異世界ホストNo.1

狼蝶

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33.三人でお出かけ!編~お小遣いでコンを釣る!~

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「ん・・・・・・、」
 閉じている瞼が眩しさに開く。隙間なく閉まったカーテンの隙間から朝日が漏れ出ており、今日は青天であることがわかった。それがわかると、寝起きの気分が一気に上がる。
ベッドの上でしばらくぼぅっとしていると、外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。ピチュピチュと可愛らしい声で、二、三匹が会話しているようだ。
 なんて心地よい朝なんだ!
 俺は寝っ転がりながら両腕を伸ばして伸びをし、起き上がってカーテンを開けた。ついでに窓も少し開けると爽やかな風が入ってきて、部屋の空気を循環させてくれる。
 今日は最高のお出かけ日和だ!!
 俺は窓の前でもう一度『んんー!』と伸びをすると、ベッドを整え着替えを済ませ、朝食を取りに階下へと降りていった。

「ユキくーん、用意できた?」
「はっ、はい!」
 俺の呼びかけに、キッチンで後片付けを行っていたユキちゃんがいそいそと姿を現す。他の見習いの子に指摘され付けていた前掛けを取ると、襟元にレースの付いたお洒落なシャツが彼にとても似合っていた。ユキちゃんのお洒落な私服姿なんて、めっちゃレア。しかもすんごくかわいいし!
 俺は思わず鼻の下を伸ばしてしまいそうになったのを堪え、なおかつ『きゃわいい!』などと叫びそうになった口の周りの筋肉に力を込めた。
「ええ~!ナナミくん出かけるのぉ?いいなぁ~、僕も一緒に行きたいー」
 恥ずかしそうに歩いてくるユキちゃんに照れていると、俺たちの様子を見ていたモモが頬を膨らませながらそう言ってきた。年齢的にはユキちゃんよりも上なのだが、モモはとにかく言動が子どもっぽい。この店の中で断トツで幼いといえる。そこが見た目と相まって甘やかしたくなるのだが。
 まぁそれは置いておいて、モモがちょこちょこと歩いてきて俺の服の裾を引っ張ってくる。因みに今日はちゃんとした服装だ。こないだのローブは暑かった・・・・・・。
「ユキだけずるい!僕も行きたい・・・」
「ん゛っ、い、いいよ」
 そんな上目遣いで見ないでくれっ!目に毒だ!と若干目を逸らしながら返事をする。しかしモモがぱぁあっと顔を輝かせた直後――
「モモ、君は今日、掃除当番だろう?」
 背後に音もなく立っていた店長の低い声に、俺もモモもヒェッと声を漏らし押し黙った。結局モモは、『自分だけ逃げようとすんなー!』とカシアに引っ張られて行き、食糧倉庫に消えていった。
 『ぼくもい゛き゛た゛い゛――!!』という悲鳴を聞きながら、店長はやれやれと首を振る。今までのやり取りを見ていたユキちゃんは苦笑しており、笑ったら悪いと思ったのかすぐに申し訳なさそうな表情になった。
「店長、これ――」
 すると、向こうの方から誰かが店長に声をかけてきた。覗き込むようにして店長の後ろを見ると、コンが掃除用の道具を手にそこに立っている。俺と目が合うと、あからさまにゲッという顔をされた。
「ああ、ありがとう。ご苦労様」
 こちらをちらちらと見ながら道具を店長に手渡すコンを見て、俺の頭に一つのアイデアが浮かんだ。
「店長、今日コンの仕事って他にありますか?」
思い立ったがなんとやら、俺はすぐさま店長に声をかけた。コンは俺の言葉にギクリ身体を固まらせると、縋るような目で店長を見上げた。それに気づいていない店長がにっこりと笑って答える。
「ううん、ないよ。朝ちょっとだけ掃除をお願いしただけだから」
「へぇ~、そうなんですかぁ」
 俺はにやり、とわかりやすく笑みを作った。それに、コンが足早に逃げようとする。俺はコンの細い肩を掴むと、自分の方へと引き寄せた。軽い身体は弱い力でも簡単に動かされてしまう。
「じゃあ少しだけコン借りてもいいですか?ちょっと遠出に連れて行こうかと」
 『はなせっ!』とジタバタするコンを尻目に店長に尋ねてみると、彼は名案だ!というように目をキラキラとさせて肯定した。
「因みに場所は――」
「いいんじゃない?コン、よかったね」
 行き先を内緒話のように伝えると、さらに店長の顔が明るくなった。店長がコンに目を合わせて微笑む。
「じゃあ、三人とも気をつけてね。行ってらっしゃい」
「てんちょう・・・・・・」
 スキップをしながら店の奥へと消えていった店長に、コンがまるで売られた子牛のような雰囲気を醸し出す。なんか俺がめっちゃ悪人みたいな感じだな。
 突然俺の勝手で予定を変更してしまったことを、ずっと待っていてくれたユキちゃんに謝ると、少しだけ困惑していたものの何か考えがあることを察してくれたようで、おずおずと了承をしてくれた。しかし態度ではコンに怯えているのがわかった。
「ってか、俺行くって決めてねぇしっ!勝手に決めんな!離せっ!」
 全く食べてないことから骨のような腕を振って俺から逃れようとするコン。俺は仕方ないなと溜息を吐いて、彼の形の良い耳に顔を寄せた。
「お小遣い、あげるから」
 俺は切り札である必殺ワードを炸裂させた。これを言えばきっと大人しく着いてきてくれるだろう、と思ったのだ。予想通り、コンは俺の発言にわかりやすく食いつき、真剣な目を向けてきた。
「金貨か?」
 それはちょっと・・・・・・と苦笑したい衝動に駆られたが、やる気を出してもらいたかったため不適な笑みを努めて『さぁね、』とはぐらかす。
 そうこうしている内に外からチリン、と美しい鈴の音が聞こえてきた。あらかじめ頼んでおいた個人用馬車が、店の前に到着したらしい。俺はコンの頭に手を置いて、二人に声を投げかけた。
「さ、行こうか」
 何か物語の第二章辺りが始まりそうな雰囲気を漂わせたが、直後コンに手をはたき落とされ、二人に置いて行かれた俺って悲しい・・・・・・。

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