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5.商売敵からのスパイ、スルギの巻
しおりを挟む突然だが、俺の名前はスルギだ。夜の店、『carrot & stick』で働く人気No.2のキャストである。No.1ではないが、すぐになるつもりでいる。クソっ、No.1の奴め・・・・・・。裏では腹黒な癖して客の前では子猫のような顔をしやがる。そんな顔の皮が厚い奴に惚れ込む客も客だ。俺がすぐに売上を抜いて、店の頂点になってやる。
そう、俺は人の上に立っていないと気が済まないタイプなのだ。
毎夜毎夜やってくる変態どもに向かって鞭を振りかざし、着々とNo.1との距離を縮めていたとき、すぐ近くにある商売敵の店、『desire』に大型新人がやってきたという話を聞いた。商売敵と言っても部類が異なるため競合相手にはならないのだが、そこへ行ってみたという客がメロメロになって話してきたものだから、非常に面白くない心境になった。だからその日は、いつもよりも力増し増しで鞭を振り下ろした。その翌日頃から、店の中でもその新人の話を聞くようになった。
それからしばらく立っても、彼の、いや『desire』の噂は絶えなかった。なんでもその新人は、ここいらで見ることのできないほどの美男子なのだとか。それだけでも信じられない話だったが、それ以上に、そいつ(ナナミとかいうらしい)の客や仲間に対する態度がそれはもう優しく、見ているだけで拝みたくなるほどなのだとか。
信じられるかそんなこと。俺は即座に否定した。見目の良い=心が汚い奴なのだ。絶対にそうだ。客がどんなに醜い奴でも、希望通りの接客をしてくれるなど、そんなことあるはずない。
だったら、俺がそいつを指名したら・・・・・・?
俺は紫のメッシュの入った黒髪で、目が大きく猫のようだとよく言われる。完全な不細工顔だ。身長はそんなに高くなく、それがコンプレックスでいつも底上げのブーツを履いている。店の中でトップクラスに入るくらい見目が悪く、それ以外の要素もパッとしない俺にも、他の客と同じように接することができるのか、興味が沸いた。嫌な好奇心だ。自分を傷つける好奇心。
だが、そんなことをする必要はないかもしれない。わざわざ大枚をはたいて自分で検証しなくても、共に店で働くキャストたちにナナミという奴のことを聞けば、意外にも簡単に裏の顔が知れるのではないかと思ったのだ。
『そうしたら、奴の悪い噂を広めてやる!』
そして『desire』の評判ごと落としてやるのだ!同じ業界の人間として、周りからちやほやされているナナミを許せなかった。
『そんな、外面だけでやっていける職業じゃねーんだよ!俺がその化けの皮、剥いでやるぜ!!』
そう思い、スルギは鞭の持ち手を強く握りしめた。
注:『carrot & stick』はSMの店です
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