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ゆえの体を抱き寄せて首筋を唇で擦る。くすぐったい、と弱い力で押し返そうとする彼女にキスをした。驚いて開いた唇の隙間から舌を差し込んで唾液を掻き混ぜる。小さな口が亨の動きに合わせて餌を欲しがる鯉のように開閉するのが可愛らしかった。キスはだいぶ慣れたと思う。受け入れられていると思うと体中が疼いて仕方ない。
ちゅっと音を立てて離れ、布団の中で彼女のスウェットとインナーを捲り上げた。腰を掴むとふるりと震える。
「冷たかったね」
申し訳ないという意を込めて髪を撫でる。ゆえは亨の前開きのパジャマの胸元を握って俯いたまま首を左右に振った。
腰にあった手をそのまま上にスライドして辿り着いたたわわなふくらみを下から掬い上げる。柔らかく弾力のあるそれが跳ねるのを楽しんでから掌で輪郭をなぞった。ゆえは手の甲を口にあててふうふうと荒れた呼吸を繰り返している。
細い首筋に唇を寄せて、ふくらみの一つを中指の腹で触れた。ゆえは体を硬くして腰を引く。亨の胸を押す力が強くなり、しかし亨はそれを気に留めず、起立した乳首を優しく撫でた。
「せんせ……っ、もう、や」
「本当に?何だか気持ちよさそうだよ」
亨は機嫌良く返しながら、布団の中に顔を潜らせる。びくびくと反応する背中が逃げないように腕を回し、墨色の中でゆえの胸に舌を這わせた。
抵抗するように突っ張った手が亨の肩を押しやる。構わず尖ったものを舌先で舐め上げると、甘い吐息が絶え間なく漏れた。頃合いを見計らって布団の中から顔を出すと、ゆえがあまりにも蕩けた顔をしていたので少し笑った。
「今日はどうだろうね」
言いながらゆえのショーツの中に手を滑り込ませる。期待で自分自身も張りつめている。彼女の緊張が伝わってくる。洞窟に挑む探検家の気持ちで股の奥に指を伸ばした。
「い……っ」
そこは締めた巾着のように閉じられていた。何度擦ってみても濡れるどころか開かない。指の一本すら拒む穴に亨は苦笑した。
「なかなか強情だね」
「すみません……」
「初めてなら仕方ないよ」
「無駄に歳だけ取ってしまって、恥ずかしいです」
「俺は嬉しいけどね」
訝し気な顔のゆえに亨が頷くと、やはりよく分からないというふうに首を傾けた。
緊張が解けたのか間もなくゆえの小さな寝息が聞こえてきた。亨はスマホでアラームをかけて彼女の髪を梳く。
カーテンの隙間から僅かな月明りが差し込んでいた。
***
「ていうか最近黒野さん超きれいになりましたよね!」
明るい陽光を背に受けながら笑う理学療法士――赤木誠(あかぎまこと)に足を持ち上げられていた高齢女性――佐々木がその言葉に「おほほ」と口を押さえた。
手前のベッドで患者の血圧を測定していたゆえは、突然水を向けられぎょっとして顔を上げる。
「な、何の話ですか?」
「看護師さん美人ねって話よ」
佐々木は赤木に股関節を回されながら楽しそうにまた「ほほほ」と唇を窄めて笑った。
誠も蒼穹を背中に背負い爽やかに口角を上げる。短い茶髪の毛先がきらきらしていた。
「彼氏でも出来たんすか?」
「で、出来てないです」
セフレは出来た、とは言えない。
「じゃあ恋ですね。好きな人がいるとか?」
「それは、えっと……」
ゆえがまごついていると、病室内の女性患者たちがニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。先ほどまでつまらなそうに週刊誌を見ていた八重樫さんまでゆえを見ている。注目を集めてしまったゆえは中年太り気味の木野のマンシェットを外しながら顔を赤くした。「あらあらトマトみたいになっちゃって」座ったままの木野がからかうようにゆえを覗き込む。
「好きですけど……そういう好きでは無くて……っ」
「何だあ、俺黒野さん狙ってたんだけどなー」
誠が佐々木の足首をゆっくりと回す。
「えーじゃあどういう好きなの?」
六つ年下の彼は年上年下関係なくとてもフランクに話す。その壁の低さが誠の魅力だとゆえは思うが、こう安易に深いことを探られると困ってしまう。しかも彼の一つ一つの言葉の重さが測れず、喋っていることの真意が掴みにくい。
どう答えればいいのか分からず戸惑っていると、開いたドアから真っ直ぐに沙彩が入ってきた。
「赤木さん、病室での私語はどうかと思いますよ」
ピンと弦を張ったような声に、病室内のふざけた雰囲気が掻き消される。大きな瞳の鋭さに刺された誠は空笑いをして「ごめんごめん」と顔の前で手を合わせた。
「最近黒野さんがあんまり可愛いからさ。うん、静かにするよ」
「は?先輩は今までもこれからもずっと可愛いですよ?頭頂部から足底まで魅力の無いところなんてありますか?答えられますか?」
畳みかける沙彩の迫力に、そこにいる誰もが顔を強張らせた。誠も例に漏れず石のように動かなくなり、やがて後頭部を掻いて瞬きを繰り返した。
「うん、うん。沙彩さんが黒野さんのことをすごく好きなのは分かったよ」
「名前で呼ばないでもらえますか」
撥ね退けられしょんぼりと肩を落とす誠の頭に、垂れ下がった犬の耳が見えたゆえは流石に不憫になって「沙彩ちゃん、大丈夫だよ」と彼女に微笑みを向けた。
「ちゃっと困っちゃっただけだから」
沙彩がぎゅっと拳を作ったのが見えた。そしてその手が震えているのも。
ちゅっと音を立てて離れ、布団の中で彼女のスウェットとインナーを捲り上げた。腰を掴むとふるりと震える。
「冷たかったね」
申し訳ないという意を込めて髪を撫でる。ゆえは亨の前開きのパジャマの胸元を握って俯いたまま首を左右に振った。
腰にあった手をそのまま上にスライドして辿り着いたたわわなふくらみを下から掬い上げる。柔らかく弾力のあるそれが跳ねるのを楽しんでから掌で輪郭をなぞった。ゆえは手の甲を口にあててふうふうと荒れた呼吸を繰り返している。
細い首筋に唇を寄せて、ふくらみの一つを中指の腹で触れた。ゆえは体を硬くして腰を引く。亨の胸を押す力が強くなり、しかし亨はそれを気に留めず、起立した乳首を優しく撫でた。
「せんせ……っ、もう、や」
「本当に?何だか気持ちよさそうだよ」
亨は機嫌良く返しながら、布団の中に顔を潜らせる。びくびくと反応する背中が逃げないように腕を回し、墨色の中でゆえの胸に舌を這わせた。
抵抗するように突っ張った手が亨の肩を押しやる。構わず尖ったものを舌先で舐め上げると、甘い吐息が絶え間なく漏れた。頃合いを見計らって布団の中から顔を出すと、ゆえがあまりにも蕩けた顔をしていたので少し笑った。
「今日はどうだろうね」
言いながらゆえのショーツの中に手を滑り込ませる。期待で自分自身も張りつめている。彼女の緊張が伝わってくる。洞窟に挑む探検家の気持ちで股の奥に指を伸ばした。
「い……っ」
そこは締めた巾着のように閉じられていた。何度擦ってみても濡れるどころか開かない。指の一本すら拒む穴に亨は苦笑した。
「なかなか強情だね」
「すみません……」
「初めてなら仕方ないよ」
「無駄に歳だけ取ってしまって、恥ずかしいです」
「俺は嬉しいけどね」
訝し気な顔のゆえに亨が頷くと、やはりよく分からないというふうに首を傾けた。
緊張が解けたのか間もなくゆえの小さな寝息が聞こえてきた。亨はスマホでアラームをかけて彼女の髪を梳く。
カーテンの隙間から僅かな月明りが差し込んでいた。
***
「ていうか最近黒野さん超きれいになりましたよね!」
明るい陽光を背に受けながら笑う理学療法士――赤木誠(あかぎまこと)に足を持ち上げられていた高齢女性――佐々木がその言葉に「おほほ」と口を押さえた。
手前のベッドで患者の血圧を測定していたゆえは、突然水を向けられぎょっとして顔を上げる。
「な、何の話ですか?」
「看護師さん美人ねって話よ」
佐々木は赤木に股関節を回されながら楽しそうにまた「ほほほ」と唇を窄めて笑った。
誠も蒼穹を背中に背負い爽やかに口角を上げる。短い茶髪の毛先がきらきらしていた。
「彼氏でも出来たんすか?」
「で、出来てないです」
セフレは出来た、とは言えない。
「じゃあ恋ですね。好きな人がいるとか?」
「それは、えっと……」
ゆえがまごついていると、病室内の女性患者たちがニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。先ほどまでつまらなそうに週刊誌を見ていた八重樫さんまでゆえを見ている。注目を集めてしまったゆえは中年太り気味の木野のマンシェットを外しながら顔を赤くした。「あらあらトマトみたいになっちゃって」座ったままの木野がからかうようにゆえを覗き込む。
「好きですけど……そういう好きでは無くて……っ」
「何だあ、俺黒野さん狙ってたんだけどなー」
誠が佐々木の足首をゆっくりと回す。
「えーじゃあどういう好きなの?」
六つ年下の彼は年上年下関係なくとてもフランクに話す。その壁の低さが誠の魅力だとゆえは思うが、こう安易に深いことを探られると困ってしまう。しかも彼の一つ一つの言葉の重さが測れず、喋っていることの真意が掴みにくい。
どう答えればいいのか分からず戸惑っていると、開いたドアから真っ直ぐに沙彩が入ってきた。
「赤木さん、病室での私語はどうかと思いますよ」
ピンと弦を張ったような声に、病室内のふざけた雰囲気が掻き消される。大きな瞳の鋭さに刺された誠は空笑いをして「ごめんごめん」と顔の前で手を合わせた。
「最近黒野さんがあんまり可愛いからさ。うん、静かにするよ」
「は?先輩は今までもこれからもずっと可愛いですよ?頭頂部から足底まで魅力の無いところなんてありますか?答えられますか?」
畳みかける沙彩の迫力に、そこにいる誰もが顔を強張らせた。誠も例に漏れず石のように動かなくなり、やがて後頭部を掻いて瞬きを繰り返した。
「うん、うん。沙彩さんが黒野さんのことをすごく好きなのは分かったよ」
「名前で呼ばないでもらえますか」
撥ね退けられしょんぼりと肩を落とす誠の頭に、垂れ下がった犬の耳が見えたゆえは流石に不憫になって「沙彩ちゃん、大丈夫だよ」と彼女に微笑みを向けた。
「ちゃっと困っちゃっただけだから」
沙彩がぎゅっと拳を作ったのが見えた。そしてその手が震えているのも。
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