュッリッキは拗ねた顔をしたが、
「判ったの…」
そう、しょんぼりと頷いた。
「じゃあ、おやすみなさい」
もう一度キスをして、キュッリッキをギュッとハグすると、メルヴィンは戻っていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送り、キュッリッキはドアを閉じた。
「おやすみになる前に、メルヴィン様に会えて良かったですね、お嬢様」
「うん」
まだしょんぼりとした表情はそのままに、キュッリッキはベッドに戻る。
「おやすみなさい、アリサ」
「はい、おやすみなさいませ」
素直に眠ったキュッリッキに優しく微笑み、アリサは素早く寝支度を整えると、そっと灯りを消した。
桜色の唇を尖らせ、ムスッとした表情でキュッリッキはボヤく。
「今日はもう寝るだけなんですから、我慢なさいませ、お嬢様」
柔らかに波打つ金の髪を丁寧に梳きながら、アリサはクスクス笑った。
寝支度のためにキュッリッキの髪を梳きながら、こうして身の回りのお世話をするのは久しぶり、と胸中で呟く。
「でも、もうちょっとメルヴィンと2人っきりでお喋りしたかった」
キュッリッキにとって、娯楽のための旅行は初の体験である。
傭兵という仕事柄、世界中のあちこちを飛び回っていたが、遊び目的に旅をすることはこれまでなかった。
旅にはライオン傭兵団やみんながいるので、中々メルヴィンと2人きりになれない。
夜空は晴れていて、煌きながら星が瞬いていて素敵だ。そんな星空を見ながら、メルヴィンと2人でいたい。そう思うのに、アリサは部屋を出ることを許してくれないのだ。
それでずっと文句を言いながら拗ねている。
寝間着に着替え、ベッドにポスッと突っ伏するように倒れこむ。そんなキュッリッキの真似をして、フローズヴィトニルも腹這いになってベッドに転がった。
片付けをしながら、アリサは苦笑する。
メルヴィンとの関係は、まだまだ色っぽさに欠けている。キス以上のことを、キュッリッキが望んでいない。だから万が一間違いが起きることは、心配しなくても大丈夫だろう。
しかしそれはそれで、残念に思ってしまう。
男女の秘め事をキュッリッキが理解していないので仕方がないが、この先いずれは知識を得て自ら求めるようになる。
(筈かな?)
ただ、あれだけベルトルドやアルカネットが、ムラムラ欲情を発してそばにいても気づかないのだから、先は遠いかも知れない。
大人になったお嬢様は想像しにくいな、と思ったとき、ドアをノックされてアリサは片付けの手を止める。
「はい? どなたでしょうか」
ドアに向かって声をかけると、
「すみません、メルヴィンです」
「メルヴィン!」
アリサが返事をするより早く、キュッリッキは飛び起きてドアに駆け寄った。
バッとドアを開けると、キュッリッキはメルヴィンに飛びついた。
「おっと」
不意打ちのように飛び込んできたキュッリッキを抱き止め、メルヴィンは一歩退く。
「メルヴィン~」
嬉しそうに名を言って、満面の笑みでメルヴィンを見上げる。
甘えてくるキュッリッキに苦笑を向けて、部屋の中で同じように苦笑するアリサに、メルヴィンは小さく会釈した。
「リッキーに、おやすみの挨拶をしに来ました」
「挨拶だけなの~?」
今度は不満そうな顔を向けられ、メルヴィンは更に苦笑を深めた。
「寝る前に、どうしてもリッキーの顔が見たくなりました」
腰を屈めてキスをする。
「座っていただけとはいえ、疲れたでしょう。なので今日はもう寝て、明日、沢山遊びましょう」
穏やかで優しいメルヴィンの顔を見つめながら、キュッリッキは拗ねた顔をしたが、
「判ったの…」
そう、しょんぼりと頷いた。
「じゃあ、おやすみなさい」
もう一度キスをして、キュッリッキをギュッとハグすると、メルヴィンは戻っていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送り、キュッリッキはドアを閉じた。
「おやすみになる前に、メルヴィン様に会えて良かったですね、お嬢様」
「うん」
まだしょんぼりとした表情はそのままに、キュッリッキはベッドに戻る。
「おやすみなさい、アリサ」
「はい、おやすみなさいませ」
素直に眠ったキュッリッキに優しく微笑み、アリサは素早く寝支度を整えると、そっと灯りを消した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
151
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる