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第四十八話 「双子の淫魔と歴戦の勇士」~リュード大尉の知略~
しおりを挟む「ねえっ、リュードさん、ここから国境を超えるには、あの小高い山の小径を抜けるのが一番早いみたいですね?」
手持ち無沙汰に王宮の周りを散策していたロルシュが、遠くに見える低い山並みを指差す。
「・・・おおっ、ロルシュ王子はなかなか観察眼が鋭いですな!おっしゃるとおり、あの山なりに続いている小径を一気に駆け抜けて、山の裏手に出れば、そこはヴェルーメ公国でございます・・・もっともヴェルーメ公国も、現在はバルドスの軍門に下り、バルドスの保護国となっており、完全に安全ではございませんが・・・・」
「何かあったら、あそこから逃げるのが一番みたいですね・・・・」
「えっ?・・・・・ワッ、ワハハハハハッ!王子様達っ、なにか派手にやらかすおつもりでございますかな?」
リュード大尉は豪快に笑う・・・・しかし有能な軍人だけに、この不思議な少年達が何を企んでいるか、戦士の直感で感じ取っているようだ。
・・・・もしかしたら、緊急脱出するような場面も起こらないとは限らないという直感。
その時は、自分がこの双子の兄弟を守りつつ、国境を突破しなければならないのだ。
・・・・実は、リュード大尉は極秘に入手したバルドス王国の地図を何度も研究し、すでに複数の脱出路を選んでいたのだ。
「・・・今、バルドス王の家臣共と打ち合わせしている我々の従者達は、用が済んだら早馬ですぐに帰らせましょう!」
・・・・さすが一流の軍人である、何か不測の事態が起きた時、従者達が人質にならないよう先手を打って、国に帰らせるつもりなのだ。
日が傾き、王宮の無数のランプに火が灯る頃・・・ついにバルドス王国国王、ボルドゥールⅢ世の会談の時がきた。
王宮の控えの間で待たされたアルシュとロルシュ、そしてリュード大尉。
他の者は既に早馬でバルドス王国を後にし、今、この敵国に残っているのは三人だけである。
女王ソフィアの名代としてボルドゥールⅢ世と会談する双子の兄弟を護ることが出来るのは、リュード大尉ただ一人なのだ。
アルシュとロルシュが、所在なげにブラブラしていると、リュードがボルドゥールⅢ世の臣下達と大声でやりあっている声が聞こえた。
「・・・既に事前に謁見の条件は伝えておろう!この奥の王の間に入る者は、何人たりとも衣服その他を身に着けてはならないのだ!」
「・・・・お前達、馬鹿を言うのもいい加減にしろよ!俺の役目は女王の名代たる王子様達をお守りすることだ!!素っ裸で剣も帯びずに護衛の任務が務まると思うのかっ?」
長い黒服の宮廷衣装をきたバルドスの重臣達に大声で食って掛かるリュード大尉。
「いや、国法は国法である、何人たりとも・・・・」
「ワハハハハッ!お前ら、そんなに野郎の裸が見たいのかっ!」
「・・・・な、なにをっ・・・馬鹿なことを・・・・」
「家臣が主君を護るためには、当然に剣は必要ではないか・・・俺はものの道理を言っているのだ!お前らはそんなことも分からんのかっ?」
「・・・・だから、陛下の前ではいかなる者も、一切の物を身に付けてはならない定めなのだ・・・」
水掛け論・・・というより、これはリュード大尉の難癖である。
ボルドゥールⅢ世に謁見するため王の間に入るものは、何人たりとも全裸となる・・・それが重臣だろうと女性だろうと聖職者であろうと、曲げられることはない掟なのである。
・・・・それを承諾した上での今回の会談のはずなのだ。
それを、土壇場でゴネ始めるリュード大尉・・・焦れてくるバルドスの重臣達。
会談の予定時刻は迫っている、少しでも会談が遅れれば、彼等は残虐な王からどんな仕置を受けるか判らないのである。
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