異世界ホストNo.1

狼蝶

文字の大きさ
53 / 73

53.ついにその日が・・・

しおりを挟む

「ナナミ、俺、何かの病気なのかもしれない・・・」
 そう言って、目に涙を浮かべながら白くとろっとしたものが付いた下着を手にしたコンを見て、ナナミは血の気が引いていくような気がした。
 ついに来てしまったのだ、この日が。


『ついにその日が・・・!~コンからの『××って、何?』~』


 とある休日の日。朝食を終えて部屋で簡単にベッドメイキングをしていると、ドアが遠慮深げにノックされた。返事をすると暗い顔をしたコンがゆっくりと入ってきて、ドアを閉めると今にも泣きそうな顔で冒頭の台詞を発したのだった。
「最初は寝てる間にやっちまったのかなって思ったんだけど、なんか白っぽいし・・・・どうしよう、俺、死んじゃったりするのかな!?」
 いつも強気なコンが珍しく泣きそうな顔をしている。そりゃそうだ。突然自分の身体に異変が起こったら、不安で頭が真っ白になってしまうだろう。もしかしたら、自分は得体の知れない病気に罹っていて、もうすぐ死んでしまうのではないか・・・とか、とにかく色んな不安が立ち上ってきて、きっと怖いはずだ。
「ん~~と、ね・・・・・・」
 何からどう話したら良いのか判断がつかない。考えがまとまらず言い淀んでいると、コンが益々泣きそうな表情になった。
「こっち座って話そうか。大丈夫、コンは病気じゃないから」
 まずは安心させることが重要だ。そう思ってナナミは今さっき整えたばかりのベッドの上に座るよう促した。おずおずと近づき腰を下ろすコン。
 ナナミは隣に腰を下ろすと、さて何から説明しようかと思案した。
「まずはね、その、白いのなんだけど・・・・・・。それは『精液』って言って、コンくらいの歳になると、みんな出るものなんだ」
「『せいえき』・・・・・・、みんな・・・・・・?じゃあ、ナナミも・・・・・・?」
「うん、そうだよ」
 本当に、初めて聞くことなのだろう。言い慣れない様子で首を傾げながら確認してくるコンに、ナナミは頷いて返事をする。『起きたときにこうなってたんだよね?』と下着を指しながら問うと、コンは気まずげに頷いた。
「どんな夢見たか、覚えてる?」
 夢精について説明しようと話題を振ると、問われたコンがじわじわと顔を赤くした。きっと夢を思い出しているのだろう。
「ぇっと・・・・・・、はずかしい、ゆめ・・・・・・」
 真っ赤っ赤になってしまった顔を俯かせ、小さな声でぽそりと言う。
「ごめんごめんっ、言わせちゃって悪かった・・・」
 下を向いてしまったコンの頭を宥めるように撫でる。コンは少しだけ頬を膨らませて上目遣いに睨んできた。
「ごめんって・・・。そのな、えっちっていうのかな、そういう気持ちになったりすると、ココが反応して精液が出るんだ。それが、寝ている間に起きたってことなんだよ」
 わかりやすいかな・・・?途中で何を言っているのかわからなくなってきたが、果たして今の説明で理解ができただろうか。いや、できないよな・・・と自分の中で唸る。もうここは、店長に任せようか・・・などと考えていると、コンが服を引いてきた。
 コンに視線を戻すと、頬を赤く染めたままの彼の真剣な瞳とかち合う。
「ナナミも・・・、ナナミもえっちなこと思うと、精液出るの・・・?」
「う、うん・・・、そうだよ・・・・・・」
 なんだか、ダイレクトに聞かれると恥ずかしくなってくる。決して恥ずかしいことではないし、反対にすごく大事なことなのに、どうしてだろうか。自分の中にどこか後ろめたい部分があるのだろうか。いくら考えても、わからなかった。しかし純粋に、ただ身体の仕組みを知りたくて質問してくるコンに対して恥ずかしがることに罪悪感を抱く。
「じゃ、じゃあ・・・、こうなっちゃうのも病気じゃない・・・?」
 コンが指差す方に視線を動かしていくと、彼の股間が膨らみを作っていた。それに一瞬ギョッとしてしまう。いつからだったのか、全く気づかなかった。もしかしたら、夢のことを思い出させてしまったからかもしれない。だったら、自分にも責任があるな、とナナミは唇を噛みしめた。
「うん、病気じゃないよ。さっきココが反応するって言ったけど、“反応”ってこうなることなんだ。こうなったときは、自慰っていって自分の手で擦ったりすると、精液が出て収まるんだよ」
 手で筒を作り、上下に動かす動作を交えて収め方の説明をする。後々セックスなどについてもちゃんと説明しなきゃな・・・。とナナミはしみじみと思った。
 ナナミ自身、親は共働きで忙しく、友達も碌にいなかったことから初めて夢精したときは不安でいっぱいになった。知らないうちに恐ろしい病気に罹っていて、もうすぐ死んでしまうのではないか、と思って泣いてしまった。でも両親に心配をかけたくなく、一人でこっそりパンツを洗ってそのことを黙ってたのだ。調べるのも怖くて、自分だけに起こった恐ろしいことだと思い込んでそのまま放置していた。が、それから何で知ったのか、漫画の一場面だったか覚えてはいないが、自分に起こったことがただの生理現象であったことを知ったのだ。その時の安心感といったら、言葉に表せなかった。
 だから、コンにもちゃんと説明して、安心してもらいたい。きちんとした知識を持って、知らないことからくる怖さを味わって欲しくないと思った。
「よくわかんない・・・・・・。ナナミ、教えて?」
 堪った涙が目尻からこぼれ落ちそうになりながら、そんな目でナナミを見上げてくるコン。彼が寛げた下着の中からは、勃ち上がったピンク色のペニスが顔を出していた。
「わかっ、た・・・・・・。手をこうやって丸めて――・・・」
 人に自慰を教えるという初めての経験に、やや言葉が詰まってしまう。見知った相手だからこその緊張感が、手の温度を奪っていった。
 コンの手を握ってその上から形を作り、それを彼の勃起したものに近づけ添える。
「こうやって、ゆっくり上下に擦ってみて」
 未だ不安げに見つめてくるコンに、大丈夫だと頷いた。だがコンは中心部から手を離し、再びナナミを見上げてくる。
「うまくできるか、わかんないっ・・・・・・ナナミも、してみせて・・・・・・」
「えぇっ!?」
  思わずだろう、大きく見開かれた目からこぼれ落ちた涙の粒と、自分に降りかかってきた火の粉に大仰に驚きの声を上げてしまう。律儀に自身に触れていない方の手で助けを求めるように服の裾を掴むその弱々しい力。
 体内はカッとした熱に支配されているのに、コンの泣き顔に胸をぎゅうと掴まれる。だが、やはり頭の中は恥ずかしさでいっぱいだった。
 『無理・・・無理無理無理!!!それだけは勘弁!!』
 普段客の前で前を晒す以上のことをしているというのに、改めて自慰を見せてというのは、とてつもなく恥ずかしく感じる。ナナミはブンブンと勢いよく首を横に振った。
「ナナミ・・・・・・」
 コンに似つかわしくない、蚊の鳴くような頼りない声。恥ずかしくないことなのだろうに、恥ずかしいと感じるのは恥ずかしいと感じる自分がいるからで・・・と考えるとよくわからなくなってきてしまい、軽いパニックに陥る。
 くん、とより強く服を引っ張られた。涙で濡れている頬を光らせ、上目遣いで見つめてくるコン。
「わかっ、た、よ・・・・・・」
 きっと顔面はあり得ないほど朱に染まっているだろう。それを意識しながら、ナナミは自身の前を寛げ始めた。じぃっと見られているのが、恥ずかしい。
 下着に手をかけ、まだ勃ち上がっていないモノを取り出そうとした瞬間、すごい音を立てて部屋の扉が開かれた。
「ちょっと、さっきコンがナナミくんの部屋行ったって聞いたんだけどぉ――ひゅっ」
「もっ、モモくん!?」
「チッ」
 飛び込んできたのはモモで、俺たちを見た瞬間『ギャフッ』と言って白目を向いて倒れてしまった。俺は前を整えてから大急ぎで駆け寄ると、背後で小さく舌打ちをする音が聞こえた気がしたが、気のせいだということにして倒れたモモの顔を覗き込んだ。
「なんかすごい音したけど大丈夫―?って、モモっ!」
「モモっ、大丈夫!?は、鼻血が出てる・・・」
 音を聞きつけてキャストたちが部屋に入ってくる。上半身を軽く起こして膝に乗せ、顔を覗くが目が開かれる気配がない。皆がモモに呼びかける中、コンはしれっとした様子で部屋から出ていこうとした。その顔にはもはや涙の影もない。コンもいきなりのことにびっくりして、涙も性欲も引っ込んだのだろうか。
「モモくんっ、モモくんっ」
「ん・・・・・・ななみ、くん・・・・・・ハッ!」
 良いのだろうかと不安に思いながら肩を揺すると、うっすらと目を開けピンク色の唇から名前が呼ばれた。よかった、意識が戻った・・・と思った次の瞬間、目を見開いたかと思うとバッと跳ね起きた。間一髪で“ごっつんこ”を回避し、ナナミは爆音を立てる心臓に手を当てる。
「ちょぉっと待てぃ、コン!!」
 そしてモモにしたら非常にドスの利いた声で、今現在部屋から出ていきかけていたコンのことを引き留めた。周りでモモを心配そうに見ていたキャストたちも視線をそちらへと向ける。
 モモは可愛らしい瞳をきりっとつり上げながら、コンを睨んだ。一方コンは、何かしたか?とでも言うような表情で、首を傾げている。
「お前っ、さっき僕たちが自慰のやりかた教えてあげたのに、またナナミくんに教えてもらおうとしただろー!しかも実演付きで!!」
「っはぁ!!?何それ!」
「コンっ、お前!」
 ナナミは突然の意味不明な言葉に、頭が真っ白になった。モモの発言の意味が、よくわからない。下着に付いた白い液体の正体も、それが何故出るのかも、そしてその出し方も、コンはすでに知っていた――?
 それが理解できた瞬間、じわじわと熱が頭へと上ってきた。それが頂点まで達し、耳から湯気が出そうなほどに顔が熱くなる。
「コン・・・・・・それ、本当?」
 恐る恐る、顔をコンへ向ける。嘘だといってほしい。だって、知らないと思って自慰の仕方を教えていたのだから。そんな恥ずかしいこと、ない。
 一縷の望みを託してコンを見つめると、彼はムスッとした顔をして悪気なく言い放ったのだった。
「あーあ、もうちょっとでナナミのオナニーが見れるとこだったのに」
 チェッと舌打ちをすると、彼はスタスタとその場から去って行った。ナナミは信じられない気持ちで、固まってしまう。モモ及び今の話を聞いていたキャストたちは全員、コンを糾弾すべく彼の後を追って行ってしまった。
 ナナミはその場から動けず、一人部屋に取り残される。
「・・・何コレ、はっず・・・・・・」
 独り言が、薄い性の香りのする部屋にぽつりと落ちた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

処理中です...