片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
414 / 882
モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode395

しおりを挟む
 キュッリッキにはそうした後ろ盾などなかった。フェンリルと一緒に勝手に戦場を走り回って、周囲の大人たちに実力を認めさせた。ときには追い払われることも、敵と間違われて襲われることもよくあった。召喚士が一般的に表に出てくることなどないから、召喚すると悪魔などと呼ばれ、勘違いされることもあったのだ。

 3年ほど無謀な行動を繰り返し、やっと傭兵ギルドに認められ、仕事を回してもらえるようになり、やがて傭兵として一人立ちした。

 戦場に向かうことは怖くない。フェンリルが常に一緒だし、今回はフローズヴィトニルもいる。そしてアルケラの仲間たちが大勢控えているからだ。

 戦いの前に高揚感を覚えたり、感慨にふけることは一度もなかった。生きていくために仕事をするだけで、食べるものを得るために戦うだけだったから。

 でも今は、大きく違っている。

 確かに生きるために働く、食べるために働くことに違いはない。しかし、もっとも近しい仲間たちができて、その仲間たちと一緒に戦場へ向かうのだ。

 ナルバ山での失態は全て自分のせいだ。ザカリーの言葉に我を忘れて神殿に入らなければ、起こらなかった事なのだから。

 怪我をしたのは自分だけれど、そのせいでザカリーもアルカネットに粛清されかかったし、未だにみんな責められる。

 もう、一人で戦わなくていい。今は仲間たちと一緒に戦えるのだから。今度は失敗しないように、上手に動こう。

 それを思うと、僅かな緊張と期待と不安がこみ上げてきて、心臓がドキドキするのだった。

「眠らないんですか?」

 物思いにふける中穏やかに声をかけられて、キュッリッキは正面に目を向けた。

「メルヴィン」

 今度は別の意味で、心臓がドキドキと早鐘を打ち始めた。

「えっと、ちょっと涼んでたの」

「ワイ・メア大陸に比べると、こちらの大陸は暑いですからね」

 サンルームに入ってくるメルヴィンを、瞬くことも忘れたようにじっと見つめる。

 シャワーを浴びたあとだろうか、髪は湿っているようだしバスローブに着替えていた。

「隣に座ってもいいですか?」

「ど、どうぞ」

 キュッリッキはメルヴィンが座りやすいように少し横にずれた。

「ありがとうございます」

 そう言ってキュッリッキを見たメルヴィンは、ほんの少し頬を赤くすると、困ったように目線をそらせた。

 薄暗くて遠目からは気付かなかったが、キュッリッキの着ている寝巻きは、肌が透けるような薄い布地で出来ていた。色気に欠ける身体付きとは言え、布越しに透ける小さな胸や突起は目のやり場にとても困る、悩ましいものだ。

 キュッリッキは少しも気づいていないようで、メルヴィンの前で惜しげもなくさらしている。だがそのことを口に出していいものかどうか、メルヴィンは判断に困った。

 こんな時ルーファスだったら、冗談交じりに言えるのだろうけど、メルヴィンはそのテの冗談を言うセンスには欠けていた。かえって説教じみたことになるか、突慳貪な態度になりそうで自信がない。

 なるべく見ないように意識するものの、つい目がチラチラと見てしまうのは、悲しい男の性だった。

 露骨に見えるよりも、薄布越しに透けて見えるほうが、何倍も妖艶に映るのだ。そのことをこの少女は、自覚しているのだろうか。

「寝るにはまだ早い時間ですが、明日のこともありますし、早めに身体を休めておいたほうがいいですよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...