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54.迷える子羊なお客様
しおりを挟むさて、ここまで長い長―い回想のように俺の可愛いすぎる客たち(一部変態を含む)について語ってきました。思い返すと、本当に長かったな・・・・・・。しかも、客が全員癖が強い!ちょいMな兄弟ネコに元スパイちびっ子(この子もちょいM)、おっとり系隠れSにドM二人・・・って、M率高いな。それに加えてド変態と。正直最後に挙げた一人との思い出はできれば思い出したくないが、平時は比較的ちゃんとしてるんだよなー。みんなも、それぞれ癖は強いけど、一人一人いい人だし、接していてすごく楽しい。それに、可愛い。
そんなこんなでみんなに支えられながらこの一年を過ごしてきたわけですが、この先も癖の強い客が来店してくるのでしょうか。
「ナナミくーん、今空いてる~?」
などと、心の中で誰に言うでもなく宣っていると、カーテンを隔てたフロアから名前が呼ばれた。俺は『はーい!』と元気よく返事をしながら、カーテンを潜り呼ばれた方へ歩いて行く。
「座って座って。ちょっとナナミくんも聞いてよ!」
閉店時、今日は『上がり』はなく後は店内の片付けを終わらせるだけだったのでキャストルームに待機していたところ、最後のお客様を接客していたキャストたちに呼ばれたのだった。
そこにはほろ酔い気分のお客様がいて、その周りを数人のキャストが囲んでいる。引いて見るとまるで女子会のようにきゃっきゃとした雰囲気だ。
何だろう・・・?と思いながら俺も端っこの方に座らせてもらう。
「最近聞く噂なんだけど・・・・・・夜中過ぎになるとね、ここら風俗街で子どもの声が聞こえてくるらしいんだ」
やや雰囲気を作り顔に影を設けて話し出す常連客に、聞いているキャストたちが『きゃぁあ!』と悲鳴を上げる。その中でもモモとコンはシケた顔をしており、そのような話に興味はないらしい。
「でね、誰かの名前を呼んでいるらしいんだけど、その声が悲しそうで悲しそうで・・・・・・。その声の持ち主とばったり会ったりなんかしちゃったら――
「「っいやーー!!」」
「っもー!止めてくださいよそんな下らない話」
「そうそう。そんな話、僕全然怖くないもん。ねっ、ナナミくん?」
「ぅえっ!?あ、ああ」
呆れかえるモモに突然振られ、声が裏返ってしまったが慌てて返事をする。どうやら、コンもモモもこういう系の話に全くビビらないタチなのらしい。正直言うと、俺はすごく苦手である。ほんと、すごく怖がり。
「そっかぁー、コンくんとモモくんはつよいねぇ。よちよち」
「やめろっ!」
「あはははは」
コンを撫でては思いきり手を振り落とされる常連。だが全く気にした風もなく陽気に笑う彼のメンタルが俺はこわい。アンタも強すぎる、と言いたい。
「まっ、会っちゃったらどうなるかはわからないけど、最近夜にここら辺で子どもの声がするっていうのはホントらしいからさ。なんかあったらみんなナナミくんに助けてもらいなよ」
「「「はーい」」」
じゃあね、と言って料金を支払い店から出ていく彼の背に、ありがとうございましたと頭を下げる。みんな元気よく返事をしたけど、俺なんか全っ然頼りないからね!?と叫びたい。多分こわい目に遭ったら一目散に逃げるか即気絶しそう。そんなこと、目をキラキラさせて『守ってぇー』と言ってくるキャストのみんなの前で言えやしないけど。うん、可愛い。俺が守る(キリッ)・・・。
夜も更け、賑やかで明るい店の外は真逆のように真っ暗で静寂に満ちていた。そんな中、キャストたちの賑やかな声が漏れ出てきそうな『desire』の窓の外を、黒い影が横切っていったのだった。
ナナミは知らない。これから彼がどれだけ困難な客を相手にすることになるのか。そして、自分が想像もできないほど大きな渦の中に巻き込まれてしまうことも。
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