片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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エルアーラ遺跡編

episode399

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 そこへ静かな声で呼びかけられ、キュッリッキの表情が瞬時に変わる。ピクッと肩を震わせ、腕を解き、怒りを引っ込めた顔を向ける。

「お仕事ですし、移動できるものを召喚してください。お願いします」

 穏やかにメルヴィンに言われて、キュッリッキはコクコクと素直に頷いた。そしてじっと前方を見据えると、キュッリッキの求めに応じて、何もない空間から巨大な白い鳥が飛び出し姿を現した。

 真っ白で鷲のような巨鳥は、大きな脚で地面を踏みしめ立つと、その背はゆうに宿よりも高い。

「ありがとうございます」

 にっこりとメルヴィンに言われて、キュッリッキは腫れぼったくする目元よりも、さらに顔を紅潮させて、照れながらモジモジと身体を揺する。

 ――愛のチカラってスバラシイ!

 ダエヴァも含め、この場にいる殆どの者が――ベルトルドとアルカネットとザカリーは除く――そう胸中で感極まって叫ぶのだった。

 ベルトルドとアルカネットはようやくのろのろ立ち上がると、さらに疲労を滲ませた顔を見合わせ、揃ってため息をついた。

 認めたくはないがメルヴィンに負けている! そう2人は心の中で悔し紛れに拳を握った。メルヴィンに対する嫉妬ゲージはウナギのぼりだ。

 目の前の大きな鳥をつくづくと見上げると、ベルトルドは少し首をかしげた。その背には、大人が余裕で30人は足を伸ばして乗れそうなほど広いのである。

「なあリッキー、ちょっと大きすぎやしないか?」

 思ったまま率直に感想を述べると、ものすごい剣幕で睨まれて首をすくめた。

 メルヴィンに対しては即乙女モードにチェンジするが、ベルトルドへのお怒りはまだ解けていないようだ。なにせ、メルヴィンとの初キッスのチャンスを奪ったのである。そう簡単には許してもらえそうもなかった。

「と、取り敢えず出発するぞ……」

 やや消沈したような声で皆を促すと、乗りやすいよう鳥が姿勢を崩してくれた。皆が乗るのを見つめながら、この鳥は人語を理解できる知能があるのかと思い、ベルトルドは鳥の嘴をポンポンッと叩く。

「北へまっすぐ飛べ。1時間ほどで着くだろう」

 すると鳥はちらりとベルトルドを見て、了解するように小さく鳴いた。

「リッキー以外の人間とも、意思疎通できるのか。感心だ」

 満足そうに呟き、ベルトルドは最後にふわりと鳥の背に飛び乗った。

「こんな図体のデカイ鳥で近づいて、遺跡から見つかりやしませんかね?」

 鳥の背に胡座をかいたギャリーが、前に立つベルトルドを見上げる。

「見えないようにアルカネットが魔法をかける。だが、サイ《超能力》があると透視してしまうだろう。まあ、遺跡まで着ければ問題ない」

「了解っす」

「出発だ」

「行こう、ベルヴェルク」

 頭の上に座ったキュッリッキに促され、ベルヴェルクは大きな翼を広げると、ふわりと地面から脚を離し、軽やかに大空へ飛び立った。
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