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<2>Resist girl~抵抗~

<2>Resist girl~抵抗②~

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「お前を外に出したりしない。ここにいてもらう」

「は……はぁ? それって監禁……てこと?」

「そうとらえてもらって構わない」

「は、犯罪よ! あんた頭おかしいんじゃない?」

「そうだな。……すでにネジなんて外れているよ」

「あんたっ……!」

それ以上、言葉が続かない。

その感情は理解できず、あたしは棒立ちになって硬直する。

(なんで……)

顔を上げた先に壊れかけの人形を見た。

胸に棘が刺さり、その痛みに手をあて首をかしげる。

男が見捨てられた側の表情をするのが納得できず、モヤモヤを抱えた。

(しっかりしろ! これは罠だ!)

首を左右に振り、ほんのわずかに抱いた同情を吹き飛ばす。

冷静に状況を見定めて、逃げるタイミングを探そう。

深呼吸をし、男の手を振り払った。

そっぽを向き、鼻息を荒くした。

そんなあたしが可笑しかったのか。

喉を鳴らして手のひらであたしの頬を包む。

強制的に男と視線を交わり、意地で睨みつけた。

強がっても、男の魅惑が決意をぐらつかせる。

かゆいと思っては手首をかいた。

「……素直じゃない奴だな」

唇を親指でなぞられる。

キレイだけではない行為にあたしは頬を筋肉を強張らせ、口角をあげた。

「素直になれるほど綺麗じゃないよ」

「そうか。……お前には躾が必要かもしれないな」

「いやいやいや、意味わかんないから! 躾ってなによ!」

「今のお前では退屈だ。俺はあの時の……」

いや、と男は口を噤んだ。

対してあたしは少しでも男に同情した自分に腹を立てていた。

男の瞳は橋の下で近しいものを見た。

だがまったくの別物であり、見ているだけで苦しくなる。

同じ住人相手にも線を引いていた。

男にも線を引くべきだと理性ではわかっても、惑わす香りにくらっとした。

(騙されるな。男なんて……男なんて……!)

誰一人、あたしの心を見なかった。

そういう生き物だと納得するしかなかった。

お互いに生きるための道具としてしか見ない。

結局、男も橋の下の住人を見下している。

汚物を見る目に、潔癖を強調する鋭さにぐっと唇を噛みしめた。

「噛むな。血が出る」

「し、知らない!」

「仕方ないな」

吠えるばかりのあたしに男はため息をつく。

さらに男がスカートの中に手を差し込み、一撫でする。

「ひぃっ? ギャアアアア!」

節の目立つ大きな手はあたしの背を震わせた。

妙な刺激に男がくぐもって笑う。

いたずらに驚かせようとし、すぐに手を引っ込めた。

身を縮めて警戒するあたしの耳元に男が顔を寄せる。

「逃がしはしない……」

ささやきに耳まで真っ赤に染まる。

苦々しい味からわずかに感じる甘さ。

微糖コーヒーに反応してしまう自分に嫌気がさす。

瞳に涙を浮かべ、わなわなと身を震わせた。

(絶っっっ対に負けたくない!)

この男のために泣いたりするものか。

強い人間は泣かない。だから泣かない。

絶対に屈しない。その意固地があたしの力となる。

男の脇を抜け、ベッドへ逃走した。固まった決意を胸に、男に指を突き付けた

「あんたなんかくそくらえ! 絶対にあたしは負けないんだから!」

「ご自由に。そのプライドがいつまでもつかが見ものだな」

相容れない共同生活。

闇に浮かぶ月のように美しい男「蓮」を睨むのが精一杯なはじまりだった。
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