12 / 33
12話 王の帰還
しおりを挟む
「は、離してくださいませフランツ王太子!」
「うるさい! お前の存在価値など脳みそだけなのだから、髪など必要ないだろう!」
馬車から降りると同時に髪を掴まれ、どこかへと連れて行かれます。
痛い、いえ、今は痛いよりも惨めで仕方がありません。
私は国のためを思って必死に働いていたつもりでした、それなのにこのような仕打ちを受けるなど……悔しいと思うよりも悲しい。
全くの……無駄だったのですね。
「フランツ王太子! その手を御放しください! シオン嬢が何をしたというのですか!」
「そうです王太子! シオン様は国のためを思って身を粉にして働いてくれたのですよ!?」
あれは隊長さんと室長、ああ、付いてきてくれたのですね。
他にもお世話になっている方々が沢山来てくださいました。
でも、見ないで……こんな扱いをされている私を……見ないでください。
王宮の中を通り、謁見の間の前を通った時でした。
「なにごとだ、騒々しい」
誰もいないはずの謁見の間から声がしました。
とても低く良く響く声、扉が開くとその人物が姿を現しました。
「お、お父さま!?」
漆黒の鎧を身にまとい、真っ赤なマントをひるがえさせて、腰にかけた大きな剣の柄に手を乗せています。
黒く長い髪、そして揃えられたヒゲ……こ、この御方は!!
全員が膝をつき、私も慌てて膝をつきました。
「お帰りなさいませ! 国王陛下!」
隊長さんが声を出すと、他の人も声を揃えて陛下のお帰りを歓迎しました。
しかし立っている人物が二名、その二名は歓迎の声も上げていません。
「お父さま聞いてください! この女が自分の責任を放棄して遊び惚けているんです!」
「その通りですわ陛下。陛下のお帰りを歓迎したい所ですが、私たちはこの女に罰を与えねばなりません」
フランツ王太子とザビーネ公爵令嬢です。
私の髪を引っ張り、陛下の顔を見せつけるように持ち上げられました。
「シオン嬢ではないか、一体何があったのだ」
「はいお父さま! この女は――」
「お前ではない、シオン嬢に聞いておるのだ」
「え? は、はぁ」
「陛下、このような形での邂逅をお許しください。私は今、フランツ王太子に王太子妃の仕事をしていないからと、罰を受ける所でございます」
「フランツ、いつまで女性の髪を掴んでいるつもりだ」
「だ、だってこの女は――」
「二度は言わぬ」
慌てて手を離され、私は浮いていた膝が床に付きました。
やっと、解放されました。
「それでシオン嬢、俺が聞いた話ではフランツとの婚約は破棄されたと聞いたが?」
「はい、数か月前に破棄され、私は王宮を離れて仕事をしておりました」
「ふむ報告通りだな。フランツ、お前はザビーネ譲と婚約したのではないのか?」
「ええ! 美しいザビーネとの婚約は、国民にとっても良い知らせとなったでしょう!」
「であれば、ザビーネ嬢が王太子妃の仕事をするのではないのか?」
「だ、だってザビーネと遊びたいですし……」
「恐れながら陛下、この女シオンは働くしか能のない女です。それを有効的かつ効率的に使ったのです」
「お前の意見は聞いていない、無礼者が!」
陛下に叱咤され、顔を真っ青にして膝をつくザビーネ公爵令嬢。
公爵令嬢なのだから、王族に対する作法くらい知っているはずですが……ああ、もう王族になった気分なのですね。
「話をまとめると、フランツとザビーネ嬢は俺に聞く事すらせずに勝手に婚約し、しかも無関係のシオン嬢に酷い仕打ちをして働かせようとしている、で間違いないな?」
「ち、違いますお父さま! この女は――」
「「「その通りでございます!」」」
二人以外の声が揃いました。
陛下、どうやら全部知っていたみたい。
知っていて最終確認をしただけ、そんな感じがします。
「では二人には追って沙汰を言い渡す。それまでは謹慎しておれ」
「そんなお父さま!」
「陛下! それはあんまりですわ!」
必死に食い下がるフランツ王太子とザビーネ公爵令嬢。
しかし陛下の顔がさらに厳しくなります。
「俺に同じことをもう一度言わせるつもりか?」
今度はフランツ王太子も膝をつきました。
国王陛下に同じことを言わせる事、それは深い理由がない限り陛下を侮辱した事になる。
たとえ王太子といえど、陛下を侮辱してはただでは済まない。
あら? そういえば陛下は王太子に甘かった気がするのですが、今日は随分と厳しいですね。
「シオン嬢すまなかったな、俺の愚息が失礼な事をした。婚約破棄に付いては……申し訳ないが良かったと思って諦めてくれ」
「滅相もありません陛下。陛下のお陰で私は解放されました。しかし良かった……でございますか?」
「このような馬鹿者と結ばれなかった事は、シオン嬢にとって良かったであろう。それとも王太子妃になりたかったか?」
「いえ、その様な事はございません」
「うむ、後で詫びを入れよう。皆の者さわがせたな、それぞれのやるべき事をやるがよい」
フランツ王太子は自室に閉じ込められ、ザビーネ公爵令嬢も自宅から出られなくなった。
私は……自由、なのかしら。
「うるさい! お前の存在価値など脳みそだけなのだから、髪など必要ないだろう!」
馬車から降りると同時に髪を掴まれ、どこかへと連れて行かれます。
痛い、いえ、今は痛いよりも惨めで仕方がありません。
私は国のためを思って必死に働いていたつもりでした、それなのにこのような仕打ちを受けるなど……悔しいと思うよりも悲しい。
全くの……無駄だったのですね。
「フランツ王太子! その手を御放しください! シオン嬢が何をしたというのですか!」
「そうです王太子! シオン様は国のためを思って身を粉にして働いてくれたのですよ!?」
あれは隊長さんと室長、ああ、付いてきてくれたのですね。
他にもお世話になっている方々が沢山来てくださいました。
でも、見ないで……こんな扱いをされている私を……見ないでください。
王宮の中を通り、謁見の間の前を通った時でした。
「なにごとだ、騒々しい」
誰もいないはずの謁見の間から声がしました。
とても低く良く響く声、扉が開くとその人物が姿を現しました。
「お、お父さま!?」
漆黒の鎧を身にまとい、真っ赤なマントをひるがえさせて、腰にかけた大きな剣の柄に手を乗せています。
黒く長い髪、そして揃えられたヒゲ……こ、この御方は!!
全員が膝をつき、私も慌てて膝をつきました。
「お帰りなさいませ! 国王陛下!」
隊長さんが声を出すと、他の人も声を揃えて陛下のお帰りを歓迎しました。
しかし立っている人物が二名、その二名は歓迎の声も上げていません。
「お父さま聞いてください! この女が自分の責任を放棄して遊び惚けているんです!」
「その通りですわ陛下。陛下のお帰りを歓迎したい所ですが、私たちはこの女に罰を与えねばなりません」
フランツ王太子とザビーネ公爵令嬢です。
私の髪を引っ張り、陛下の顔を見せつけるように持ち上げられました。
「シオン嬢ではないか、一体何があったのだ」
「はいお父さま! この女は――」
「お前ではない、シオン嬢に聞いておるのだ」
「え? は、はぁ」
「陛下、このような形での邂逅をお許しください。私は今、フランツ王太子に王太子妃の仕事をしていないからと、罰を受ける所でございます」
「フランツ、いつまで女性の髪を掴んでいるつもりだ」
「だ、だってこの女は――」
「二度は言わぬ」
慌てて手を離され、私は浮いていた膝が床に付きました。
やっと、解放されました。
「それでシオン嬢、俺が聞いた話ではフランツとの婚約は破棄されたと聞いたが?」
「はい、数か月前に破棄され、私は王宮を離れて仕事をしておりました」
「ふむ報告通りだな。フランツ、お前はザビーネ譲と婚約したのではないのか?」
「ええ! 美しいザビーネとの婚約は、国民にとっても良い知らせとなったでしょう!」
「であれば、ザビーネ嬢が王太子妃の仕事をするのではないのか?」
「だ、だってザビーネと遊びたいですし……」
「恐れながら陛下、この女シオンは働くしか能のない女です。それを有効的かつ効率的に使ったのです」
「お前の意見は聞いていない、無礼者が!」
陛下に叱咤され、顔を真っ青にして膝をつくザビーネ公爵令嬢。
公爵令嬢なのだから、王族に対する作法くらい知っているはずですが……ああ、もう王族になった気分なのですね。
「話をまとめると、フランツとザビーネ嬢は俺に聞く事すらせずに勝手に婚約し、しかも無関係のシオン嬢に酷い仕打ちをして働かせようとしている、で間違いないな?」
「ち、違いますお父さま! この女は――」
「「「その通りでございます!」」」
二人以外の声が揃いました。
陛下、どうやら全部知っていたみたい。
知っていて最終確認をしただけ、そんな感じがします。
「では二人には追って沙汰を言い渡す。それまでは謹慎しておれ」
「そんなお父さま!」
「陛下! それはあんまりですわ!」
必死に食い下がるフランツ王太子とザビーネ公爵令嬢。
しかし陛下の顔がさらに厳しくなります。
「俺に同じことをもう一度言わせるつもりか?」
今度はフランツ王太子も膝をつきました。
国王陛下に同じことを言わせる事、それは深い理由がない限り陛下を侮辱した事になる。
たとえ王太子といえど、陛下を侮辱してはただでは済まない。
あら? そういえば陛下は王太子に甘かった気がするのですが、今日は随分と厳しいですね。
「シオン嬢すまなかったな、俺の愚息が失礼な事をした。婚約破棄に付いては……申し訳ないが良かったと思って諦めてくれ」
「滅相もありません陛下。陛下のお陰で私は解放されました。しかし良かった……でございますか?」
「このような馬鹿者と結ばれなかった事は、シオン嬢にとって良かったであろう。それとも王太子妃になりたかったか?」
「いえ、その様な事はございません」
「うむ、後で詫びを入れよう。皆の者さわがせたな、それぞれのやるべき事をやるがよい」
フランツ王太子は自室に閉じ込められ、ザビーネ公爵令嬢も自宅から出られなくなった。
私は……自由、なのかしら。
56
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い
猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」
「婚約破棄…ですか」
「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」
「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」
「はぁ…」
なんと返したら良いのか。
私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。
そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。
理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。
もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。
それを律儀に信じてしまったというわけだ。
金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる