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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode353
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給仕のような口調で言って、差し出したプレートには、一口サイズのサンドウィッチと温かな紅茶が乗っていた。
「わーい、ありがとう」
一旦メルヴィンの手から解放されると、キュッリッキは両手でプレートを受け取る。
「甘いお菓子などもございますので、遠慮なくお申し付けくださいませ」
「うん」
ご機嫌で笑顔を返すと、少佐もにこりと微笑み返した。
「お二方もご一緒に、休憩なさいませんか?」
「いんや、オレは遠慮しておくよ」
「オレもいいです。ありがとうございます」
「左様ですか」
少佐はしつこくすすめることもなく、2人の固辞を受け取って、静かに側に控えた。
「美味しいの」
満足そうに微笑むキュッリッキに反応し、フェンリルと共に車窓の窓枠にぶら下がるようにしていたフローズヴィトニルが、軽く尻尾を振っておねだりしだした。
「食べる?」
キュッリッキがサンドウィッチのひと切れを差し出すと、フローズヴィトニルはぱくりと口に入れ、もそもそと噛んで飲み込んだ。それで何度かアイスブルーの瞳を瞬かせると、車窓から離れてメルヴィンの膝に飛び乗り、キュッリッキのほうへ顔を突き出した。
「気に入ったんだね。もっと食べていいよ」
キュッリッキが食べられる分だけを皿に盛り付けていたので、少量だったサンドウィッチは、フローズヴィトニルが全て平らげてしまった。
それを面白そうに見ていた少佐が、新しい皿をキュッリッキに差し出した。
「こちらのお菓子もお召し上がりください」
見た目にも可愛らしい、色とりどりのフルーツを飾り付けたプチケーキが、いくつも並んでいた。
「可愛くて美味しそう! ありがとう」
「フローズヴィトニル様がお気に召されたのなら、おかわりをご用意致しましょうか?」
「だいじょうぶ。今度はこっちのお菓子に興味が沸いたみたいだから」
クスッとキュッリッキが笑うと、フェンリルが「やれやれ」といった表情で鼻を鳴らした。
「フェンリルはなにも食べないんだけど、フローズヴィトニルはこっちの世界へ来たの初めてだから、今はなんでも興味津々なんだよね」
キュッリッキの掌の上のオレンジタルトを、ぱくりと一口で食べてしまうと、それも気に入ったようで、何度も催促するように顔を突き出した。
キュッリッキとフローズヴィトニルの様子を見て、ルーファスとメルヴィンは苦笑した。式典で世界中に驚異を与えた巨狼の姿とは、とても重ならない。ものをねだる小さな黒い仔犬、そのままだ。
やがて満腹になり満足したのか、フローズヴィトニルはそのままメルヴィンの膝の上で丸くなって寝てしまった。
フェンリルも車窓から離れると、キュッリッキの膝の上にのり、身体を丸めて目を閉じた。
白銀色の柔らかな毛並みを優しく撫でながら、キュッリッキもうとうとと瞼が落ちかかっていた。その様子に気づいたルーファスが身を乗り出す。
「少し寝るといいよ、キューリちゃん」
「うん……」
「オーバリーに着いたら、起こしてあげるから」
「……そうする。なんだか眠くなっちゃった」
キュッリッキはそのままメルヴィンにもたれかかるようにして眠ってしまった。
屈めていた上体を起こすと、ルーファスは眉を寄せて少佐を見上げた。
「薬を入れたな?」
ルーファスの言葉に、メルヴィンがハッとなる。
少佐は口元を僅かにほころばせて頷いた。
「アルカネット様からのご指示です。合流するまで絶対に、お嬢様に戦闘をさせずにお連れせよと」
ルーファスとメルヴィンの表情に緊張が走った。それを見て少佐は頷く。
「あと10分で敵と接触します。お2人はお嬢様のお側を、絶対に離れないでください。我々への援護は一切不要、お嬢様の安全が第一です」
「判った」
「了解です」
ルーファスとメルヴィンの返事に満足し、少佐は小さく微笑んだあと、表情から一切の感情を消し去った。
「わーい、ありがとう」
一旦メルヴィンの手から解放されると、キュッリッキは両手でプレートを受け取る。
「甘いお菓子などもございますので、遠慮なくお申し付けくださいませ」
「うん」
ご機嫌で笑顔を返すと、少佐もにこりと微笑み返した。
「お二方もご一緒に、休憩なさいませんか?」
「いんや、オレは遠慮しておくよ」
「オレもいいです。ありがとうございます」
「左様ですか」
少佐はしつこくすすめることもなく、2人の固辞を受け取って、静かに側に控えた。
「美味しいの」
満足そうに微笑むキュッリッキに反応し、フェンリルと共に車窓の窓枠にぶら下がるようにしていたフローズヴィトニルが、軽く尻尾を振っておねだりしだした。
「食べる?」
キュッリッキがサンドウィッチのひと切れを差し出すと、フローズヴィトニルはぱくりと口に入れ、もそもそと噛んで飲み込んだ。それで何度かアイスブルーの瞳を瞬かせると、車窓から離れてメルヴィンの膝に飛び乗り、キュッリッキのほうへ顔を突き出した。
「気に入ったんだね。もっと食べていいよ」
キュッリッキが食べられる分だけを皿に盛り付けていたので、少量だったサンドウィッチは、フローズヴィトニルが全て平らげてしまった。
それを面白そうに見ていた少佐が、新しい皿をキュッリッキに差し出した。
「こちらのお菓子もお召し上がりください」
見た目にも可愛らしい、色とりどりのフルーツを飾り付けたプチケーキが、いくつも並んでいた。
「可愛くて美味しそう! ありがとう」
「フローズヴィトニル様がお気に召されたのなら、おかわりをご用意致しましょうか?」
「だいじょうぶ。今度はこっちのお菓子に興味が沸いたみたいだから」
クスッとキュッリッキが笑うと、フェンリルが「やれやれ」といった表情で鼻を鳴らした。
「フェンリルはなにも食べないんだけど、フローズヴィトニルはこっちの世界へ来たの初めてだから、今はなんでも興味津々なんだよね」
キュッリッキの掌の上のオレンジタルトを、ぱくりと一口で食べてしまうと、それも気に入ったようで、何度も催促するように顔を突き出した。
キュッリッキとフローズヴィトニルの様子を見て、ルーファスとメルヴィンは苦笑した。式典で世界中に驚異を与えた巨狼の姿とは、とても重ならない。ものをねだる小さな黒い仔犬、そのままだ。
やがて満腹になり満足したのか、フローズヴィトニルはそのままメルヴィンの膝の上で丸くなって寝てしまった。
フェンリルも車窓から離れると、キュッリッキの膝の上にのり、身体を丸めて目を閉じた。
白銀色の柔らかな毛並みを優しく撫でながら、キュッリッキもうとうとと瞼が落ちかかっていた。その様子に気づいたルーファスが身を乗り出す。
「少し寝るといいよ、キューリちゃん」
「うん……」
「オーバリーに着いたら、起こしてあげるから」
「……そうする。なんだか眠くなっちゃった」
キュッリッキはそのままメルヴィンにもたれかかるようにして眠ってしまった。
屈めていた上体を起こすと、ルーファスは眉を寄せて少佐を見上げた。
「薬を入れたな?」
ルーファスの言葉に、メルヴィンがハッとなる。
少佐は口元を僅かにほころばせて頷いた。
「アルカネット様からのご指示です。合流するまで絶対に、お嬢様に戦闘をさせずにお連れせよと」
ルーファスとメルヴィンの表情に緊張が走った。それを見て少佐は頷く。
「あと10分で敵と接触します。お2人はお嬢様のお側を、絶対に離れないでください。我々への援護は一切不要、お嬢様の安全が第一です」
「判った」
「了解です」
ルーファスとメルヴィンの返事に満足し、少佐は小さく微笑んだあと、表情から一切の感情を消し去った。
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