異世界ホストNo.1

狼蝶

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47.35.5話:かっこいいおにいさん(ユリ視点)

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 ユリは、その日もいつもと同じように一生懸命仕事に励んでいた。ユリ自身、まだ幼児の域に入る歳であり、都市の子どもであったならば学校教育に従事している年頃だろう。しかし彼らの住む地域では十分な教育制度はないに等しく、生まれてくる子どもは皆、歩けるようになってからすぐ家業の手伝いをすることが自然となっていた。
 だから、ユリも特に疑問を持つことなく、両親の仕事を手伝っていた。そんな生活に不満もなかった。
 大好きな両親と兄たちとおしゃべりをしながらの作業。頑張ったら褒めてもらえ、頭も撫でて貰える。質素ながら、自分たちで作ったものが並べられる食卓は、いつも賑やかで幸せに満ちていた。ただ、都市部の行政人――自分たちとは容貌が異なる――が税の徴収のため時折家を訪れてくる時には、その身に収めきれないほどの恐ろしさと不安を抱いていた。まるで同じ空気を吸いたくないかのように口元を大きな布で覆い、心底嫌そうな目で見下してくるのだ。
 役人の訪問は、レンとノイも苦手であった。自分や自分の家族を見下した目で見られることは、なんとも言えない悲しくてやるせなくて悔しい気持ちにさせる。
 ユリたちの住む地域にはほとんど彼らのような顔の者が多かったため、役人のような顔の者のイメージが段々と固定化していった。しかしまだ物心のつき始めたばかりのユリには、レンやノイほど顔の良い者への嫌悪感は浅いものであった。
 突然帰ってきた、滅多に帰ってこない一番上の兄――ユキの帰還に、ユリは大喜びで駆け出した。その時はユキしか目に入っておらず、辛うじて手に持っていた商品は丁寧に床板に置いたが、頭の中はユキでいっぱいだった。
 大好きな兄に抱きついて、一呼吸。興奮でドキドキしていた胸が収まった後に顔を上げると、そこには今まで見たことないくらい綺麗な人が立っていた。優しげな目に、また胸がどきん、と高鳴る。正体が知りたくてだぁれ?と尋ねながらも、直視するのがなんとなく恥ずかしくて兄の身体に隠れてしまう。
 すると綺麗な人はユリの真ん前でしゃがむと、目を合わせてくれてにこっと笑った。
「ユキくんと一緒にお仕事している、“ナナミ”っていいます。ユリくん、お手伝いしていて偉いね」
 綺麗な人の綺麗な笑顔。それに褒められ、ユリは恥ずかしさを感じながらも誇らしくなった。
「っ、えへへ・・・・・・」
 思わず破顔すると、ナナミはふにゃりとした優しげな顔になり、それを見ていたユキも嬉しそうに微笑む。
 ユリはもう一人のツンとした人――コンとナナミの手を引っ張り、何やら騒いでいるのも聞こえないほど夢中で、家族の元に連れて行こうと走った。

 ユリが彼らを連れて、家族が作業をしている場所まで連れて行くと、みんなは突然現れたユキに驚きを露わにした。それほどまでに、ユキは実家に帰っていなかったのだ。同じ領内に住んでいながら帰ってくるのは年に一度程度。それに仕事も忙しいのだろうが、頼りも碌に送ってこないのだった。
 みんなが一頻りユキに声をかけた後、ふと目線がナナミの方へ向かう。そこには、見覚えのない、あるはずもない人物が二人。一人は自分たちと同じように醜い子ども、もう一人は目を合わせるのも躊躇われるほどの麗人だった。
 そんな存在に、ミュエルたちは警戒した。きっとこの男は役人で、税の取り立てに来たのだと。
 ミュエルたちは収めるべき税はきちんと毎回収めている。しかし時折私腹を肥やそうとしている役人に、理不尽にも余分に請求される時があるのだった。それ以外にも、何かと文句をつけて罰金を取ろうとしてくる。よって見目の良い者は警戒する対象であった。
 ノイは呑気なことに彼の美しさに驚きの声を上げていたが、警戒心を抱いたレンはすぐに目を合わさせないように弟の顔を手で覆った。前にノイは、家に訪れた役人と目が合い、それだけですごい剣幕で怒鳴られたことがあるのだ。あの時のことで懲りてはいないのだろうかと、レンはやきもきした。
 なんとその男はユリの手を掴んでおり、まるで人質のようにしている。そう目に映ったミュエルとレンは、低い声でユリに彼から離れるよう呼びかけた。
 家族の予想外の反応に、ユリはどうして?と疑問を浮かばせる。どうしてそんなに怖い目でナナミを見るのだろうかと思い、舌足らずながらも頑張ってみんなにナナミのことを教える。三人はユリの話を聞き、ユリの表情を見、それから確かに自分たちを見ても嫌悪感を丸出しにするどころか真っ赤な顔で会釈をしてくる彼に、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった。むしろ、反対側に立つ自分たちと同じ部類の少年の方が、愛想が悪いことにも気づいた。

 晴れてナナミへの誤解は解け、ミュエルたちはナナミとコンを家の中へ招待した。そこで合流したカイネはミュエルたち同様ナナミに警戒したが、彼らの説明によってすぐに誤解は解かれたのだった。

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