異世界ホストNo.1

狼蝶

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35.三人でお出かけ!編3~ユキちゃんのご両親にご挨拶2~

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 馬小屋からかなり距離があり、歩いている間に汗が額から流れてくる。めちゃ暑い。地味に四季のあるこの世界では今は初夏あたりで、太陽の日差しがとにかく汗をかかせる。かと思えば朝は涼しいのだから、一体どんな服装をしていれば良いのかわからん。
 大きな倉庫と思われる建物をいくつも通り過ぎると、植物に囲まれた屋敷がどどんと現れた。俺の感覚で言うと倉庫一つでも家やん・・・ってくらいなのに、目の前に構えている屋敷の大きなこと・・・・・・。
「あっ、ユキにいちゃん!」
「ユリ!久しぶり!」
 家の前でユキちゃんよりもかなり幼い子どもが稲の束を抱えて何か作業をしており、俺たちに気づくと破顔し駆け寄ってきた。持っていた稲を置いて走ってきて、どん!とユキちゃんの腰に抱きつく。かわいい。ユキちゃんと同じ雪みたいな薄い水色の髪を、短めのおかっぱに切っていて、それが幼さを助長している。ほっぺたはピンク色で、まるで雪の妖精さんだわ。ポケットに入れて連れて帰りてぇ。
「おにいさん、だぁれ?」
 う゛っ!!抱きついた兄の腰から顔を上げ、澄み切ったまんまるな目で見上げられ、俺は心臓がキューピットの矢で射貫かれたような衝撃を受ける。1000%のダメージ、受けたり・・・。
 むちっとしたお手手はユキちゃんの服をぎゅっと掴み、もじもじと顔を隠したり出したりしている。警戒されていないようでほっとしたが、その可愛らしさに悶えたくなる。
「ユキくんと一緒にお仕事している、“ナナミ”っていいます。ユリくん、お手伝いしていて偉いね」
「っ、えへへ・・・・・・」
 ぎゅん゛。
 照れたように笑う顔がもう天使。背中に小さな羽根が見えますわ。
「そっちのおにいさんは?おなまえ、なんていうの?」
「・・・・・・」
 ユリちゃんがそのままの姿勢で今度はコンに尋ねる。しかしコンはいつも通りツンとした態度で、聞かれたにも関わらずガン無視していた。天使を悲しませたくなかったのでコンの耳元で『お小遣い・・・』と囁くと、チッと舌打ちを一つ零した後に不機嫌さMAXで小さく名乗った。
「ナナミおにいちゃんに、コンおにいちゃん!はやくみんなのとこいこ!こっち!」
 ぴゃわわ・・・・・・ちいちゃい手にきゅっと握られ、引っ張られる。早く早くと急かす様子がめたくそにきゃわいい。誰か可愛いの他の言い方教えてくれ。とにかく知的なやつ。なんか俺が馬鹿みたいになってるから・・・。
「ぱぱー、ユキおにいちゃんがかえってきたよー」
 ユリちゃんに手を引かれる俺とコンを、ユキちゃんが慌てて追いかけてくる。しかし、折角案内してくれようとしていたので、俺は目配せして大丈夫と伝えた。同じく手を引かれているコンは、元気いっぱいな幼児を相手にやや困惑しているようで、眉間に皺はあるものの珍しい顔をしていた。
「ユキが・・・・・・?」
「ユキ兄ちゃん、帰ってきたの?」
「え、ユキ兄ちゃん?」
「みんな、ただいま・・・・・・」
 家の前を通り過ぎて歩き続け、比較的新しい倉庫の前に到着すると、そこには作業をしている三人の背中があった。
 ユリちゃんの声に反応し、三人が一斉にこちらへ振り返る。
 次の瞬間、俺の心臓と思考が停止したかと思った。いや、実際思考の方は一度停止しただろう。なんてったって、振り返った三人は美顔、美顔、美顔。
 ここは楽園か・・・・・・?いや『desire』も楽園だけども。
 俺が魂を飛ばしている間に、三人の中でユキちゃんよりも若い男の子二人がユリたん(俺は天使をそう呼ぶと決めた)と同じようにユキちゃんに抱きつく。
「あの、貴方は一体・・・・・・。うちに何かご用ですか?」
 よほど長い間顔を合わせていなかったのか、親と思われる男性を含め三人共俺らの存在に気づかなかった。しかしやや落ち着いたところで『誰?』となったようで、男性に不安げに見つめられる。
 身長は俺よりは低いが彼らの中では一番高く、髪はユキちゃんと同じで薄水色。毛先が綺麗に揃ったボブショートだ。目はくりっとしていてレモネードのような色が揺らめいているのがすごく綺麗だと思った。要するに、美人。そしてその美人に警戒されている、俺。
「うわっ、兄ちゃん見て!すっごいかっこいい人――
「しっ!目を合わせちゃダメだっ!」
 これ、完全に勘違いされているよな?なんか俺が取り立てに来てる人みたいな扱いをされているような・・・・・・。
「ユリ、その人から離れなさい」
「ユリ、知らない人に近づいちゃダメだよ。早くこっち来て」
 むちゃくちゃ拒絶されている。俺の手を握るユリたんは、みんなの顔と態度に首を傾げ、その後にっこりと笑って皆に向き直った。
「しらないひとじゃないよ!ナナミおにいちゃんとコンおにいちゃんは、ユキにいちゃんといっしょにはたらいてるひとだよ!」
「「「へ・・・・・・?」」」

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