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冬の日の拾いもの

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冬の罠はわりと近い場所に設置してある。

遠いと雪に阻まれ、見に行けなくなるからだ。

とらばさみ状の物と、檻状の物。

獲物がかからなくても食に困らないので、私が扱える範囲の箇所だ。

目印の付けてある木を探し、その下の雪を慎重に避ける。

獲物はかかっていないようだ。

次の罠場を見つけようと移動を始める。

その途中に、雪とは違う白っぽい塊が雪に埋もれるようにしてあった。

結構、大きそうだ。

「熊?」

動かない。

この林には猛獣は入れない筈だ。

多分。

動かないので、恐る恐る近寄ってみる。

「………人間?
死体?」

銀色の頭が日に反射している。

雪にうつぶせになって埋まっている。

灰色の外套が見える。

生きてる?

死んでる?

どうしょう?

どちらにしてもシャルロットたちに貰った余生のような人生。

このままこの人を放置するのはダメだろう。

生きているのならば助け、死んでいるのならば、埋葬してあげなければ。

意を決して近寄った。

「大丈夫ですか?
生きてますか?!」

体を揺さぶり、声をかける。

ピクリと動いたように思えたので、仰向けにしたかったが、体が埋まっているので難しい。

スコップで周りの雪をある程度避け、後は手で慎重に掘り出す。

ソリを近付け、仰向けに転がしながら乗せたいが、結構大きくて重たい。

硬直はしてないから、まだ生きていると思う。

早く、早くしなければ。

焦って自分も雪に埋もれたりしながらもがくようにして奮闘していると、その人の意識が戻ったのか、這いずるようにしてソリに上半身を乗せてくれた。

そこで力尽きたようだが、後は足をソリに押し込めるだけ。

足一本でも重かったが、何とか乗せ、落下防止の縄で固定する。

通常は獲物をソリに固定する縄だが、仕方ない。

その上からシートを被せ、足場の悪い雪道を引っ張って行く。

私が雪かきした道まで戻るのが大変だったが、その後は家の前までスムーズになる。

が、ソリから降ろしてしまえば私はこの大きな人をベッドまで運ぶ術が無い事に気がついた。

仕方がない。

居間の中までソリのまま無理矢理引きずった。

毛皮や布団を床に重ね、雪で濡れてる手袋や外套や防寒ズボン、ブーツを脱がせ、ソリをひっくり返すようにしてその人を敷物の上に転がした。

幸い、外套の下はそれほど濡れてない。

防寒ズボンを重ね履きしてくれてたので、ズボンも無事だ。

布団をかけて、台所で飲み物を温めて持ってくる。

「大丈夫ですか?
飲み物、飲めますか?」

意識が無いようなので、ハーブティを濾す時に使っていた布に飲み物を湿らせて、唇の上に乗せる。

ほんの少量ずつだが、飲んでる。

紫色の唇がホンノリと色を取り戻す。

髪が濡れているのに気付き、布で拭きながら観察する。

不精ひげに覆われているが、キレイな顔立ちの白人ぽい男性のようだ。

手を握ってみれば氷のように冷たい。

ガタガタ震えてもいるようだ。

これは不味いのかも知れない。

凍傷で指先を喪うような事は避けたいが、さて、どうしょう?

お風呂には重たくて入れられない。

マッサージで血の巡りを良くするべきか?

知恵の宝庫のようなお祖母さんがいないのがとても残念だ。

とりあえず、靴下を脱がせ、足先のマッサージを始めた。


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