上 下
3 / 33

3話 え?そんな事しませんよ?

しおりを挟む
「シオン! お前の俺への愛はその程度だったのか!!!」

 フランツ王太子が出口で待っていました。
 王宮の中ではなく、なぜ出口で待っていたのでしょう。
 声をかけるチャンスは何度もあったのに。

「私は捨てられた身です。フランツ王太子のために必死に努力してきましたが、それが実らなかったのであれば素直に去るだけです」

「な、何を言っている! 側室としてなら残っていいと言っているだろう!」

「私はフランツ様の正室として呼ばれてきました。それが叶わないからと側室になる事はできません」

「だ、だから! お、お前は私の言う事を聞いていればいいんだ!」

「? 婚約や結婚したならいざ知らず、今の私達の間には何もありません」

「おま! お前のような醜女しこめが結婚できると思っているのか!」

「無理でしょうね。なので私は心残りのないように、玉砕覚悟で思いを伝えようと思っています」

「そ、そうだろうそうだろう、さあ俺に思いのたけをぶつけて見ろ! 気に入れば側室として迎え入れてやるぞ!」

 何を言っているのかしらフランツ様は。
 私が思いを伝えたいのはハンスであってアナタではないのですが。

「お待ちなさい! 大人しく聞いていればずに乗って、フランツ様を捨てるというの!?」

 フランツ様の後ろの柱から、ザビーネ公爵令嬢が出てきました。
 あ、今はザビーネ王太子妃候補でしょうか。

「ザビーネ様、捨てられたのは私の方なのですが……?」

「女ならば王太子の後を追うモノではなくって? 一度フラれたからと諦めるなんて無責任ですわ!」

 無責任? 私は無責任なのでしょうか。
 少なくとも責任は果たしていたと思いますし、挨拶という最後の責任も果たしたつもりです。
 それ以外にも責任があるのでしょうか。

「私は責任を果たしたつもりですが、どの様なところが無責任なのでしょうか?」

「王太子妃としての仕事よ!」

「それはザビーネ様の仕事なので、私にはその責任が無いはずですが……」

「中途半端にして逃げるつもりかしら!? そんな事も分からないなんて、どんな神経をしているのかしら!」

 おかしいですね、私がやっていた仕事は王太子妃の疑似体験であって、正式な物では無いはず。
 確かに少しでも力になりたくて各機関の生の声を届けたけど、それは正式な仕事ではないのだし。

「王太子妃の仕事の事ならば、私がやっていたのはお手伝いの範囲であって、正式な物ではありません。正式な物はザビーネ様が行うのではありませんか?」

「仕事はあなたの役目でしょ! あ、そうじゃなくって、ゴホン、今までの仕事を無駄にしない為にも、そうね、側室ではなくても王宮に残るべきでは、あ! こらどこへ行くのかしら!?」

 流石に頭が痛くなってきたのでこの場は去る事にしました。
 本当はいち早くハンスの領地に行って告白をしたいのですが、今はハンスも仕事中、私の事で気を煩わせるわけにはいきません。

 再来月が楽しみです。



「やあシオン様久しぶり」

「隊長さん、お久しぶりですね。今日はわざわざどうされたんですか?」

 今日は衛兵の隊長さんが自宅に訪れてきました。
 居間にお通ししてお話を聞いてみましょう。

「嬢ちゃんはさ、仕事はどうするんだ? スロープ家は長男がいるから後は継がないんだろう?」

「ええ、まずはハンスに告白をしてからと思っていましたが、幸い手に職がありますので、私を必要としてくれる場所で働こうと思っています」

「そうか! なら衛兵の事務仕事をやってみないか?」

「衛兵の、ですか?」

「ああ。今までやっていた婆さんが病気で辞めちまったんだ、だから募集をしてるんだが、中々こなくてな」

 そういえばあのお婆さん、かなりお歳をめしていましたね。
 腰が痛いとかも。

「ああ急がなくてもいいんだ。もちろん告白の後でいいし、無理ならいいんだ。でも、考えちゃくれないか?」

「今はまだ考えていませんが、候補の一つには考えておきます」

「おう、それでいいよ」

 その翌日には児童施設の職員さんが来て、その次の日は大聖堂から、さらに市庁舎から、騎士団や美術館など、私が王太子妃候補だった時に訪問した各所からお話が来ました。
 一番驚いたのは王宮の書記官にならないかと言われた時でした。

 どれも保留させてもらいましたが、でもしばらくはやる事が無いのも確かです。

 ハンスが返ってくるまでは時間もありますし、時々お手伝いをする位なら大丈夫でしょうか。

「いや~助かったよ嬢ちゃん、っとシオン様。あれ以来また金が減らされてよう、訓練場の手入れもままならねぇんだわ」

「え? でも衛兵の資金は増額されたんですよね?」

「三ヶ月だけだったよ。それ以降は戻通りさ」

 それ以外の場所も同じだった。
 市庁舎も大聖堂も、管理が行き届かない場所が出てきたと言っていた。
 どうしたのかしら、確か国庫には余裕が有ったはずだし、街道や城壁の修理にも回していたはずだけど。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

世界神様、サービスしすぎじゃないですか?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,717pt お気に入り:2,199

幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:87

フランチェスカ王女の婿取り

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,712pt お気に入り:5,434

妹と違って無能な姉だと蔑まれてきましたが、実際は逆でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:5,358

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,349pt お気に入り:14

処理中です...