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第二十二話 「反撃の狼煙」~エメラルドソード~

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 母と婚約者が繰り広げる激しい公開交尾を目の当たりにして、どこかウットリとした表情で二人を眺めていたアレッタ姫・・・・男女の愛の営みはどんな形であれ美しいのだ。

 ・・・・しかしすぐにハッと現実に引き戻される。

 このままずっとロミアの淫らな気まぐれで、母と婚約者がセッ〇ス人形のように背徳的な行為を続けさせられるのかもしれない・・・あるいは母子同志で慰め合うことを強要され、あるいは脂ぎった見知らぬ中年貴族に姫の処女を奪われ・・・恥辱のどん底に突き落とされる自分を想像する。

 このまま快楽に流されるのはロミアの思う壺だ、どうにかしてこの状況を打開しないと・・・
 アレッタは冷静になって広間の中を眺めはじめる。

 ・・・あっ・・・あれはっ・・・。

 ロミアやギャラリーの視線が、テーブルの上で禁断の交わりを強いられ、しっかりと抱き合って結合したままの王子と女王に注がれている中、アレッタ姫は、召使いが使う給仕用の出入り口の扉が小さく開いたのに気が付いた。

 ・・・・・音も立てずに、フサフサとした毛に覆われた耳が僅かに顔を出す。

 その扉の隙間から小さな顔を出したのは、彼女の愛犬の「プロイトス号」であった!

 名前の勇壮さに似つかわしくない、小さな可愛らしい雑種の仔犬である。
 姫が子供のころ、宮殿に迷い込んできたのを母に頼み込んで飼い犬にしてもらったのだ。

 プロイトス号は、人懐こい顔で舌を出しながらこちらを見ている。

 ・・・・プロイトスっ・・・ここに来ちゃダメっ、魔女に殺されてしまうわっ!あっちへ逃げで!

 ロミアに気付かれないよう声を立てずに、姫は表情だけでプロイトスを追い返そうとする。
 プロイトスは、主人の命令を理解しているのかそうではないのか、ドアの陰から離れようともせずに、尻尾を振ってじっとこちらを見ている・・・その時だった。

 アレッタ姫の視線が、ふとプロイトス号の首輪で止まった。


 ・・・あっ、あれっ!・・・プロイトスの首輪っ!・・・あの首輪に付いているのは・・・

 アレッタ姫の顔に向日葵のような笑顔が戻る。

 ・・・エメラルドっ!・・・そうっ、あの子の首輪の飾りはエメラルドだったわっ!

 エメラルドは、その周辺に魔力に拮抗できる結界のようなものを形成する力がある。
 故に王族や貴族たちは、魔力者の魔法の対象とならないように、エメラルドの装飾品を好んで身に付けるのだ。

 今夜の婚約披露の宴では、アレッタ姫や女王リュディア達が身に着けていたエメラルドを、ロミアの狡猾な手段で奪われ、なす術もなく魔法の餌食にされていたのだ・・・。


 ・・・プロイトスっ!こっちへ!・・・こっちへ来て!私の側にっ!

 アレッタ姫は、目線と表情だけで、プロイトス号を側に呼び寄せる。
 小柄だが賢いプロイトス号は、主人であるアレッタ姫の無言の命令をちゃんと理解して、音も立てずに素早く主人の元に走り寄った!

 ・・・・ああっ!いい子ねっ!プロイトスっ!ありがとうッ!・・・

 プロイトス号が近づいた瞬間、首輪に付いていたエメラルドの効果で、アレッタ姫の身体は魔法の呪縛が解け、自由に動かせるようになった。
 姫は、プロイトス号の首から首輪を外して、ブレスレットのように自分の腕に巻きつける。

 ・・・ああっ、これで体が動くっ!・・・それにしても、これからどうしたら・・・

 姫は、広間の中をつぶさに見まわして、何か武器になる物を探す。

 広間の最奥、女王リュディアの玉座の後ろに、古びた石造りの戦士像があるのが目に留まった。
 いつの頃からそこにあるのか誰も知らない、殆ど摩耗して顔もはっきりとは分からない石造りの戦士像・・・

 それは大昔、悪の魔力者からこの国を救った英雄であると聞かされているが、アレッタはその名前を覚えていない。
 その古びた戦士像が腰に帯びている一振りの長剣・・・・。
 革製の鞘は、もう何百年もの年月を経て、石のように固まりボロボロになっている。

 アレッタは勇気を振り絞って静かに像に走り寄り、腰から剣を取り外す。
 姫は急いで剣の鞘を払おうとしたが、年代を経てほとんど刀身に固着している鞘は全く抜けない。

 ・・・ああっ、鞘がっ・・・石のように固まってしまっている・・・・。

 ・・・・焦るアレッタの後ろで、ロミアの声が響く。


 「・・・しまった・・・私としたことがっ・・・まったく油断も隙も無いんだからっ!・・・姫っ!剣を置きなさい!怪我をなさいますよっ!」

 今まで、女王と王子を家畜のように交尾させて喜んでいたロミアの眼光が蒼く光り、恐ろしい形相に変わる。


 ・・・・み、見つかった!・・・イチかバチかよっ!・・・神様っ、私に力を!

 「・・・・ロミアあっ!覚悟なさいいいっ!」

 アレッタ姫がほとんど自棄になって、魔力者ロミアに向かって走り出し、鞘付きの剣先を石造りの広間の床に思い切り叩きつける。

 ・・・ガキィィンッ!!

 大きな音が広間に響き渡り、剣の鞘がボロボロと崩れ落ちる。

 ・・・・その砕けた鞘の中から現れたもの。


 それは、刀身全てがエメラルドで作られた、神秘的な深緑色に輝くエメラルドの聖剣であった!

 既にこの時代、おとぎ話か物語の中だけのものと思われていた伝説のエメラルドソード!
 魔力に対抗する伝説の聖剣・・・・。

 「・・・・そ、それはっ!!・・・エメラルドソード!そ、そんなものが一体何処にっ!」

 ロミアの表情が恐怖に歪む。


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