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番外編・3
フェンリル降臨
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1万年ぶりに神々は、巫女を地上に生み出した。
神々にとって1万年など、ほんの瞬きくらいの時間でしかない。
深い後悔に打ちひしがれていたフェンリルは、再びティワズの命により、巫女を守るために地上に降臨する。
新たなる巫女は、まだほんの小さなアイオン族の幼児。2歳くらいだろうか。
人間たちの欲に塗れぬよう、その幼い身体には、残酷な欠陥を与えられ産み落とされた。
アイオン族でありながら、片方の翼が毟り取られたような、無残な形をしている。
これでは空を飛ぶことなど出来ない。
そして、この奇形の翼のせいで、巫女は迫害を受けていた。
――可哀想に。
フェンリルは、これまで多くの巫女の傍にいた。
不幸な生い立ちの少女もいれば、恵まれた少女もいた。しかし、神から意図的に、身体的な欠陥を与えられる形で守られた巫女など、初めて目にする。
新たなる巫女は、薄暗い狭い納屋に放置され、粗末な毛布にくるまって横たわっている。
愛らしいその顔には、なんの感情も浮かんでいない。虚ろな視線を、所在無げに彷徨わせているだけだ。
その表情を見た瞬間、フェンリルは狼の姿を、小さな小さな仔犬の形に変じた。
これまでただの一度も、狼の姿を変じたことなどない。
神狼である自らを、誇りに思っていたからだ。
フェンリルは幼児の前に姿を現し、ぺたりと床に座り込んだ。不慣れな形に、おぼつかない動きが情けない。
突然目の前に小さない白い仔犬が現れ、幼児はびっくりした顔をして目を見張った。
召喚スキル〈才能〉と呼ばれることとなる、その特異な目を、いっぱいに見開いてフェンリルを凝視した。
おっかなびっくり小さな手を伸ばし、フェンリルの頭をつつくようにする。そして、柔らかな毛に覆われた頭を、そっと撫でる。
幼児のしたいままにされていたフェンリルは、立ち上がると、ひょこひょことした足取りで幼児に近づき、まだぷっくりとする頬をペロリと舐めた。
それがくすぐったかったのか、幼児はムズムズと唇を震わせると、愛らしい顔に、満面の笑みを浮かべて笑った。
――キュッリッキ……。
一切の明かりのない真っ暗な空間の中で、フェンリルは巫女の名を思う。
早く助け出してやらねば。
もう二度と、出会った時のような、あんな暗い表情をさせたくない。
――フローズヴィトニルよ……我の分身よ、早く……
フェンリルは再び意識を闇に飲み込まれ、眠りに落ちていった。
神々にとって1万年など、ほんの瞬きくらいの時間でしかない。
深い後悔に打ちひしがれていたフェンリルは、再びティワズの命により、巫女を守るために地上に降臨する。
新たなる巫女は、まだほんの小さなアイオン族の幼児。2歳くらいだろうか。
人間たちの欲に塗れぬよう、その幼い身体には、残酷な欠陥を与えられ産み落とされた。
アイオン族でありながら、片方の翼が毟り取られたような、無残な形をしている。
これでは空を飛ぶことなど出来ない。
そして、この奇形の翼のせいで、巫女は迫害を受けていた。
――可哀想に。
フェンリルは、これまで多くの巫女の傍にいた。
不幸な生い立ちの少女もいれば、恵まれた少女もいた。しかし、神から意図的に、身体的な欠陥を与えられる形で守られた巫女など、初めて目にする。
新たなる巫女は、薄暗い狭い納屋に放置され、粗末な毛布にくるまって横たわっている。
愛らしいその顔には、なんの感情も浮かんでいない。虚ろな視線を、所在無げに彷徨わせているだけだ。
その表情を見た瞬間、フェンリルは狼の姿を、小さな小さな仔犬の形に変じた。
これまでただの一度も、狼の姿を変じたことなどない。
神狼である自らを、誇りに思っていたからだ。
フェンリルは幼児の前に姿を現し、ぺたりと床に座り込んだ。不慣れな形に、おぼつかない動きが情けない。
突然目の前に小さない白い仔犬が現れ、幼児はびっくりした顔をして目を見張った。
召喚スキル〈才能〉と呼ばれることとなる、その特異な目を、いっぱいに見開いてフェンリルを凝視した。
おっかなびっくり小さな手を伸ばし、フェンリルの頭をつつくようにする。そして、柔らかな毛に覆われた頭を、そっと撫でる。
幼児のしたいままにされていたフェンリルは、立ち上がると、ひょこひょことした足取りで幼児に近づき、まだぷっくりとする頬をペロリと舐めた。
それがくすぐったかったのか、幼児はムズムズと唇を震わせると、愛らしい顔に、満面の笑みを浮かべて笑った。
――キュッリッキ……。
一切の明かりのない真っ暗な空間の中で、フェンリルは巫女の名を思う。
早く助け出してやらねば。
もう二度と、出会った時のような、あんな暗い表情をさせたくない。
――フローズヴィトニルよ……我の分身よ、早く……
フェンリルは再び意識を闇に飲み込まれ、眠りに落ちていった。
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