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<2>Resist girl~抵抗~
<2>Resist girl~抵抗①~
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***
目を覚ますと、知らない天井が視界に広がった。
ズキズキと痛む頭を右手でおさえ、重たい身体を起こす。
ビジネスホテルの一室のような部屋だというのが初見の感想。
寝台、机、テレビ、小さな冷蔵庫。
扉の脇には風呂とトイレがありそうだ。
広いだけの生活感のない部屋。
少しずつはっきりしていく思考に身をゆだねる。
昨夜の出来事を思い出すと寝台から飛び降りて、出口に向かって走り、ドアノブを掴んだ。
扉は開かない。
内側から鍵がかかっているわけでもないのに、出る方法が見つからない。
扉を叩いて声を出すしか道はなかった。
「誰か! 誰か助けて!」
外側からドアノブを引く音がした。
急に扉が開いたことで身体が前のめりに倒れていく。
「よく眠れたか?」
たくましい腕があたしの身体を受け止める。
鼻をくすぐったのは石鹸の香り。
昨夜出会った漆黒の男があたしの身体を支え、退屈そうな目をして立っていた。
「ずいぶんと疲れていたようだ。美弥が手をかざしただけで眠った」
「あ、あんた……何をしたかわかってんの? ここはどこよ!」
「ここは俺の家。あんたのことは”保護”したよ」
「ほ、保護ぉ?」
だから昨夜は人がいなかったのかもしれない。
男と美弥の行動で身寄せ橋は崩壊したのか。
それとも単に危険を察知し、散らばったのか。
のんきに橋の下に向かったあたしは捕まったというわけだ。
知らない部屋にいる事実が視界を揺らす。
(美弥ねぇ……)
悔しくて涙がこぼれそうだ。
美弥はあたしが外に出て、はじめてまともに交流した女の人。
橋の下の住人らしいが、色んなところを渡り歩く猫のような人だ。
もさっとしたあたしに色んなことを教えてくれた。
身寄せ橋のような界隈では長く居座るベテランだった。
(あーぁ。まぁ、そんなものよね)
現実に天井を見上げて息を吐く。
そもそも他人に期待しただけ損である。
その場限りの場所であり、期待してはいけない。
表面上の付き合いで、傷の舐めあいだ。
いつ何が起きてもおかしくないのだから、恨むのは筋違いであった。
問題はこの男とどう向き合うか。
想像しただけでゾッとした。
無力な自分に爪を立てる。
腕をがりがり引っ掻いて虚勢をはるも、強がりにもならない。
虚無の目がだんだんとぎらつき、妖艶に変わっていく。
男が顎に触れて、上向きにさせられた。
唇を噛みしめて睨むことが精一杯だ。
「……似合わない姿だ」
その言葉にカッと顔を赤らめる。
洗面室に引っ張られ、抵抗する間もなく水をはった洗面台に顔が叩きつけられた。
肌を突き刺す冷たい水。息ができない。
男の力が抜けたとわかった瞬間、水面から顔をあげる。
鼻や口に入った水を出すために咳き込むと、喉が裂かれた。
びしょ濡れになって男に威嚇する。
男の瞳から何も感じない。
無言でタオルを差し出してくる。
下唇を噛んで上目に睨み、タオルを乱暴に受け取る。
濡れた顔を荒々しい手つきで拭いた。
塗り重ねられた化粧が少し落ちて、タオルを黒く染めた。
洗面台に置かれたスキンケア用品を手に取り、ふてくされたまま顔を整えた。
「あんた、サイテー」
「ふん、それはいい誉め言葉だ」
女性にとって化粧は仮面だ。
もう一人の自分を生み出すための手段であり、たくましく生きよるための武器だ。
あたしもその中の一人で、化粧によって強い自分を保とうとした。
敵しかいない世界でも前を見れた。
何も怖くない。
生まれた時からあたしは一人だ。
孤独なんてもう慣れた。怖くない。
そう気を張っていても、仮面を失うと、途端に弱くなった。
(泣くもんか。絶対泣いてやらないんだから)
泣くのは嫌い。
弱さを見せない強い人間でいたい。
強い人間は泣いたりしない。
強い人間はどんなときでも堂々とし、輝いている。
強くあろうと歯を食いしばるあたしを否定された気分だ。
(何なの! コイツ、すっごくムカつく!)
洗面所から出ると部屋でソファーに腰かける。
優雅に珈琲を飲みだす男に怒りが募る。
当てつけにローテーブルを蹴飛ばすも、想像以上に痛くて涙ぐむ。
それを見てようやく男の表情が崩れ、鼻で笑われた。
(うわ。こいつ、性格わる!)
「お前、十七歳だったか? そんなに濃い化粧していたら老けてみえるぞ」
「はっ! おっさん発言かよ! 引き立てる化粧が出来るのは若さの特権ですぅ!」
「本当にかわいくないな。変な方に進んで、それがかわいいとでも?」
「うわー、うっざ」
口を開けば男の若さが見えてくる。口が悪い。
大人っぽく見えていたが、中身は大差ないと鼻で笑い返す。
見た目の美しさは群を抜いており、それが功を奏している。
一度見れば忘れないはずの美貌だが、男を凝視しても何も思い出せない。
男の口ぶりはあたしのことを知っているものだ。
「あんた、あたしの何? いつ会ったの?」
「さぁ……。君の出身くらいは理解しているよ」
見透かされた状態にめまいがする。
あたしにとって一番嫌な部分を知られている。
それだけで吐き気に襲われた。
「あたしのこと知ってるとして、目的はなに? お金なんてないよ」
「お金なんてどうでもいい。俺は君が従順になってくれれば満足だ」
「バカじゃないの? こんなことしてさ、ありえないよ」
ソファーから立つと、男を見下ろし優位に立った。
「お前なんか知るか! あたし、帰る!」
あたしの居場所は橋の下、その場限りの日暮らしだ。
人との繋がりで悩むのは御免だ。
やけくそに男に舌打ちをして部屋から出ようとする。
扉は外開きだったはずと、扉を押すも開かなかった。
背後でクスクスと笑い声がした。
「逃がすものか。バーカ」
漆黒の奥でむき出しになる狂気に震えた。
隠す気もない堂々とした冷酷さは人から遠ざかっていた。
振り返った先に男が歩み寄って、逃げ道を封鎖された。
目を覚ますと、知らない天井が視界に広がった。
ズキズキと痛む頭を右手でおさえ、重たい身体を起こす。
ビジネスホテルの一室のような部屋だというのが初見の感想。
寝台、机、テレビ、小さな冷蔵庫。
扉の脇には風呂とトイレがありそうだ。
広いだけの生活感のない部屋。
少しずつはっきりしていく思考に身をゆだねる。
昨夜の出来事を思い出すと寝台から飛び降りて、出口に向かって走り、ドアノブを掴んだ。
扉は開かない。
内側から鍵がかかっているわけでもないのに、出る方法が見つからない。
扉を叩いて声を出すしか道はなかった。
「誰か! 誰か助けて!」
外側からドアノブを引く音がした。
急に扉が開いたことで身体が前のめりに倒れていく。
「よく眠れたか?」
たくましい腕があたしの身体を受け止める。
鼻をくすぐったのは石鹸の香り。
昨夜出会った漆黒の男があたしの身体を支え、退屈そうな目をして立っていた。
「ずいぶんと疲れていたようだ。美弥が手をかざしただけで眠った」
「あ、あんた……何をしたかわかってんの? ここはどこよ!」
「ここは俺の家。あんたのことは”保護”したよ」
「ほ、保護ぉ?」
だから昨夜は人がいなかったのかもしれない。
男と美弥の行動で身寄せ橋は崩壊したのか。
それとも単に危険を察知し、散らばったのか。
のんきに橋の下に向かったあたしは捕まったというわけだ。
知らない部屋にいる事実が視界を揺らす。
(美弥ねぇ……)
悔しくて涙がこぼれそうだ。
美弥はあたしが外に出て、はじめてまともに交流した女の人。
橋の下の住人らしいが、色んなところを渡り歩く猫のような人だ。
もさっとしたあたしに色んなことを教えてくれた。
身寄せ橋のような界隈では長く居座るベテランだった。
(あーぁ。まぁ、そんなものよね)
現実に天井を見上げて息を吐く。
そもそも他人に期待しただけ損である。
その場限りの場所であり、期待してはいけない。
表面上の付き合いで、傷の舐めあいだ。
いつ何が起きてもおかしくないのだから、恨むのは筋違いであった。
問題はこの男とどう向き合うか。
想像しただけでゾッとした。
無力な自分に爪を立てる。
腕をがりがり引っ掻いて虚勢をはるも、強がりにもならない。
虚無の目がだんだんとぎらつき、妖艶に変わっていく。
男が顎に触れて、上向きにさせられた。
唇を噛みしめて睨むことが精一杯だ。
「……似合わない姿だ」
その言葉にカッと顔を赤らめる。
洗面室に引っ張られ、抵抗する間もなく水をはった洗面台に顔が叩きつけられた。
肌を突き刺す冷たい水。息ができない。
男の力が抜けたとわかった瞬間、水面から顔をあげる。
鼻や口に入った水を出すために咳き込むと、喉が裂かれた。
びしょ濡れになって男に威嚇する。
男の瞳から何も感じない。
無言でタオルを差し出してくる。
下唇を噛んで上目に睨み、タオルを乱暴に受け取る。
濡れた顔を荒々しい手つきで拭いた。
塗り重ねられた化粧が少し落ちて、タオルを黒く染めた。
洗面台に置かれたスキンケア用品を手に取り、ふてくされたまま顔を整えた。
「あんた、サイテー」
「ふん、それはいい誉め言葉だ」
女性にとって化粧は仮面だ。
もう一人の自分を生み出すための手段であり、たくましく生きよるための武器だ。
あたしもその中の一人で、化粧によって強い自分を保とうとした。
敵しかいない世界でも前を見れた。
何も怖くない。
生まれた時からあたしは一人だ。
孤独なんてもう慣れた。怖くない。
そう気を張っていても、仮面を失うと、途端に弱くなった。
(泣くもんか。絶対泣いてやらないんだから)
泣くのは嫌い。
弱さを見せない強い人間でいたい。
強い人間は泣いたりしない。
強い人間はどんなときでも堂々とし、輝いている。
強くあろうと歯を食いしばるあたしを否定された気分だ。
(何なの! コイツ、すっごくムカつく!)
洗面所から出ると部屋でソファーに腰かける。
優雅に珈琲を飲みだす男に怒りが募る。
当てつけにローテーブルを蹴飛ばすも、想像以上に痛くて涙ぐむ。
それを見てようやく男の表情が崩れ、鼻で笑われた。
(うわ。こいつ、性格わる!)
「お前、十七歳だったか? そんなに濃い化粧していたら老けてみえるぞ」
「はっ! おっさん発言かよ! 引き立てる化粧が出来るのは若さの特権ですぅ!」
「本当にかわいくないな。変な方に進んで、それがかわいいとでも?」
「うわー、うっざ」
口を開けば男の若さが見えてくる。口が悪い。
大人っぽく見えていたが、中身は大差ないと鼻で笑い返す。
見た目の美しさは群を抜いており、それが功を奏している。
一度見れば忘れないはずの美貌だが、男を凝視しても何も思い出せない。
男の口ぶりはあたしのことを知っているものだ。
「あんた、あたしの何? いつ会ったの?」
「さぁ……。君の出身くらいは理解しているよ」
見透かされた状態にめまいがする。
あたしにとって一番嫌な部分を知られている。
それだけで吐き気に襲われた。
「あたしのこと知ってるとして、目的はなに? お金なんてないよ」
「お金なんてどうでもいい。俺は君が従順になってくれれば満足だ」
「バカじゃないの? こんなことしてさ、ありえないよ」
ソファーから立つと、男を見下ろし優位に立った。
「お前なんか知るか! あたし、帰る!」
あたしの居場所は橋の下、その場限りの日暮らしだ。
人との繋がりで悩むのは御免だ。
やけくそに男に舌打ちをして部屋から出ようとする。
扉は外開きだったはずと、扉を押すも開かなかった。
背後でクスクスと笑い声がした。
「逃がすものか。バーカ」
漆黒の奥でむき出しになる狂気に震えた。
隠す気もない堂々とした冷酷さは人から遠ざかっていた。
振り返った先に男が歩み寄って、逃げ道を封鎖された。
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