お願いされて王太子と婚約しましたが、公爵令嬢と結婚するから側室になれと言われました

如月ぐるぐる

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12話 王の帰還

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「は、離してくださいませフランツ王太子!」

「うるさい! お前の存在価値など脳みそだけなのだから、髪など必要ないだろう!」

 馬車から降りると同時に髪を掴まれ、どこかへと連れて行かれます。
 痛い、いえ、今は痛いよりも惨めで仕方がありません。
 私は国のためを思って必死に働いていたつもりでした、それなのにこのような仕打ちを受けるなど……悔しいと思うよりも悲しい。
 全くの……無駄だったのですね。

「フランツ王太子! その手を御放しください! シオン嬢が何をしたというのですか!」

「そうです王太子! シオン様は国のためを思って身を粉にして働いてくれたのですよ!?」

 あれは隊長さんと室長、ああ、付いてきてくれたのですね。
 他にもお世話になっている方々が沢山来てくださいました。
 でも、見ないで……こんな扱いをされている私を……見ないでください。
 
 王宮の中を通り、謁見の間の前を通った時でした。

「なにごとだ、騒々しい」

 誰もいないはずの謁見の間から声がしました。
 とても低く良く響く声、扉が開くとその人物が姿を現しました。

「お、お父さま!?」

 漆黒の鎧を身にまとい、真っ赤なマントをひるがえさせて、腰にかけた大きな剣の柄に手を乗せています。
 黒く長い髪、そして揃えられたヒゲ……こ、この御方は!!

 全員が膝をつき、私も慌てて膝をつきました。

「お帰りなさいませ! 国王陛下!」

 隊長さんが声を出すと、他の人も声を揃えて陛下のお帰りを歓迎しました。
 しかし立っている人物が二名、その二名は歓迎の声も上げていません。

「お父さま聞いてください! この女が自分の責任を放棄して遊び惚けているんです!」

「その通りですわ陛下。陛下のお帰りを歓迎したい所ですが、私たちはこの女に罰を与えねばなりません」

 フランツ王太子とザビーネ公爵令嬢です。
 私の髪を引っ張り、陛下の顔を見せつけるように持ち上げられました。

「シオン嬢ではないか、一体何があったのだ」

「はいお父さま! この女は――」

「お前ではない、シオン嬢に聞いておるのだ」

「え? は、はぁ」

「陛下、このような形での邂逅をお許しください。わたくしは今、フランツ王太子に王太子妃の仕事をしていないからと、罰を受ける所でございます」

「フランツ、いつまで女性の髪を掴んでいるつもりだ」

「だ、だってこの女は――」

「二度は言わぬ」

 慌てて手を離され、私は浮いていた膝が床に付きました。
 やっと、解放されました。

「それでシオン嬢、俺が聞いた話ではフランツとの婚約は破棄されたと聞いたが?」

「はい、数か月前に破棄され、私は王宮を離れて仕事をしておりました」

「ふむ報告通りだな。フランツ、お前はザビーネ譲と婚約したのではないのか?」

「ええ! 美しいザビーネとの婚約は、国民にとっても良い知らせとなったでしょう!」

「であれば、ザビーネ嬢が王太子妃の仕事をするのではないのか?」

「だ、だってザビーネと遊びたいですし……」

「恐れながら陛下、この女シオンは働くしか能のない女です。それを有効的かつ効率的に使ったのです」

「お前の意見は聞いていない、無礼者が!」

 陛下に叱咤され、顔を真っ青にして膝をつくザビーネ公爵令嬢。
 公爵令嬢なのだから、王族に対する作法くらい知っているはずですが……ああ、もう王族になった気分なのですね。

「話をまとめると、フランツとザビーネ嬢は俺に聞く事すらせずに勝手に婚約し、しかも無関係のシオン嬢に酷い仕打ちをして働かせようとしている、で間違いないな?」

「ち、違いますお父さま! この女は――」

「「「その通りでございます!」」」

 二人以外の声が揃いました。
 陛下、どうやら全部知っていたみたい。
 知っていて最終確認をしただけ、そんな感じがします。

「では二人には追って沙汰を言い渡す。それまでは謹慎しておれ」

「そんなお父さま!」

「陛下! それはあんまりですわ!」

 必死に食い下がるフランツ王太子とザビーネ公爵令嬢。
 しかし陛下の顔がさらに厳しくなります。

「俺に同じことをもう一度言わせるつもりか?」

 今度はフランツ王太子も膝をつきました。
 国王陛下に同じことを言わせる事、それは深い理由がない限り陛下を侮辱した事になる。
 たとえ王太子といえど、陛下を侮辱してはただでは済まない。
 あら? そういえば陛下は王太子に甘かった気がするのですが、今日は随分と厳しいですね。

「シオン嬢すまなかったな、俺の愚息が失礼な事をした。婚約破棄に付いては……申し訳ないが良かったと思って諦めてくれ」

「滅相もありません陛下。陛下のお陰で私は解放されました。しかし良かった……でございますか?」

「このような馬鹿者と結ばれなかった事は、シオン嬢にとって良かったであろう。それとも王太子妃になりたかったか?」

「いえ、その様な事はございません」

「うむ、後でびを入れよう。皆の者さわがせたな、それぞれのやるべき事をやるがよい」

 フランツ王太子は自室に閉じ込められ、ザビーネ公爵令嬢も自宅から出られなくなった。
 私は……自由、なのかしら。
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