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第三章 決闘を前に
第四十五話
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「あーもうわかりましたよ!どうなっても知りませんからね。ベヒモス!『第一封解除!』」
ミルフェスがやけになって叫ぶと、足元にいたベヒモスがその瞳を赤く光らせた。
ミルフェスの前にベヒモスが出ると、その小さな体を震わせた。黒く丸い瞳は赤く怪しく輝きを放って空を仰いだ。
「何!?」
驚いて五人は後ろに一息でジャンプをすると、長めに距離を取った。
ミルフェスの前に出たベヒモスの体が白い光を放ち、その光はだんだんと大きくなっていった。
突如、音もなく光が突然と消える。
そこには先ほどとはまったく別の生き物が姿を現していた。
灰色の毛に覆われた3メートルくらいの大きさの獣である。短剣ほどの大きさの鋭い角が二本、銀色の鬣の隙間から生えている。
その顔は獰猛な表情をしている犬のようであり、獅子のような顔立ち。黒かった瞳は赤く、睨み付けるような凶悪な視線だ。
筋肉の形が体毛の内側からもしっかり確認が出来、その両足は太く眼前にいる女子生徒たちの胴体ならば一振りで分断出来そうな程だ。
女子生徒達、そして背後から見ていた光は息を飲んだ。
「グラン・ベヒモス。この子は強いわよ」
ミルフェスがつぶやくと名前を呼ばれたベヒモスが息を大きく吸い込んだ。
「ストップよベヒモス。雄叫びなんか上げたら近所迷惑だわ」
ベヒモスがゴフッと咳き込んだような気がした。心なしか恨めしそうに主であるミルフェスに視線を向けている。
「それで先輩方、確かSクラスの後輩(・・・・・・・)の腕を確認したいんですよね」
ミルフェスがしゃべると、ベヒモスも先輩方に視線を向けて低くうなり声を上げた。大きくこそないが、地響きが起きたような感覚に光は陥った。
「・・・・っ」
ここで退かないのは流石というべきか、それとも何も考えていないのか。五人は一斉に剣を構えた。
学校側で用意されたものだろう、五人は五人とも同じデザインの両手剣を装備していた。
「・・・・」
前回に続き、光はまた後ろに下がりベヒモスから距離を開けた。
「任せて」
そんな光の行動を横目に、ミルフェスが一言言う。
「召喚士を相手どる時は!」
『接近戦っ!』
五人は叫びながら一人ひとり幅を広げつつ、ミルフェスへと向かうべく大地を蹴った。
「氷結の弾丸(アイスブリッド)!」
ミルフェスが叫ぶと、ベヒモスは低いうなり声を上げた。
拳大の大きさの、無数の氷の塊が五人に一瞬にして降り注ぎ始める。
「くっ」
量が多い、五人は後退を余儀なくされている。
良く見るとベヒモスの体から白いオーラのようなものが立ち込めている。ベヒモスの体を通してミルフェスの強大な魔力を光は感じ取っていた。
「先輩方、ここで退いていただけるのであればこれ以上の攻撃は行いません」
「・・・何それ?余裕でもかましてるつもり?」
「そういうわけではありませんが、ここでやめていただければ怪我人も出ませんし」
「それが余裕っていうのよ!」
一人が両手剣を振り下ろすと、一筋の剣撃が発生しミルフェスに襲い掛かる。
間にベヒモスが体を入れると、毛皮に当たった瞬間に両手剣は刃こぼれを起こしていた。
少し気にしたように、長くなった尻尾であたったところを撫でた。
「え・・・」
けん制のつもりで放った攻撃は、その獣の皮膚に傷をつけることなく消える。
ベヒモスが軽く右前足を振るった。
飛び込んで剣を振るってきた先輩の剣が、文字通り突然砕けた。
『なっ』
「この子はその程度の攻撃ではビクともしませんよ?」
ミルフェスは後ろからベヒモスの頭を撫でると、先輩方に視線を向けた。
「警告です、そこから前に出てきたら確実に皆さんを倒します」
ミルフェスが五人に向けて言葉を投げかけた。
「氷の塊を投げつけてきただけでもう勝ったつもりなの?」
「つもりではありません。すでに私の勝利は揺るぎません」
ミルフェスはベヒモスの鬣を撫でながら、相手に視線も向けずに答えた。
「大した自信じゃない」
「じゃあ少しだけ、お見せしましょうか」
ミルフェスは撫でる作業をやめ、右手の指を鳴らした。
その瞬間に、ミルフェスが先ほど放った無数の氷の塊から逆さまにツララが起き上がった。さらにそれぞれの氷の柱から幾重にも枝分かれが発生、一つ一つが木の様相に早代わりする。さながら氷の樹木である。
「真冬の樹海(ミッドウィンター・フォレスト)」
指をならし、その言葉をつむぐまでの短い間に氷の木々が五人を囲った。
発動が恐ろしく早い。光は近くにある氷樹の枝を触ってみた。
確かに氷だ、それも枝の一本一本が恐ろしく硬い。どれだけの水分が、そして魔力が込められていれば氷にこれだけの強度が与えられるのか。
「くっ、こんなの!」
四人の先輩が氷の樹に剣を振りかざしている、氷の枝を切り払うつもりだろう。
彼女たちの目論見通りに、剣は氷に少しだけ切り込みを作った。しかしその瞬間に剣が氷に負けた。
氷の枝の凍結に剣が巻き込まれて共に凍っていったのだ。
「え、あ・・・」
「だめ!皆ストップ!」
「嘘!」
四人はそれぞれ悲鳴をあげ、剣から手を離した。
「凍樹の牢獄(フリーズプリズン)」
今度はそれぞれの木々の氷が横へと広がっていった。五人は氷の枝に囲まれ上下左右氷に囲まれてしまっている。
「時間がたてば消えるようにしておきますので、私たちはこれで失礼しますね」
ミルフェスはマイペースに言うと、ベヒモスをつれて横を通り過ぎていこうとする。
「皆さん、風邪には気をつけてください。それ、囲まれている間は容赦なく体温を奪いますから」
初春ではあるがまだまだ雪も残るこの時期に、氷の檻に閉じ込められたら風邪どころではすまなそうだ。光はそんなことを考えながらミルフェスのあとについて氷の横に立つ。
「・・・・・」
光は体を低くして、左手で刀の鞘を抑えた。
右手で『八房』を引き抜くとそのままの勢いで氷の樹の一本を切り倒す。
そこには一人の女子生徒が驚いた表情を浮かべて立っていた。
「・・・・」
ぺこり。光は頭を下げるとその女子から離れてミルフェスを追いかけた。
呆然とした女子生徒はその場にへたり込んで光とミルフェスを見送った。
翌日の授業で、今日いた五人はみな体調不良で休んだという。
体が冷え切ってしまったのが原因のようだった。
ミルフェスがやけになって叫ぶと、足元にいたベヒモスがその瞳を赤く光らせた。
ミルフェスの前にベヒモスが出ると、その小さな体を震わせた。黒く丸い瞳は赤く怪しく輝きを放って空を仰いだ。
「何!?」
驚いて五人は後ろに一息でジャンプをすると、長めに距離を取った。
ミルフェスの前に出たベヒモスの体が白い光を放ち、その光はだんだんと大きくなっていった。
突如、音もなく光が突然と消える。
そこには先ほどとはまったく別の生き物が姿を現していた。
灰色の毛に覆われた3メートルくらいの大きさの獣である。短剣ほどの大きさの鋭い角が二本、銀色の鬣の隙間から生えている。
その顔は獰猛な表情をしている犬のようであり、獅子のような顔立ち。黒かった瞳は赤く、睨み付けるような凶悪な視線だ。
筋肉の形が体毛の内側からもしっかり確認が出来、その両足は太く眼前にいる女子生徒たちの胴体ならば一振りで分断出来そうな程だ。
女子生徒達、そして背後から見ていた光は息を飲んだ。
「グラン・ベヒモス。この子は強いわよ」
ミルフェスがつぶやくと名前を呼ばれたベヒモスが息を大きく吸い込んだ。
「ストップよベヒモス。雄叫びなんか上げたら近所迷惑だわ」
ベヒモスがゴフッと咳き込んだような気がした。心なしか恨めしそうに主であるミルフェスに視線を向けている。
「それで先輩方、確かSクラスの後輩(・・・・・・・)の腕を確認したいんですよね」
ミルフェスがしゃべると、ベヒモスも先輩方に視線を向けて低くうなり声を上げた。大きくこそないが、地響きが起きたような感覚に光は陥った。
「・・・・っ」
ここで退かないのは流石というべきか、それとも何も考えていないのか。五人は一斉に剣を構えた。
学校側で用意されたものだろう、五人は五人とも同じデザインの両手剣を装備していた。
「・・・・」
前回に続き、光はまた後ろに下がりベヒモスから距離を開けた。
「任せて」
そんな光の行動を横目に、ミルフェスが一言言う。
「召喚士を相手どる時は!」
『接近戦っ!』
五人は叫びながら一人ひとり幅を広げつつ、ミルフェスへと向かうべく大地を蹴った。
「氷結の弾丸(アイスブリッド)!」
ミルフェスが叫ぶと、ベヒモスは低いうなり声を上げた。
拳大の大きさの、無数の氷の塊が五人に一瞬にして降り注ぎ始める。
「くっ」
量が多い、五人は後退を余儀なくされている。
良く見るとベヒモスの体から白いオーラのようなものが立ち込めている。ベヒモスの体を通してミルフェスの強大な魔力を光は感じ取っていた。
「先輩方、ここで退いていただけるのであればこれ以上の攻撃は行いません」
「・・・何それ?余裕でもかましてるつもり?」
「そういうわけではありませんが、ここでやめていただければ怪我人も出ませんし」
「それが余裕っていうのよ!」
一人が両手剣を振り下ろすと、一筋の剣撃が発生しミルフェスに襲い掛かる。
間にベヒモスが体を入れると、毛皮に当たった瞬間に両手剣は刃こぼれを起こしていた。
少し気にしたように、長くなった尻尾であたったところを撫でた。
「え・・・」
けん制のつもりで放った攻撃は、その獣の皮膚に傷をつけることなく消える。
ベヒモスが軽く右前足を振るった。
飛び込んで剣を振るってきた先輩の剣が、文字通り突然砕けた。
『なっ』
「この子はその程度の攻撃ではビクともしませんよ?」
ミルフェスは後ろからベヒモスの頭を撫でると、先輩方に視線を向けた。
「警告です、そこから前に出てきたら確実に皆さんを倒します」
ミルフェスが五人に向けて言葉を投げかけた。
「氷の塊を投げつけてきただけでもう勝ったつもりなの?」
「つもりではありません。すでに私の勝利は揺るぎません」
ミルフェスはベヒモスの鬣を撫でながら、相手に視線も向けずに答えた。
「大した自信じゃない」
「じゃあ少しだけ、お見せしましょうか」
ミルフェスは撫でる作業をやめ、右手の指を鳴らした。
その瞬間に、ミルフェスが先ほど放った無数の氷の塊から逆さまにツララが起き上がった。さらにそれぞれの氷の柱から幾重にも枝分かれが発生、一つ一つが木の様相に早代わりする。さながら氷の樹木である。
「真冬の樹海(ミッドウィンター・フォレスト)」
指をならし、その言葉をつむぐまでの短い間に氷の木々が五人を囲った。
発動が恐ろしく早い。光は近くにある氷樹の枝を触ってみた。
確かに氷だ、それも枝の一本一本が恐ろしく硬い。どれだけの水分が、そして魔力が込められていれば氷にこれだけの強度が与えられるのか。
「くっ、こんなの!」
四人の先輩が氷の樹に剣を振りかざしている、氷の枝を切り払うつもりだろう。
彼女たちの目論見通りに、剣は氷に少しだけ切り込みを作った。しかしその瞬間に剣が氷に負けた。
氷の枝の凍結に剣が巻き込まれて共に凍っていったのだ。
「え、あ・・・」
「だめ!皆ストップ!」
「嘘!」
四人はそれぞれ悲鳴をあげ、剣から手を離した。
「凍樹の牢獄(フリーズプリズン)」
今度はそれぞれの木々の氷が横へと広がっていった。五人は氷の枝に囲まれ上下左右氷に囲まれてしまっている。
「時間がたてば消えるようにしておきますので、私たちはこれで失礼しますね」
ミルフェスはマイペースに言うと、ベヒモスをつれて横を通り過ぎていこうとする。
「皆さん、風邪には気をつけてください。それ、囲まれている間は容赦なく体温を奪いますから」
初春ではあるがまだまだ雪も残るこの時期に、氷の檻に閉じ込められたら風邪どころではすまなそうだ。光はそんなことを考えながらミルフェスのあとについて氷の横に立つ。
「・・・・・」
光は体を低くして、左手で刀の鞘を抑えた。
右手で『八房』を引き抜くとそのままの勢いで氷の樹の一本を切り倒す。
そこには一人の女子生徒が驚いた表情を浮かべて立っていた。
「・・・・」
ぺこり。光は頭を下げるとその女子から離れてミルフェスを追いかけた。
呆然とした女子生徒はその場にへたり込んで光とミルフェスを見送った。
翌日の授業で、今日いた五人はみな体調不良で休んだという。
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