698 / 882
召喚士編
episode635
しおりを挟む
じっと神殿の様子を伺っていたシ・アティウスは、神殿の様子に変化が生じたことを感じ取った。
1万年前の召喚士ユリディスが張った結界。この結界には、意思がある。エルアーラ遺跡にヒューゴという1万年前の青年が残留思念を残していたように、この結界にもユリディスの気配が確かにある。
次々と投げ込まれる召喚スキル〈才能〉を持つ少女たちに、明らかに動揺しているようだった。
「耐え切れないだろうな。どういう意図から召喚スキル〈才能〉を持つ者に反応する結界にしたのか判らないが、人殺しは辛かろう」
召喚スキル〈才能〉を持つ少女は、あと一人。
「ベルトルド様、そろそろ神殿を吹っ飛ばす用意をしてください」
「おう、やっと出番か」
やや退屈そうにしていたベルトルドが、待ってましたと意気揚々にシ・アティウスの隣に立った。
「もう壊せそうなんだな?」
「ええ。最後の一人を投げ込めば、ユリディスの思念結界は崩壊します。すでに結界自体に、動揺の気配が顕著に出ています」
「よし。アルカネット、頼む」
「はい」
アルカネットは地面に座り込んでいるアンティアの腕を握った。
「あなたで最後です。さあ」
「いやああ」
アンティアは涙でぐじゃぐじゃになった顔で見上げて首を振った。
「さっさと死んでしまえば、恐怖などすぐに感じなくなりますよ」
どこまでも優しい笑顔でアルカネットは言うと、力ずくでアンティアを立ち上がらせた。
「いきましょう」
「お願い、やめてええ」
精一杯力を込めて踏ん張ろうとした。そして憚ることなく泣き喚いた。
周りにいる軍人たちは、冷ややかな目でアンティアを見ている。同情のヒト欠片もない。
「死にたくない、殺さないでえ」
心からの叫びは、しかしこの場にいる誰の心も動かすことはできなかった。
「ごめんなさい許しておねがい」
「さようなら」
アルカネットはアンティアを神殿の中へ投げ捨てた。
アンティアの身体が神殿に吸い込まれた。その瞬間、神殿がこれまで以上に激しく振動し、辺り一面も地震のように大地が震えた。
常人の目には見えていないが、ベルトルドの目にははっきりと映っている。
シャボン玉のように七色の光が織りなす透明な膜が、激しく歪みを繰り返し、細い光の筋を膜に走らせていった。ベルトルドはその中心点に意識を凝らすと、膜を引き裂くようなイメージで破壊した。
「おっと……」
シ・アティウスは足を取られそうになって後ろにたたらを踏む。アルカネットも体勢を崩して前かがみに足を動かした。
結界が裂かれた衝撃が、再び地震のようにして大地に走る。
「なんとか15人で解除がかなったな。穀潰しの始末も出来たし、一石二鳥だ!」
両手を腰に当て、ベルトルドがふんぞり返って威張る。そこへ、ダエヴァの下士官が駆け寄ってきた。
「閣下、失礼します! リュリュ様から電報が届いております」
ベルトルドは物凄く嫌そうな顔をして、差し出された紙を受け取る。
「あいつの名前を聞くと、股間と尻の穴に危機感が迫る……」
「バカなことを言ってないで、なんです? 電報の内容は」
「うーんと、………ふーん、穀潰しの親どもが、娘が帰ってこなくて心配で、宰相府や総帥本部に詰め寄ってきているらしい」
「中でミンチになってるでしょうし、肉片でも送りますか? どれが誰だか判りませんが」
しごく真顔でシ・アティウスが言うと、ベルトルドは「フンッ」と嘲笑する。
「そんな面倒なことはしてやらんでいい。親どもも逮捕し極秘裡に始末、資産もなにも全部押収だ。結構な額になるだろうし、あとで使い道を考えよう。福利や医療方面へ流れるようにしておきたい」
腕を組みながらベルトルドが言うと、アルカネットが頷いた。
「さて、神殿も破壊して、レディトゥス・システムを取り出そうか。――ようやくだ。31年だ、あれから」
「長かったですね……」
アルカネットの顔に、複雑な色が広がっていく。
「さあユリディス、貴様の抵抗もここまでだ」
ベルトルドは掌に電気エネルギーを集める。物凄いスピードでエネルギーは凝縮され、三叉戟の形をとり始め、黄金のような光沢を放ち始めた。
「1万年もの間、ご苦労だったな!」
雷霆(ケラウノス)が神殿に落雷した。
――結界が壊されてしまった。
たくさんの少女たちを手にかけた。その罪悪感が結界に歪みをもたらし、維持することができなくなってしまったのだ。
――ごめんなさい、イーダ、ヒューゴ。
――そして、アルケラの神々たち。
――どうか、私と同じ悲劇が起きませぬよう……どうか……。
1万年前の召喚士ユリディスが張った結界。この結界には、意思がある。エルアーラ遺跡にヒューゴという1万年前の青年が残留思念を残していたように、この結界にもユリディスの気配が確かにある。
次々と投げ込まれる召喚スキル〈才能〉を持つ少女たちに、明らかに動揺しているようだった。
「耐え切れないだろうな。どういう意図から召喚スキル〈才能〉を持つ者に反応する結界にしたのか判らないが、人殺しは辛かろう」
召喚スキル〈才能〉を持つ少女は、あと一人。
「ベルトルド様、そろそろ神殿を吹っ飛ばす用意をしてください」
「おう、やっと出番か」
やや退屈そうにしていたベルトルドが、待ってましたと意気揚々にシ・アティウスの隣に立った。
「もう壊せそうなんだな?」
「ええ。最後の一人を投げ込めば、ユリディスの思念結界は崩壊します。すでに結界自体に、動揺の気配が顕著に出ています」
「よし。アルカネット、頼む」
「はい」
アルカネットは地面に座り込んでいるアンティアの腕を握った。
「あなたで最後です。さあ」
「いやああ」
アンティアは涙でぐじゃぐじゃになった顔で見上げて首を振った。
「さっさと死んでしまえば、恐怖などすぐに感じなくなりますよ」
どこまでも優しい笑顔でアルカネットは言うと、力ずくでアンティアを立ち上がらせた。
「いきましょう」
「お願い、やめてええ」
精一杯力を込めて踏ん張ろうとした。そして憚ることなく泣き喚いた。
周りにいる軍人たちは、冷ややかな目でアンティアを見ている。同情のヒト欠片もない。
「死にたくない、殺さないでえ」
心からの叫びは、しかしこの場にいる誰の心も動かすことはできなかった。
「ごめんなさい許しておねがい」
「さようなら」
アルカネットはアンティアを神殿の中へ投げ捨てた。
アンティアの身体が神殿に吸い込まれた。その瞬間、神殿がこれまで以上に激しく振動し、辺り一面も地震のように大地が震えた。
常人の目には見えていないが、ベルトルドの目にははっきりと映っている。
シャボン玉のように七色の光が織りなす透明な膜が、激しく歪みを繰り返し、細い光の筋を膜に走らせていった。ベルトルドはその中心点に意識を凝らすと、膜を引き裂くようなイメージで破壊した。
「おっと……」
シ・アティウスは足を取られそうになって後ろにたたらを踏む。アルカネットも体勢を崩して前かがみに足を動かした。
結界が裂かれた衝撃が、再び地震のようにして大地に走る。
「なんとか15人で解除がかなったな。穀潰しの始末も出来たし、一石二鳥だ!」
両手を腰に当て、ベルトルドがふんぞり返って威張る。そこへ、ダエヴァの下士官が駆け寄ってきた。
「閣下、失礼します! リュリュ様から電報が届いております」
ベルトルドは物凄く嫌そうな顔をして、差し出された紙を受け取る。
「あいつの名前を聞くと、股間と尻の穴に危機感が迫る……」
「バカなことを言ってないで、なんです? 電報の内容は」
「うーんと、………ふーん、穀潰しの親どもが、娘が帰ってこなくて心配で、宰相府や総帥本部に詰め寄ってきているらしい」
「中でミンチになってるでしょうし、肉片でも送りますか? どれが誰だか判りませんが」
しごく真顔でシ・アティウスが言うと、ベルトルドは「フンッ」と嘲笑する。
「そんな面倒なことはしてやらんでいい。親どもも逮捕し極秘裡に始末、資産もなにも全部押収だ。結構な額になるだろうし、あとで使い道を考えよう。福利や医療方面へ流れるようにしておきたい」
腕を組みながらベルトルドが言うと、アルカネットが頷いた。
「さて、神殿も破壊して、レディトゥス・システムを取り出そうか。――ようやくだ。31年だ、あれから」
「長かったですね……」
アルカネットの顔に、複雑な色が広がっていく。
「さあユリディス、貴様の抵抗もここまでだ」
ベルトルドは掌に電気エネルギーを集める。物凄いスピードでエネルギーは凝縮され、三叉戟の形をとり始め、黄金のような光沢を放ち始めた。
「1万年もの間、ご苦労だったな!」
雷霆(ケラウノス)が神殿に落雷した。
――結界が壊されてしまった。
たくさんの少女たちを手にかけた。その罪悪感が結界に歪みをもたらし、維持することができなくなってしまったのだ。
――ごめんなさい、イーダ、ヒューゴ。
――そして、アルケラの神々たち。
――どうか、私と同じ悲劇が起きませぬよう……どうか……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
151
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる