異世界ホストNo.1

狼蝶

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36.三人でお出かけ!編4~『守ります』宣言(ユキちゃんのご両親にご挨拶3)~

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「ユキが、お世話になっております」
「い、いえ・・・、お世話になっているのは俺の方です」
 改まって頭を下げられ、俺は焦って自分も頭を下げる。
 ユリたんのお陰で誤解は解け、俺たちはユキちゃんの家族に歓迎されたのだった。一通りの作業を終えた後、他の倉庫で仕事をしていたもう一人の父親と合流し、あの大きな屋敷に招かれたのだ。
 家は木材の簡単な造りだが、日本風というわけでもない。しかしなんとなく懐かしい気持ちにさせられた。客間らしき部屋に案内され、どうぞと促される。そしてみんなが椅子に座ると、冒頭のようにご両親が頭を下げてきたのだ。もう一人の父親は、髪はモモよりも薄いピンク色で、肩甲骨辺りまでの三つ編みを下げている。目はユキちゃんの髪色と同じスノーホワイトで、繊細さを感じさせる。が、顔立ちはとても漢らしい。因みに最初に会ったのがミュエルさんで、三つ編みしているのがカイネさんだ。そしてユキちゃんの弟たちが上から順にレン、ノイ、ユリという。ヤベぇくらいの美人家族だ。
 隣の部屋からは子ども三人が何か作業をしているが、ちらちらと視線を感じ恥ずかしい気持ちになる。俺はそれを隠すように、出されたお茶を一口啜った。
「どうですか?その、ユキは、ちゃんとやってますか・・・・・・?」
「ちょっと、父さん」
 心配そうに尋ねてくるカイネさんに、ユキちゃんがやめてよと制止する。それに頷きながらも、ご両親の目には真剣な色が見えた。同じ地域内といえども、馬車でかなりの時間がかかるほどの距離があり、しかもユキちゃんが務めているのは風俗街にあるバリバリ風俗の店だ。きっと俺がそこのキャストであることも知っているのだろう。そりゃあ心配するに決まっている。きっと『desire』で働くことを決めたのはユキちゃんだろうし、『desire』は客も店のみんなもすごく良い人ばかりで安心できる店だ。しかし、目の届かない離れた場所に愛する子どもが働いているという状態は、やはり親にとったら気が気ではないのだと思う。しかも、この世界では俺が元々いたところと違って、携帯電話などの電子機器も発達しておらず、やり取りと言ったら手紙くらいしか手段がない。この家族がどれくらいの頻度で手紙のやり取りをしていうのかはわからないが、頼りだけではなかなかお互いの状態を把握することができないだろう。
 俺は、彼らの心配を除けるように、にっこりと微笑んだ。
「ユキくんにお世話になっているっていうのは、本当です。彼は店の中の誰よりも早く起きて、みんなが着る服の準備や朝食の支度、そしてその後片付けから開店後は裏方の仕事まで、ほんっとうに毎日頑張っています。そのお陰で俺たち、安心してお客様たちと過ごすことができているんです。クレーム対応もいち早く熟しますし、常に店全体を見渡していて、何かトラブルが起きているとすぐに駆けつけてくれて・・・・・・だから、みんなもすごく助けられてます」
 俺が店でのユキちゃんの様子を語ると、ユキちゃんはわかりやすく顔を赤くして俯いた。耳まで真っ赤なのが見えて、内心ニヤついてしまう。だが意地悪をしているわけではなく、普段思っていることをそのまま述べているだけであるため、仕方ない。本当に助けられているし、感謝しているのだから。
「来年からその、お客様との関わりが増えるって聞いて・・・・・・心配で心配で」
「っ、それ誰から聞いたの!?僕そんなこと書いてない!」
「ノエルからだよ」
 どうやらユキちゃんは、両親に昇格のことを伝えていなかったらしい。ノエルとは見習いの一人だから、その子がカイネさんたちに情報漏洩したのだろう。
「もう、いいんだよ?ヨヨギさんのお陰で米の認知度も高まってきたし、生活も大分楽になってきたんだ。だからもう、無理して働かなくても――
「無理してないっ!自分が働きたいから働いてるんだっ!!」
「でも仕送りとか・・・・・・」
「僕がしたくてしてるんだからっ、父さんたちには関係ないでしょっ!!」
「関係ある!!大事な子どもがどんな目に遭っているのかも知らず、苦労して得た金を送ってきてくれているのかということを考えると、辛いんだよ!ユキが大事だから!!」
「そうだよ、ユキ・・・・・・」
 むむむ。なんか、場面がいきなり家族の大事な修羅場になってしまっている。俺とコン、明らかに場違いかつ邪魔者のような気がしなくもない。横を見ると、コンは一人だけ静かな態度で壁に飾られた装飾品などに目を向けている。俺も何か他のところに意識を向けておいたほうが良いのだろうか・・・などと考えていると、隣でユキちゃんが拳をぎゅっと握っているのが目に入った。隣に座る俺にだけ聞こえのだが、ユキちゃんが『ほんとに、僕が働きたくて働いてるのに・・・』とぼそりと零す。悔しそうに唇が噛みしめられ、白く変色していた。
 沈黙が耳に痛い。すっごく嫌な時間。別に直接的に俺が悪いわけじゃないんだけど、なんとなく叱られているような。みんな無言になってしまって、静寂がじわじわと汗を滲ませてくる。手の平が手汗でべったべただ。
 俺は緊張で心臓が飛び出そうだったが、ユキちゃんみたく拳を強く握り、一度唾を飲み込み乾く唇を一舐めして口を開いた。
「あの・・・・・・」
 声を漏らすと、一同の視線が俺に集中する。ぴゃああ緊張するぅ!!だが俺も言いたいことは言っとこう。
「ユキくんのこと大事に思われるご両親のお気持ちも理解できます。そして、ユキくんの気持ちも・・・・・・。俺は『desire』で働く仲間としての立場でしかものを言えませんが、ユキくんが昇格して客との関わりが増えたときには・・・・・・俺が絶対ユキくんのこと守りますから!絶対に変な奴は近づけないし、無理な要求も撥ね除けます!!そこは、安心してください!!」
 言い切った。が、めちゃくちゃ恥ずかしい。何宣言しちゃってんの?と、言い終わってから客観視して思ったのだ。え、格好つけるのも甚だしくね?と。
 あんなにドラマ宜しく熱い台詞を吐いたというのに、俺は一気に赤くなったであろう顔を俯かせると、しらけた皆の顔を見たくなくて目も瞑ってしまった。離れたところからは、子どもたちのヒソヒソ話が聞こえてくる。何を言っているか詳細は聞き取れないが、きっと『今の見た?痛すぎるよね!?』みたいなことを言っているに違いない。恥ずかちい!
 うっすらと目を開き左隣に座るコンを覗くと、俺と目が合った彼はその瞬間フッと小馬鹿にしたように笑った。
 ~~~!!わかるっ!?この『~~』という波線でしか表現できないワナワナ感。恥ずかしくて、馬鹿にされて悔しくて、言葉で表現できないような感情。俺は口から魂を吐き出し、死んだ目で燃え尽きることにした。
 すると正面から、鼻で笑うような息音が聞こえてきた。ヤバい。ご両親にも笑われるのか・・・・・・。勇気を振り絞ってした発言だったが、予想以上の反応に俺のメンタルライフはゼロを突き抜けマイナスへと向かっていく。
 もう笑ってくださいな。ええ、ええ、いいですよー・・・っと自暴自棄になっていると、鼻を啜る音が聞こえた、
「うぅ・・・・・・、ヨヨギさん、かっこぃい・・・・・・」
 ぐすん、と鼻を啜り、ミュエルさんが掠れた声を出す。隣ではユキちゃんも『ナナミさん・・・・・・』と言って涙の溜まった目で見つめてきていた。
「ヨヨギさん、ユキのこと・・・・・・宜しくお願いします」
 同じように涙目になっていたカイネさんが、そう言って深く深く頭を下げてきた。
 あれ、なんか結婚の挨拶みたいになってない?

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