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 朝、胃がムカムカするような気持ちの悪さで目覚める。昨日何か脂っこいものをたらふく食べてしまった感。なんと言っていいか・・・・・・、とりあえず胃薬飲んでおこう、みたいな?

「ううう~~・・・・・・気持ちわる・・・・・・」

 胃のあたりをさすりながら起き上がり、身支度を整える。
 確か今日は、セオドアとの魔法練習が授業後にあったな・・・。


 最後まで警戒を解かなかった三人のうち、まずシャムルちゃんが声をかけてくれた。
 止める二人を諫め、おずおずという風に『せんせぃ・・・・・・僕、先生とお話したいです・・・・・・』と言ってきたときは、ヒロインからの接触とその可憐さに脳内でノックアウトされた。
 それから勉強でわからないところなどを教える際は必ず二人も付き添い、なんだかんだ打ち解けたのだ。

 そして数日前、セオドアが、他の二人がいない時にこっそりと魔法の練習に付き合ってくれと言ってきたのだ。
 セオドアは俺と同じ光の魔力保持者である。ヴェータもだからあいつはいいのか?と聞くと、『俺はあいつの主人だから、あいつよりも上手く使えるようになりたい』と少し恥ずかしそうに答えたのだ。
 このとき、いつもはクールなのに意外と負けず嫌いで可愛い顔もするのだなと生徒の新たな一面を知った。

 光魔法では、人の傷を治したり心を癒やしたり、また闇魔法を浄化したりすることができる。
 闇魔法の浄化には傷などを癒やす場合と比べて膨大な量の魔力操作が必要になってくるが、セオドアはその大きな魔力の操作が上手くできないらしい。反対に、人の傷を癒やす場合には繊細な魔力操作が重要になってくるが、セオドアは繊細な操作はすごく上手いのだ。
 俺もどちらかというと繊細な操作は得意だが、どちらも難なくこなせたので快く承諾した。




 今日も平和に授業が終わり、セオドアとの魔法練習に向かう。
 彼は今年入学してきたものの早くも生徒会入りしており、仕事のない日に生徒会室を使える権利を持っているため週に2日、そこで練習をしているのだ。

 昨日から体内に存在する闇の魔力がバレるのではないかと、今日一日ビクビクしながら授業を終えた。まぁ鑑定魔法を使える人はそんなにいないし、しかも鑑定魔法を使える相手に先に闇魔法をかけてしまえば洗脳で操ることができてしまうから・・・・・・って、モブ族最強じゃん。


 よって俺が今闇の魔力を持っていることがバレるという確立は非常に低いのだが、光の魔力保持者は相対する闇の魔力に敏感だとも聞くから、セオドアにバレないか内心ドキドキしている。
 バレたら一気に信用がなくなるし、ゴミの方が上的な目で見られるかもしれない。モブ族は捕まえられたら最後、その後姿を見た者はいないらしいが、一体どこに連れて行かれて誰に何をされるのか・・・・・・知りたくもないわ!



 授業は終わったのに、不安と恐怖で足がもたつき、生徒会室までいつもよりも時間がかかってしまった。セオドアは時間にうるさそうだから、部屋に入ったら一睨みはされそうだ。


 そういえば、つい先日も一人モブ族がこの近くで捕まった。その時捕まえた中にセオドアとヴェータもおり、ヴェータは大活躍したらしい。
 セオドアも気が焦っているだろうからまずは急いで部屋に行き、俺のキャラにそぐわないが少し励まそうかとも考える。




 生徒会会議のない日は人気の少ない廊下を歩いて一番奥の生徒会室の前で止まり、ノックをして入室する。彼はもうすでに来ていて、長机の両側に並ぶ椅子の一つに座って本を読んでいた。


「お待たせして申し訳ありません」

 俺が来たのに気づくと、立ち上がって俺が座るまで待つ。


「いえ。お忙しいのに時間を取らせていただいているのは、こちらの方ですから」

 王子様とかって裏では少し我儘というイメージを持っていたから、セオドアの礼儀正しさに関心する。頭こそ下げはしないが、誠実さが態度を通して伝わってくるのだ。
 隣に腰を下ろすと、今さっき呼んでいた分厚い本を横へ避けた。何度も目を通しているらしいくたびれた本に、セオドアは本当に努力家だと思った。

 俺は持ってきた数枚のうち一枚の布を机において伸ばす。
 これは魔法の練習に使われる練習布と呼ばれるもので、大きさは小さいものから大きなものまで15枚持ってきている。一枚の特殊な布に模様が描かれており、そこに魔力を流すと模様が均一に光る。
 それぞれちょうど良い魔力量が異なっており、決められた量の魔力でないと模様は光らない。だから繊細な調節や大量の魔力の操作を練習することができる。
 これだけだと一人でできるのだが、同じ魔力を持つ者同士はそれを相互に渡し合うことも可能らしく、俺がセオドアに触れて魔力を流しセオドアの身体を通して魔力の調節をすることができるのだ。これで感覚を覚えてもらい、自分でもやってみるという練習もしている。
 その場合俺自身の魔力を使っているので、セオドアの体内の魔力量は減らない。

「セオドア君は繊細な操作が得意ですから、今日は5枚目からですかね。では、始めましょうか」

 練習布はこの15枚の他にもまだあって、今使っているものが一番小さいものから一番大きいものという訳でもない。全ての中から標準より小さい順に、適当に選んで15枚抜き取ったものだ。初めの5枚はあまりにも細かい違いで、全てを一度で成功させるのは教師でも難しいとされている。それほど、魔法の操作は難しいのだ。
 俺が一回やってみたら結構うまくいったのは内緒だが・・・・・・。


 生徒だと一回の練習時間に1枚成功させるのがやっとだが、セオドアは一回目の練習会で2枚も成功させた。これだと一番小さな精密操作も成功させるかもしれない。
 今の15枚をクリアできたら挑戦させようと思う。



 5枚目を練習中のセオドア。手の平に意識を集中させ、微妙な魔力量の操作をしている。尋ねてくるまで、俺はお馴染みである空気の存在だ。
 彼は自分で黙々と練習するのが合っているらしく、最初俺から感覚の説明やダメ出しをしたところ『まずは自分でやらせてください』と否とは言わさないぞという目つきで言われたので即座にしゅんっとなった。
 教師として、生徒の成長を黙って側で見守りたいと思います。大人しく。



 長い間末端部分に意識を集中させているからか、汗が噴き出て頬を流れていく。なかなかできず、いつも無表情なセオドアが『ムムム』という顔をするのが見ていてキュンとくる。常時には想像もできない子どもっぽい顔だ。
 だが前世で18歳といえば、まだ子どもの範疇。しかしセオドアは王子という立場としてしなくてはいけない勉強や、捕縛隊などと共に街の見回りと忙しく働いているのだ。
 前世の自分の毎日を思い出すとなんともいたたまれなくなってくる・・・・・・。

 とかなんとか考えていると、小さな声で『やった』と喜びの言葉が聞こえた。見るとセオドアが見事5枚目の模様を光らせている。
 達成感に満ちた顔をして袖で額の汗を拭っているところが、王族らしからぬと言えばそうだが、なんとも無防備でそんな様子を見せてくれることに嬉しい気持ちになる。
 目で『次のをくれ』という催促を受けるが、セオドアは汗も引いていないし、呼吸も少し乱れている。


「続けてやると身体に障りますよ。少し休憩が必要です」

 断固としてそう言うと、渋々座り直して椅子の背に凭れかかった。
 大きく息を吐き、目を閉じて全身の力を抜いているようで、眉間の皺もなくなっている。
 初めて見る安らかな顔に、普段の心労が窺われた。


 三分くらい経つと、スッと目を開けてこちらへと催促の視線を向ける。休憩終わるの早っ!!と思ったが、彼も練習にとれる時間が少ないのだろうからと思い、次の練習布を渡した。

 6枚目からは、送る魔力量がかなり増える。セオドアは少ない魔力量の操作は得意なことから、今までの5枚はいわば準備運動ぐらいで弱い方から数えての5枚だ。次の6枚目からは少し中を飛ばして選んでいるから先ほどよりもだいぶ魔力を込めないと模様は反応しない。
 そのことを事前に伝え、俺はまた椅子に座って練習を眺めることにする。

 さすがに先ほど並とは言えず、何度も何度も試すが模様はまったく反応を見せない。一応練習布には込める魔力量が記されているが、それをちょうど出すのは難しい。それに魔力量が多いときは最初からある程度の魔力を流さないと、微妙な量を出し続けても光らないし魔力も無駄に消費してしまう。
 セオドアは何度やっても成果が出ず、少しイラついてきたようだ。

 こっえぇ~・・・・・・。


「一度私がやってみましょうか」

 あまりにも空気が悪くなったのでこちらから打開策を提案し、怒りを静めるためにすばやく動く。声をかけると少し気を取り直し落ち着いたらしく、手伝いを頼まれた。
 そっと手をセオドアの手に重ねる。俺の方が大人であるため、セオドアの手の1.5倍くらいは大きい。辛うじて包める大きさだ。肌が重なるとセオドアの身体がピクッと反応する。

 え、何その気になる反応・・・・・・。


 俺も一瞬で気を取り直し、セオドアを通して練習布に魔力を通す。
 小さな量の微妙な調節ではないので、最初から少し多めを想定して勢いよく魔力を流す。
 すると一発で模様がほわんと光りだした。よっしゃ一発ぅ!と内心はしゃぎながらも、あくまで余裕を装って手を離す。『こんな感じです。わかりましたか?』みたいな感じで。

 手を離しても返答がなく、おやと思いセオドアに目を向けると彼は顔を俯かせていた。
 それに今俺が手を重ねていた方の腕をもう片方の手で掴んでプルプルと震わせている。



 え・・・・・・俺に触られたのそんなに嫌だった・・・・・・!?どうやって消毒しようか考えていたりする・・・?
 もしそうだったら君もショックかもしれないけど、俺も相当ショックだよ!!


「あの、どうしたのですか・・・・・・っ!!」

 ふいと顔を覗くと水分で潤っている瑞々しい唇を歯で噛みしめ、顔を真っ赤にさせて何かに絶えているような悩ましげな顔をしている。

 うわっ、えっろ!! 

 と思った瞬間、俺の中心に急激に熱が集まるのを感じた。

 ほぁっ!?何何何、俺生徒に欲情しちゃうの!!?






「ぁっぃ・・・・・・」


 小さな声で暑さを訴えられる。いつもの姿からは想像できないほど弱々しい声だ。俺は中心に溜まる熱に、頭は冷静でいようと努めた。
 いつも小さな量しか操作をしていない身体でいきなり大きな量を巡らすと、血管が膨張し体温が上がって一種の興奮状態に陥ることもあると聞く。
 きっとセオドアは今その状態なのだろう。この場合、Hな対処法で熱を納めるという方法もあるが、ひたすら熱が収まるまで絶えれば自然と熱が引いていく。


 正直、俺はこのまま部屋から出ていって彼を一人にするのがいいだろう。だが・・・・・・エロい。
 そのことが頭を侵食してきて、俺の理性が風前の灯火状態になっている。危ない!生徒を食ってしまう!それだけは阻止しなければならない。だがっだがっ!!もう俺のオレはああなっている訳で、今この状態で部屋から出て誰かに会ったとしたらそうなったで俺の立場が危ない。

 部屋から出ようかそれとも留まろうかと背後で蹲っているセオドアを振り返ったり、目の前のドアの取っ手を睨んだりと先ほどから頭を振るのが忙しい。
 熱にどうしていいかわからず弱っているセオドアに、とりあえず熱さをどうにかしようと試みる。


「セオドア君、まず上着を脱ぎましょう。汗がすごいです」

 そう言うとのろのろと制服を脱ごうとするが、指先が震えてうまくボタンが外せない様だった。
 近づくのは躊躇われたが、そうも言ってられず上から順にあまり身体に触れないようにしてボタンを外していった。
 脱がした上着は空いている椅子の背にかけ、シワがつかないようにする。それでも汗は引かず、俺はポケットからハンカチを取り出し、そっと彼の額に当てた。
 身体が揺れて警戒の目を向けられたが、セオドアの手を取ってハンカチに添え、手を離して『それで汗を拭ってください』と伝えると明らかにほっとして『すみません』と言って受け取った。



 部屋の中がめちゃエロいフェロモンで満たされている。でも今の明らかに『この先生は変なことをしない』という反応を見ると下心を少しでも持っている自分に罪悪感を感じる。このポンコツ教師めっ!
 おそらく初めてのことで混乱しており、見たところ勃起もしているので公言しにくいのだと思われる。だから俺が今下手に部屋を出ていっても逆に『人を呼ばれたら』と不安を感じさせてしまうかもしれない。
 今はそんなことを考える余裕もないだろうが。

 その余裕のなさで、俺が勃起していることにも気づかないでほしいです・・・・・・


 セオドアが上を向いて首に流れる汗を拭っている。突き出された真っ赤な唇と、無防備な首元にごくりと唾を飲み込む。下半身が辛そうだが、俺がいるからか左手は太股の付け根辺りで強く握り締められている。

 このまま彼が情欲に絶えている姿を凝視していれば、もしかしたら手を出してしまうかもしれない。どうしたのだろう。今日の俺は、なんだかすごく理性の働きが弱い。いつもだったらきっともっと早く対処してどうにかできただろうに・・・・・・。それに生徒に欲情なんか、まずしないだろう。

 ふと壁を見ると、大きな本棚の影になって今まで見えなかったが『生徒会準備室』と書いてあるドアがあるのを見つけた。





 ここに入って各自自分を慰めればいいんじゃねぇえええ?なんで今まで黙ってたのアナタ!!困ってたんだから声かけてよ!!
 と、ドアに向かって脳内でツッこんでも無機物である相手は沈黙している。



「私は準備室にいますね。落ち着いたら声をかけてください」

 必死に平静に保ち、とにかく準備室に入って一発抜いていこう!!と、頭は抜くことでいっぱいになりながらドアに近づくと、背後から辛そうな声が聞こえてきた。

「せんせ・・・・・・、そこ、鍵・・・・・・俺が持っていま、す・・・・・・」

 そーだったーー。鍵いるよねー。くるりと振り返って再びセオドアの元へ。

 近づくと、震えた手でポケットをまさぐり生徒会室のものと共に括られた小さな鍵を取り出して渡される。
 あ-・・・首が汗で湿ってるのすげぇセクシーだな。しょっぱそう・・・。舐めたい。んん!!てかシャツが透けて乳首がうっすら・・・・・・しかも勃ってる!!?

 下半身がビンッ!と反応し態度に出てしまいそうになる。やばいやばい・・・早く鍵を受け取って準備室に駆け込まないと・・・・・・自分の生徒を・・・・・・




『クフフッ。今こそ闇の魔法を使ってみればいいんじゃねーの?』

 その時、頭の中で誘惑する声が聞こえてきて、気がつくと俺は自身の手をセオドアに向けて翳していた。








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